人形のお店
私は今とても悩んでいる。ゴーチェのお店にやって来て、自分のお人形を選んでいるのだ。
どの子も皆かわいいけど、よくよく見ると全部が違うお顔をしている。何回も何回も見直すうちに、候補が3つに絞られた。でも、そこからが進まないのだ
お店の店員さんが、3体のどこが気に入ったのか聞いてきた。
「1つ目は、唇がプルンとしていて好き。2つ目は目元のきりっとしたのがいい。3つ目は目の色が好き」
そう言ったら、目の色は変えられるから、1つ目と2つ目に3番と同じブルーグレイの目を入れましょうかと言われた。
工房から職人さんが来て、二つに同じ色の目を入れると、すごく印象が変わる。
そして私のお人形が決まった。
目の色に合わせて、ウイッグも取り替えてもらい、ブルーグレイの目にふわっとした淡い金色の髪になった。ドレスも、それに合わせて選び、教えてもらった通りに着替え用をもう一着選んだ。
この日の午後は、レジーナ侯爵家がお店を貸し切りで予約したので、私とリンス以外にお客さんはいない。二人で好きなだけ時間をかけて、ゆっくりと選ぶことが出来た。今日はなぜかネイトも同行していた。
ネイトは楽しそうに店内を見て回っている。私達は、初めのうちは彼を警戒していたが、すぐにお人形選びに夢中になって、気にならなくなった。
侍女達も、この同行者に面食らっていた。公務以外で王女に父親が接近するのは、初めての事だ。だからか、少し緊張気味に店の隅に控えていて、人形選びに参加してこない。
「ミーア嬢、お人形は決まったのかい。どれにしたの」
私がドレスまで全部着せ終わった人形を見せると、ネイトは手慣れた様子で人形の髪の毛をなでつけ、アクセサリーも必要だね、と言った。
「君、アクセサリーは?」
「こちらにございます」
ネイトは人形に合うピアスとネックレスを選んで付けてくれた。
驚いたことに、とても手慣れている。
「お人形に詳しいんですね」
「妻が持っているからね。今日は僕も人形のドレスと帽子とブーツを買ったよ」
そう言って、きれいにラッピングされた包みを見せてくれた。どうやら、ミーア達が夢中になっている間に、お買い物を済ませていたようだ。
「レジーナ侯爵様もゴーチェを持っているのですか?」
「ゴーチェとジュモーを持っているよ」
私は変な気分になった。女王も女の子なんだ。当たり前と言えば当たり前だけど、忘れていたような気がする。
でも、女王と一緒にお人形遊びは、出来る気がしない。
ミーアの人形は、きれいに整えてから、後で家まで届けてもら事になった。
店を出ると、このまま少しお散歩しようとネイトが言い出した。
ぶらぶらとゆっくり歩くネイトの横を、リンスが歩いている。リンスとネイトはよく似ているので、親子に見えるなあ、と思いながら、自分もそう言えば娘だなあ、とぼんやり考えていた。
ネイトの茶色の柔らかそうな髪がさらさらと風に揺れている。見栄えの良い男性だと思う。
やはり、以前宰相が言っていたように、トーナメントで勝ち抜ける男性は強いだけではなく、きれいで性格も良いのだろうか。だから、女王とも、あんなに仲がいいの?
道を歩く猫も、日向ぼっこして眠っている猫も、こちらを見ると、瞬きの挨拶をする。
やはり王族が揃っていると圧が強いのか、挨拶してから立ち去る猫が多かった。
犬もだ。たまに鼻面をくいっと上げる挨拶をする。
たまに貴族猫が歩いていて、そちらはお辞儀をして挨拶する。そしてその横を歩く少女達を見て不思議そうな顔をする。ネイトが子供と一緒にいる姿を、見たことがほとんどないせいだろう。というか、あの少女たちは誰だ? という感じだろうか。
ネイトが私に、何か許可が必要な事があるかと聞いてきた。
「今はないです。新しいお出かけ先は今のところ考えていないから。リンスはどこか行きたいところがある?」
「私は、ミーアの家に行ってみたい、かな」
ああ、家に来たいのか。それも楽しそうだけど、人間の家に遊びに来てもいいのかな?
「ネイト様。それは許可していただけますか?」
「いいよ。若い男性はいないのだったね。ノーザン伯爵は面識があるし、彼なら信頼できる。だけど、君の家にいる間は君が責任をもって王女を守ってくれよ」
わかりました。と私が答えるのと、リンスがうれしいと言うのが同時だった。
「我が家は人間の家です。だから、完全に人間でいてくださいね。猫の姿になったら駄目。それと、妹のバーバラは私が貴族猫なのを知らないから、絶対に秘密ですよ」
「絶対に大丈夫。猫になることなんてめったに無いもの。人間の家に遊びに行く日が来るなんて、考えもしなかったわ。次の時に行ってもいい?」
まずは、父に確認しないとね。ナタリー先生も呼ぼうかな。
「パーシーやビリーも呼びたいけど、若い男性は駄目なんですね?」
「うん。それは駄目なんだ。王女はね」
言い方から、絶対に譲れないことなのだとわかった。ただの慣習程度のことではない気がしたので、素直に従うことにした。
リンスは凄く喜んでいる。だからそれでいい。




