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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第二章 ミーアの困った姉妹たち

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誕生日とバレエ公演

 誕生日の日がやってきた。


 つまり、侯爵家の貸切公演の日。

 プリンセス・ブルーの誕生日。

 そして、私の実の両親と姉との初顔合わせ。子供の頃のことは、あまり覚えていないので、顔もうろ覚えだ。父に至っては会ったことすら無い。


 公演の緊張と、顔合わせの緊張と、どっちが嫌だろう。

 断然顔合わせだ。


 公演は大好きなナターシャ先生が一緒なのだ。だが顔合わせは、四人きりでするそうだ。想像しても、全く嬉しくない。


「ミーア、顔が怖いよ。そんなに不機嫌では、皆が心配するよ」


 お父様がそう言って頬を撫でた。

 その手に思いっきり頬を押し付けて、グリグリした。

 ちょうどバーバラが部屋からでてきて、その様子を見てムッとした。


「私もバレエ見たいのに。二人っきりで行くんだから。すんごい差別ってもんよ」


「ミーアは出演者だよ。私は頼み込んで、特別に許可をもらったんだ。バーバラも礼儀作法の勉強が終わったら一緒に見に行こうね」

 

 ため息をつきながら、私もバーバラに頼んだ。


「そうよ。私、今日は気が重いの。楽しくない用事があるの。だから、家で楽しい誕生日パーティーの支度をして、疲れて戻る私を慰めてくれない」


「う、そういうことなら、仕方がない。やってやろうじゃないの」


「ありがとう、バーバラ。それと、『すんごい』 という言葉は駄目よ。これからは、『すごく』、を使ってね」


「は~い」


 気も足取りも重く、私は家を出た。

  


 会場に着くと、早くもバレエ団の皆が集まっていた。

 お父様がお礼を言いに団長のところに行くと、侯爵様が伯爵様の席を用意してくださったので、そちらでご覧くださいと言われた。


 お父様はすごく喜び、すぐにお礼を言いに行きますと言っている。

 私より先に、女王にご挨拶することになるのだろうか。


 すると、従者の方が迎えにいらっしゃいました、と他の事務スタッフが伝えに来た。


 振り返ると、宰相が立っていた。

 お父様も面識があるので、気楽に近寄り、にこやかに挨拶をしている。

 私も一緒に挨拶をした。


「侯爵様が、今人気の高いミーア嬢のお父上である伯爵様に、ぜひお会いしたいと申されております。ご一緒に御観覧ください」


 うわあ、本当にそうなってしまった。

 さすがにお父様も、ちょっと困ったような顔をしている。


 団長が、凄いですね、と驚いた。


「めったにお目にかかれない、神秘の女王・レジーナ侯爵様直々の誘いなんて。伯爵様、ぜひ行っていらしてください。後でお話を伺いたいです」


 宰相が、もう一度、どうぞと言った。

 お父様は、よし、と気合を入れてその後に続いた。


 私が後姿を見送っていると、団長が傍に寄って来た。


「さあ、ミーア、そろそろ支度する時間だよ。今日はお祝いの日だから、楽しく踊ろうね。さあ、行こう」


 背中を押されて楽屋に入ると、パーンとクラッカーが鳴った。


「ミーア、お誕生日おめでとう」


 あ、サプライズだ。

 ケーキにロウソクが立っている。ミーアお誕生日おめでとう、と書かれたレインボーカラーの大きなケーキだ。綺麗。


 緊張していたからか、涙が出そうになった。

 すぐにロウソクに火が付けられた。


「さ、消して」


 思いっきり息を吸って、一気に十一本のろうそくを吹き消したら、気持ちもスッキリした。


 よし、食べるぞ。そして踊るぞ。


 皆で紙のお皿にケーキを乗せて食べるのは、すごく楽しい。

 きちんとテーブルで食べるのと味が違う気がする。そう言ったら、味は気分で変わるんだよ、と教えられた。


 そうなの?

 大きく切り取ったケーキを、いつもより大きく掬って口に運ぶ。淑女教育の先生には、失格と言われるだろうけど、口の中いっぱいにケーキが詰まって幸せだ。


 もう一度もっとたくさん口に入れた。

 大きなケーキは四口でなくなってしまった。家でもできるかな。バーバラが真似したら困るから、茶黒コンビと食べよう。

 重苦しかった気分が吹き飛び、やる気満々になった。

 ストレッチで体をほぐしたら衣装の準備だ。


 衣装を着ると、後はナターシャ先生がやってくれる。グレイの髪をきれいに撫で付け、コテでくるくるに巻き、キュとまとめてリボンで飾る。

 お化粧で目を大きくパッチリ見えるように描く。

 華やかで可愛い女の子が出来上がった。


 今日は誕生日だ。楽しい、嬉しい日なんだ。気分は一気に上がり、躍り上がる、のを必死に抑えた。

 実際に気分のまま躍り上がれば、人間の域を超えたパフォーマンスを披露してしまう。


 ナターシャ先生には、強く強く言い聞かされている。絶対に箍を外さないこと。

 言い逃れ出来ないから。いいわね。


 ハイ、ナターシャ先生。天井にぶつかるようなジャンプはしません。舞台の端から端までのグラン・パ・ドゥシャもしません。


 ナターシャ先生と二人で、全力のバレエが踊りたいな。猫の国だけの発表会はないのかしら。


 開演すると。すぐに出番がやってきた。

 舞台に出て、チラッと観客席を見ると、貴族猫がたくさんいた。子供から老人まで、皆が私に注目している。


 バレリーナとして、貴族猫としてのダブルの興味だろうな。私は貴族猫の集まりにはあまり出ていないから、知られていない。


 三割くらい人間もいる。貴族猫の客か、友人か、関係者のようだ。

 皆が劇に引き込まれていく様子が、手に取るように分かる。この瞬間がとっても好きだ。

 ミーアは特大の微笑みを浮かべた。


 場面が変わり、ナターシャ先生が入れ替わりで舞台に出る。

 私は床に座って、足のマッサージをしながら汗を拭いた。

 

 出番が終わった後の脱力感も大好き。本当はこのまま猫になって、丸くなって眠りたい。気持ちいいだろうな。

 ぼんやりしている所に団長がやって来た。


「ミーア、侯爵様が、君と話したいんだって。すごく魅力的だったと、お褒めの言葉をいただいたよ。

迎えが来ているから、着替えてから行っておいで」


 あ、そうだった。もう一つ用事があるんだった。

 私は舞台化粧を落とし、スタッフに少し手伝ってもらってドレスに着替え、待っている従者に案内されて、貴賓席に向かった。


 従者がドアをノックすると、中から宰相がドアを開けた。


「いらっしゃいませ、ミーア様。こちらへどうぞ」


 カーテンの向こうには、豪華なソファと椅子が置かれ、そこに侯爵夫妻と子供、お父様が座っていた。


 お父様はいつも通りで、立ち上がって前まで来るとぎゅうっと抱きしめて、素晴らしかった、可愛かったと褒めちぎってくれた。


 私もお父様が楽しそうでうれしかったし、腕の中が居心地良くてホッとした。そんな二人を、侯爵一家は黙って見ていた。

 勧められて私も椅子に座り、向かいに座る三人を観察した。敵か味方か分からない相手の観察は、お互いにじっと黙って行う。


 先ず強さ。これは両親ともかなり強い。身体能力も魔力も強い。

 目を合わせて相手の精神力を測る。お互いに目をそらさない。これもかなり強い。目の表情からして、頭も良さそうだ。

 美しさは人間の姿でも一級品だ。毛並みも良く、美しいだろう。

 王女は二人と比べるとまだ弱い。


 父親らしい人が話し始めた。


「ミーア嬢。女王に対するときは、もう少しへりくだらないと駄目だよ。大人の礼儀作法で習っただろ」


「まだ習っていません。失礼だったのなら、お詫びいたします」


 女王が観察モードを解き、ソファにもたれた。


「気にしなくていいわ。まだ教育前なら知らなくて当たり前よ。始めまして。私が女王で、レジーナ侯爵で、あなたの母親よ」


 ミーアも少し力を抜いたが、背筋を伸ばして挨拶した。


「はじめまして。ミーア・ノーザンと申します。ノーザン伯爵家の長女です」


 お父様が感激しているのが、横目に見えた。安定のお父様だ。

 次にプリンセス・ブルーに挨拶するよう言われたので、同じことを言った。

 父親らしき人は、自己紹介をしてくれた。


「女王の夫でネイトだよ。そして君の父親だ。よろしく」


 ミーアは同じ挨拶を返した。

 女王がミーアの踊りを褒めて聞いた。


「とても素敵だったわ。いつから習っているの?」


「二年前です。ナターシャ先生に教えてもらっています」


「そう。ナターシャも素晴らしいわ。ねえ、あなた」


 ネイトが手を差し出し、彼女の手を包み込んだ。そのまま目を見つめて微笑む。


「いいバレリーナだと思うよ」


 二人は、見つめ合って微笑んでいる。完全に二人の世界だ。


 プリンセス・ブルーは、退屈そうにしている。熱愛カップルと、たまたま横に座った子供? 

 少し離れて座る様子は、お互いに全く他人のようだ。だが、顔立ちは二人に似ているので、娘なのだと分かる。


 プリンセス・ブルーは寂しくないのだろうか。

 もっとも私だって、この二人に何も感じない

 今のところ、興味がわかないし、親近感も感じない。


 ただ、強い個体だと認識した。


 ぼんやりしているプリンセス・ブルーを見ると、彼女もこちらを見た。この子には、少し親しみを感じる。これが姉妹のきずなというものだろうか。


 もしかしたら、あっち側に座って退屈しているのは私だったかもしれない。

 そうしたら、おじいさんもいなかったし、お父様もバーバラもいない。

 ゾッとした。絶対に嫌だ。


 ナターシャ先生や茶黒コンビは、もしくはそういう人達が彼女の周りにいるのだろうか。聞こうと思ったところに、女王から質問が投げかけられた。


「ミーアは将来、貴族猫と結婚するの? それとも人間?」


「わかりませんが、主に人間界で暮らすと思います」


「そう」



 そこで対談は終わったようだ。

 宰相がスッと近寄り、事務的な口調で今後のことを話し始めた。


「今後、ミーア嬢が大人になるにつれて、猫の国、人間の国でも、皆様と接触する機会が増えると思われます。今回の公演が縁で知り合い、親しくなったということでお願い致します」


 ああ、そういうことか。

 知り合った場面を周知させるためなんだ。人間の世界にも、猫の国にも。

 退出の挨拶をして、廊下に出た後、宰相の横に行って背中をさすってあげた。宰相はピクッとして私を見つめ、フニャッと笑った。


「王族に労られたのは、私、初めてです」


 お父様も宰相の肩をぽんぽんと叩いた。


「苦労な仕事だね。でも、ミーアは王族じゃないよ。伯爵家の長女だ。そして次女もいる。今日ほど嬉しかったことはないよ」


 宰相が、失言でしたと謝ってから言った。


「貴方がた親子はとても幸せそうです。ミーア嬢と女王一家に血縁はあるけれど、親子の情がないのはおわかりですね」


 お父様は、良く分かった、と答えた。

 ミーアはさっき聞けなかったことを聞いてみた。


「プリンセス・ブルーとの間にも、親子の情がないのがわかったわ。彼女には親しい人はいるの?」


「侍女に囲まれて生活しています。十一歳になったので、今後女性の友人が選ばれます」


 ミーアはお父様にくっついた。何だか悲しかったのだ。彼女には両親も、両親代わりも、友達もおらず、侍女だけなのね。



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