王女様のご友人
誕生日から二週間後、宮殿からの呼び出しがあった。
私が一般教育の後に、宰相のもとに顔を出すと、すぐに椅子を勧められた。
「呼び出しのご要件を伺ってもいいですか?」
「王女様の友人として、ミーア嬢が選ばれたことをお伝えいたします。お受けいただけますかな? 王女様が直々にミーア嬢をご指名されました。王女様が誰かに興味を持たれたのは初めてのことです」
びっくりした。
「捨てられ猫姫なのに、いいの?」
はい。
「捨てられ猫姫なのは、今まで通り、貴族猫界には内緒ですか?」
はい。
「友人って何をするんでしょうか」
宰相がふうと息を吐き出した。
「それを今から一緒に考えてもらおうと思って、お呼びしました」
それからみっちりと話し合いをすることになり、まずは通常の場合の説明を受けた。
通常、ご友人は貴族猫の中で評判の良い少女が選ばれる。そして王女は彼女と一緒に学び、遊び、話をし、その関係の中で王女は友人との付き合いを学んでいく。
その後に、もう数人の少女が選ばれ、友人を四人くらいまで増やしていく。
だから最初の友人の役割は非常に重要なのだ。
ミーアが質問した。
「最初の友人とは宮殿で二人きりで会うのですか?」
「そうです。もちろん、いつもの侍女たちや教育係が周囲にいます。でも王女宮に新しく招き入れられるのは、ミーア嬢だけです」
「まさか、全く外にはでないの?」
宰相は黙って頷いた。
「王女が外に出るのは、猫の国か人間世界の公式な行事の時だけなのです」
ミーアは考え込んだ。
それでは監禁されているようなものだ。王女になっていいことって何?
それを、そのまま質問してみた。
「それはですね、きれいな宮殿に住み、おいしいものを食べ、それから……」
そこで詰まってしまった。
「ハンティングは宮殿でするの?」
「いいえ、王女はしません。必要がないからです」
どうだ、というように言う宰相に、私は、はっきり言った。
「それは本能で、生活で、娯楽だと思うの。禁止されたら頭が狂いそうよ。宰相もしないの?」
「まさか。しないではいられませんよ。あんな楽しい事」
そう言ってからハッとし、困ったように目をそらした。
「じゃあ、王女って人間の世界で言うと、生け贄みたいなもの?」
ぎょっとして首をブンブン振るが、私がジーッと見つめると白状した。
「そんな風に考えたことがないのです。王女は尊い存在、崇拝の対象、唯一無二の……」
ここでちらっとこちらを見て、つっかえた。
「とにかく、王女は女王に次ぐ貴族猫界の憧れの的なんです」
最後の方は無理やり言い切った感じだった。
よく知らずにかわいそうだと思うのはいけない。でも、知れば知るほどかわいそうだ。
「ねえ、女王になったら海に遊びに行ったり、パーラーでパフェを食べたりできるの?」
宰相が更に困った顔になった。
これも難しいのか。もはや国のための生け贄としか思えなかった。
友達を引き受けたら、週に2回くらい、宮殿に来ることになるという。
かわいそうなプリンセス・ブルーのために、何かできるならやってあげたい。
そう思ったので、この話を引き受けた。
最後に宰相が言った。
「これは貴族猫の世界では大きな栄誉なのですぞ。だから、そう思っておいてください。お願いだから、そんな憐れむような顔で、王女の前に立たないでくださいね」
うん、分かった。失礼だろうから気を付ける。
「ミーア嬢と接していると、当たり前だと思っていたことが違って見えます。改めて考えてみた方がいいのかも知れません」
そうよ。ハンティングや毛繕いは猫の権利。ハッとした。
「まさか毛繕いも禁止とかじゃないでしょうね」
「侍女がしますので……王女はめったに猫の姿にならないのです。青い姿を隠す意味からですが」
最初の遊びが決まった。
「じゃあ、初日は毛の色を変える遊びからね。そして毛繕いとジャンプ競走。それと猫ダンス」
「あ、あの、それは何か違う気がしますので、刺繍とか、絵本とか、カードゲームはどうでしょうか」
「それもやります。任せて。頑張るから」
王女のご友人としての登城は、その1週間後だった。
お父様が大張り切りで、一番似合うドレスを一時間も掛けて選び、帽子を被せ、靴を三回履き替えて、やっとお出かけの支度が出来た。
小さなポーチにハンカチと手鏡を入れて、私の手に持たせると、気を付けて行っておいで、と送りだしてくれた。
馬車でレジーナ侯爵邸に行き、門を通り抜けて、屋敷の入り口まで、庭園を眺めながら進む。
いつもは魔法移動しているので、こうやって来るのは初めてだった。
とても広くて、きれいな庭園だ。ここで、かくれんぼや鬼ごっこをしたら楽しいだろうな。
今度、宰相に聞いてみよう。もしかしたら、いいと言ってくれるかもしれない。
玄関に到着したら、執事が出迎えてくれた。こちらの屋敷はいつもの棟とは違い、公式の入り口のようだ。人間を迎えるときは、こちらを使うのだろう。
私も、人間の貴族令嬢として振る舞った。
「ミーア・ノーザンと申します。レジーナ侯爵令嬢にお招きいただきました」
そう挨拶すると、お待ちしておりました、ミーア・ノーザン伯爵令嬢と言って、プリンセス・ブルーの部屋に案内してくれた。
部屋というより、プリンセス・ブルーの住む棟だった。一棟丸々がプリンセス・ブルーに充てられていた。全体がすごくきれいな色合いで飾られていて、女の子の部屋? 家? という感じ。
「うわー、素敵」
その先の大きなドアを開けると、そこは広い広いお部屋で、その窓辺のソファに、プリンセス・ブルーが座っていた。
私を見てもピクリとも動かず、じっとしている。
執事が、王女の前まで、私を案内し紹介してくれた。
促されて、バレエの発表会の時と同じように自己紹介をした。
すると、ソファに寛いだ姿勢のまま王女が挨拶を時返してきた。
「ミーア、よろしく。プリンセス・ブルーよ」
何となく高飛車な態度に戸惑いながらも、思ったのだった。
王女様だな~。




