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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第二章 ミーアの困った姉妹たち

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泣いたミーア


  家に戻ると、屋敷がいつにもまして明るくにぎやかだった。

  門の外に立っただけで、お祝いごとがあるのが分かるほど。


  門から屋敷の入り口まで、ずっとランタンが置かれ、道が照らされている。松明も門近くと、屋敷近くにワンセットずつ置かれ、辺りを明るく照らしている。


『お帰り』と、『大好き』を明かりで表しているように見える。


 これが今日は特に胸に響いた。

 門が開けられ、ランタンの道を馬車で入り口まで付けて貰うと、すぐにドアが開いた。


 出迎える執事の後に、バーバラがちょっと隠れるような感じで立っていて、チラチラ覗いている。

 その後ろには、公演会場から一緒に伯爵邸に来ていた、パーシーとビリーとナターシャ先生の顔もある。皆、にこにこと嬉しそうな顔で出迎えてくれている。


 私はバーバラに駆け寄って、抱きしめた。

 ありがとうと小さく言うと、顔が真っ赤になるのが見えた。


 ふ、ふん。と言ってそっぽを向いている。相変わらずのバーバラ。

 お父様が、二人をまとめて抱きしめた。


「ありがとう。バーバラ。ありがとう。ミーア。二人がいてくれて、僕は世界一の幸せ者だよ」


 玄関で抱き合っている三人にパーシーが声を掛けた。


「こんな所でどうしたんですか。誕生日パーティーの雰囲気とは違うけど、何かありました?」


 お父様がウインクして言った。


「バーバラがミーアのために準備を頑張ってくれたんだ。感激してしまったよ」


 パーシーは何かを感じ取り、合わせてくれた。


「ああ、素晴らしいですよね。バーバラ嬢、お見事です。ミーア幸せだね」


 そう言われて、我慢していたものが切れた。


 目を見開いてパーシーを見つめたままで、涙だけが頬を転げ落ちていく。

 これには、パーシーも、バーバラも、使用人達も驚いた。

 口も手も出しかねて見守る中、お父様がもう一度私を抱きしめてくれた。


「優しいミーア、お前の気持ちはわかるよ。まずは私と話をしよう」


 使用人達に準備を進めるように指示し、パーシーとビリーとナターシャに、一緒に聞いて欲しいと頼んだ。

 他のお客様が来る時間まで一時間ほどある。その間にミーアを落ち着かせるから大丈夫だと、皆を安心させた。

 そして、気分の落ち着くカモミールティーを持って来てくれと、侍女に指示した。


 バーバラはいつものように拗ねたりせず、黙って準備に戻った。


 パーシー達と一緒に伯爵の部屋に入って座り、運ばれてきたカモミールティーをみんなで飲んだ。


 私には、こうやって慰めてくれる人達がいる。

 そう思うと、また涙が沸き上がって来る。

 その涙を、お父様がハンカチで拭きとってくれた。


「ミーアは幸せだね。でも、それでプリンセス・ブルーに負い目を感じることは無いんだよ。生き物は、それぞれの生を生きている。

 勝手に相手を不幸だと決めつけるのも違うんだ。もしかしたら、間違うかもしれない。人の気持ちの本当のところなんて、わからないものなんだよ」


 ナターシャ先生が私の横に座って、軽く抱きしめてくれた。


「女王の家族と対面したのでしたね。何があったか、教えていただけますか?」


 お父様は、私と女王一家との対面の様子をはじめから順に話した。

 そして自分が感じたことを話した。


「彼らはミーアに親子の情はおろか、好意すら持っていないのが分かった。それはプリンセス・ブルーに対しても同じだった。ミーアとプリンセス・ブルーも同じく、彼らに何の情もないようだ」


 パーシー達は、軽く驚いていた。普通の猫は親離れすると、親子の情を切るし、それは女王も同じだと知っていたが、何らかの感情があるものと思っていたようだ。


「ミーアがあくまで、伯爵家の長女として彼らに向き合った事が、うれしくて誇らしくて、僕の方が泣きそうだったよ」


 パーシー達は、その話にうんうんと頷いた。


「それに、最初、お互いに静かに見つめ合っていた間、僕は凄く緊張したよ。声を掛けてはいけないような緊張感がすごかった」


「それは、敵か味方かわからない相手に出会った時の本能です。しかも、自分と能力が拮抗している場合のみ。普通は一目で力の上下関係を判断し、立場が決まります。女王とそれをする力を持つ相手はめったにいませんよ」


 ビリーが説明してくれた。


「それで、どちらが先に目をそらしたんだい?」


 お父様が、確かね、と話し始めた。


「父親のネイトという人が、それは女王に対して不敬だと言ってから、一緒に目線を外した、かな。それまで、女王夫妻対ミーアで見つめ合っていたよね」


 ミーアは話に引き込まれて、泣くのを忘れていた。


「そうよ。二人共、体も魔力もとても強い個体だったわ」


「ミーア、猫の国最強の二人に対することができるなんて、どれだけ強いんだい」


「そうなの?」


 パーシーもビリーも、ナターシャ先生も、女王一人とでも、そんなことは出来ないと言う。

 お父様がおずおずと聞いた。


「そんなに強いと知られたら、やっぱり次の女王になれとか、もしくは逆に、目障りだとかならないかね?」


「それはありません。もう、次期女王は決まっています。そんな面倒なことはしませんよ」


「あっさりしているんだね。良かった」


 お父様はほっとしたようだった。


「じゃあ、ミーアは何を泣いていたの」


 三人は、私を取り囲んで聞いてきた。


「プリンセス・ブルーには周りに誰もいないの。両親もおじいさんも、お父様やバーバラも、茶黒コンビもナターシャ先生もいないの。

 もしかしたら私が彼女だったかもって思ったら、絶対に嫌で、でも彼女はそうで、悲しくて、でも私は幸せで、それで涙が出たの」


 あ、そういうこと、とビリーが言った。


「ミーア、多分プリンセス・ブルーは、それを不幸だと知らないと思う。こんなものだと思っているのじゃないかな。それがいいか、悪いかはわからないけどね」


 私は首をひねった。不幸だと思っていないのなら、不幸じゃないのよね。

 さっきお父様が言っていた、人の気持ちはわからないって、そのこと?


 う~ん。難しい。わからない。寝ようかな。


 パーシーが答をくれた。


「わからないことは、今度考えよう。今から誕生日パーティーだよ。バーバラも侍従長も侍女長も他の皆も、ミーアを心配して待っているんだよ」


「そうね。皆を安心させなくちゃ。あのバーバラが大人しくしていたもの。すごく心配しているのよね」


 お父様が相好を崩した。


「最近バーバラがかわいいんだ。すごく思いやりがあって、それを照れ隠しするのが、またまたかわいくて」


 エネルギーが満タンになった気がした。とにかく今、私を好きで、心配してくれているみんなのところに行こう。そしてみんなに大好き、ありがとうと言おう。


 私は急いでパーティー会場に向かった。会場で待っていた侍女長が、目が腫れていますよ、と叫び、慌てて目の周りを温めたタオルでほかほかにしてくれた。心もどんどん、ほかほかになって行った。


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