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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第二章 ミーアの困った姉妹たち

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王女様と遊んで考えたこと

「一緒に遊びましょう……か?」


 全く体を動かそうとも、こちらを見ようともしない王女に、私は話しかけてみた。結構、勇気がいる。


 相手に全くその気がないのにお誘いするのって、すごく気まずい。

 いつもはそんな相手にわざわざ話しかけたりしないが、今日はそのためにここにいるのだ。


 こちらから誘いかけなければ、この王女様は何もせずに、人形のように座っていそうだ。

 しばらくしてから、王女がこちらの方を向いた。


「何をしてくれるのかしら」


 うん? 何をしましょうか、かな。


「変身ごっこに、毛繕いごっこはどうでしょう」


「なぜ、そんなことをしないといけないの? もっと楽しい事があるんじゃないの?」


 楽しいと思うのだけど、駄目なようね。それならば、やっぱり刺繍かカードゲームか。

 思いつくものを並べてみたが、どれにも反応がない。むっつりしたままで不機嫌そうだ。


 どうしたら気に入るのでしょうか。私はお付きの侍女二人の方を見て、助言を求めた。二人共、困った顔をするだけで、どうしたらいいのかわからない様子だ。


 これは、本人に聞くしかないだろう。

「王女様は、今一番何がしたいですか?」


「私の目を見てちょうだい。先日の顔合わせで女王たちとやっていたように」


 そう言われて、素直に目をじっと見た。

 王女はすぐに目を逸らしてしまった。やはり、力の差がだいぶあるようだ。それは本能的にわかるので、半分くらいに出力を絞った感じで、相手の力をさぐったのだが、きつかっただろうか。


「もういいわ」


 プイっと横を向いて膨れたな、と思ったら、またおずおずと私の方を向く。


「なんで女王と王配と、二人いっぺんに対峙できるの? そんな人今まで一人もいなかったわ。二人共、貴族猫の中で一番強いのよ」


「それは、私が捨てられ猫姫だからです。二人の血を引いているから強いのだと思います」


 王女はむ~っとして、更に不機嫌そうになった。これが聞きたくて、わざわざ私をお友達に指名したのだろうか。


「あなたは、私の事覚えているの?」

「いいえ。でも、デザートをつまみ食いして、一緒にお腹を壊したのは覚えています」

「私もよ。それは覚えているわ」


 少しだけ、王女の表情が柔らかくなった。それを見計らったかのように、侍女がお茶の用意を始めた。ワゴンがガラガラと音を立てて、ティーテーブルの横に置かれ、あたりにいい匂いの湯気が立ち上り、甘いクリームとイチゴの匂いもしてきた。イチゴのホールケーキが華やかなお皿に載っている。


「お二人共、お茶の用意が整いましたので、こちらにお移りください」


 侍女に促されて、指示された椅子に座ると、ケーキを切り分けて皿に盛り、お茶を入れてくれた。

 王女にも同時にケーキとお茶が差し出される。侍女が一人に一人付いて面倒を見てくれるんだ。すごい贅沢。これが王女様扱い、というものなのだろう。


 ケーキのクリームがすごく美味しかった。こんなにおいしいのは初めてだった。


「このケーキ、すごく美味しいです。こんなの初めてです」


 興奮して言うと、王女が初めてにっこり笑った。


「いくらでもどうぞ。足りなければ追加を持ってこさせるわ」


「ここの侍女は、ケーキは一個までって言わないんですか?」


 王女は、また顔をくしゃっとさせて、言うわね、と口を尖らせた。


「でも、最近は大きくなったから、二個まではいいですって言うわ。あなたの家はどうなの?」


「家ではケーキは一個だけど、他のデザートを追加するのはいいんです。お出かけしてパーラーに行くときは、もっとたくさん食べても良くて、大きなプリンパフェとクレープシュゼットを食べるんです」


 思わず思い出してよだれが出そうになった。


「パーラーって何?」


「お茶やデザートを食べさせてくれるお店です。道行く人を見ながらおしゃべりして、きれいで美味しいデザートを食べるんです。お店には他のお客さんもいて、その人たちの服装を見るのも楽しいんですよ。今度一緒に行きましょう」


「私も、行けるのかしら?」


「今度、宰相に頼んでみますね」


 侍女たちがハラハラしている様子が見えたが、私は監禁反対派なのだ。それに宰相も考えたことが無いと言っていたから、考えてもらったらいいのだ。

 王女がパーラーに行って不都合な事なんて、一つも思いつかないもの。


「そしたら、一緒にプリンパフェを食べましょう。チョコレートパフェもいいし、イチゴのパフェも捨てがたいけど、プリンパフェが一番ボリュームがあるんです」


「う~ん。私はイチゴのパフェの方がいいかしら。プリンはあまり好きじゃないの」


「ええ? 美味しいのに。そういえば姉妹なのに、王女様と私はあまり似ていませんね」


 王女が私をじっと見た。

「あなたは女王似ね。私は王配似なのよ」


 私は王配の顔を思い浮かべてみた。そういえば、彼女の顔には面影がある。彼はかなりのハンサムだったから、王女も美少女だ。


 お茶を飲み終えたころにはだいぶ打ち解けて、普通の会話が成り立っていた。侍女達は大いに安堵している様子で、顔の強張りが消えていた。

 ただ私が、宰相や王配の事を話すごとに、ヒッと小さく息をのんでいる。

 そして小声で、やはり元王女様だけあって、普通の子供ではないのだわ、と言っているのが私には聞こえる。聞こうと意識したら、結構遠くの声まで拾えるのだ。


 その内、私が王女を変身ごっこに誘い、二人で変身を始めた。

 私はグレイの猫になった。王女はブルーグレイの猫になった。


「ブルーの猫は人間界にも普通はいないの。だからグレイの猫に変身しなくちゃいけないのよ」


 そう言って、私は毛の色を変える変身術を教え始めた。

 30分くらいすると、王女も少し毛の色が変えられるようになった。なぜかグレイではなく、茶色の毛色に変わる。王配の毛が茶色なんだそうだ。その色になってしまうのかな? 


「今度聞いて来るね。魔法学の先生か、貴族猫学の先生に聞けばいいかな」


「学校に通っているの?」


「ううん。貴族猫の基本教育をこの宮殿まで通って受けているの。今年からは人間の学校にも通うのよ」


 次は毛繕いよ。そう言って私は猫になり、毛を丹念になめ始めた。

 王女はぎょっとしたような顔をしたが、誘われて同じように毛を舐め始めた。


「これは、気持ちがいいわ。それに気持ちが落ち着く」


 だいぶ気に入ったようで、王女が嬉しそうに言う。当たり前だわ。


「ねえ、何で今までしなかったの?」


「だって、今まで猫になることが無かったから。ずっと人間の体で生活してきたので、猫の生活はほとんどしたことが無いの」


 私は腕を組んで王女を見つめた。これは問題がいっぱいありそうね。


「これからは私が色々と教えてあげる。一緒に学べって言われたもの。任せてね」


 

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可愛い。 とにかく可愛い。
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