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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第二章 ミーアの困った姉妹たち

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貴族猫の大人の礼儀作法教育の話


 ビリーが仲の良い親子の様子をニコニコしながら見ている。


「残念。うちの母親なんか、ミーアが家の子になればいいのに。一緒に女の子同士の遊びができるのにって愚痴って面倒くさいんです」


 すぐに私はその話に飛びついた。


「それって、どんな遊び?」


「さあ。俺は男だし、後兄貴が二人いるだけだから知らないよ。

 ああ、だから女の子と遊びたいんだな」


「遊びに行きたい。女の子の遊び、やりたい」


「じゃあ、今度家にお出で。歓迎します。レディ・ミーア」


 そこからはお父様とビリーの話し合いになった。貴族の家にお呼ばれは初めてだし、貴族猫の家に行くのも初めてなのだ。


「馬車で迎えに来るから、ミーアと伯爵様の二人で来てください。伯爵を猫の国は信頼しています。

 その後ミーアだけ残してお帰りになるか、僕と一緒にポーカーでもするか。まあ、女の子の遊びには参加出来ませんから」


「それはいいね。ミーアのおかげで楽しい友達が増えて嬉しいよ」


 パーシーが僕も当日は混ぜてくれ、と言いながらちょっと確認ですが、と切り出した。


「バーバラにはミーアのことは話したのですか?」


「まだだよ。あの子がどんな反応を示すか想像もつかないからね。ミーアにも、しばらくは、猫にならないように言っているんだ。猫をどう扱うかも分からないし」


「ああ、まさか乱暴なことはしないと思うけど、ミーアは強化術は習ったのかな?」


「ええ、もう覚えたわよ。馬車に引かれても弾き飛ばせるって」


「それは強力だね。さすがミーアだ。じゃあ、馬に蹴られた時に、傷ついたふりをしながら素早く逃げる演技は?」


 突然ミーアが猫になって、床に転がった。そして片脚を少し引きずりながらよろよろと、しかし素早く壁際に飛び退った。


「見事な演技だ。ミーア、バレエだけでなく女優もできるよ。シェークスピア劇場の主演女優になれる」


 叫んだのは、もちろんお父様だ。

 だけど、二人も感心した風に、なかなか、と言う。


 パーシーは私を抱き上げて、しげしげと見た。

 

「それにしても完全にブルーだね。もうグレイが残っていないよ。これ以上濃くは成れないだろうから、これからどうなるのかな?」


 それについては、生物学と、貴族猫学と、医学の学者達が調べたがっているそうだ。ミーアの成長記録をびっしりと書き留めているらしい。よく授業中に何人も観に来ている。

 私は人間に戻った。きれいなブルーのワンピース姿だ。


「ああ、あれって学者さんたちなのね? いつも見学者がたくさんいるわよ」


 コホン。


 うん? お父様がなんだか変な顔をしている。


「コホン。あ~、ミーアはもうすぐ十一歳だ。猫になった状態でも、そうやって無造作に抱っこするのはどうなんだろう」


 ああ、そういう心配かあ。そろそろお年頃の私にも、心配の内容が分かった。


「そうね、例えばナタリー先生を抱っこして撫で回すのは、駄目な気がする。でも、抱っこしてさすってもらうのは気持ちいいから、拒否できないなあ。それは、どうしているの?」


 ビリーが答えてくれた。


「あ~そうか。ミーアはまだ子供枠だけど、十一歳からは子供扱い禁止だね。通常は、相手が猫の形態の場合、抱っこしてもいいか聞くのが礼儀だ。それは男女問わずだよ」


 パーシーも、そうだなあ、と言って考えている。


「そろそろ、大人の礼儀作法の勉強が始まる頃だね。礼儀作法から性教育まで、大人の貴族猫の勉強期間があるんだよ。貴族猫は、妊娠の機会が少ないから、間違わないよう、きっちりと教育が行われる。でないと残念なことになるからね」


 お父様は、へどもどしている。そして誰にともなく言った。


「まだ十一歳の娘に性教育だって? 冗談じゃあない。ミーアはいつまでも私の娘だぞ」


 パーシーがお父様の肩に手をのせ、なだめるように叩いた。


「早めの教育が大切です。ショックなのはわかります。僕の父も、妹の教育の前に同じような事を言って、母に叱られていましたよ」


 お父様は縋りつくような目でパーシーを見つめ、貴族猫でも同じなのかね? と聞いた。


「全く、同じですね。娘に対しては。そして母親は逆です。しっかり学ぶよう言い聞かせていました」


 ビリーも、そうそう、とあいづちを打つ。


「妊娠は多くて一生に三回しか機会がありません。しかも王女猫は一回きりです。どうです? 間違えたら取り返しが付きませんよ」


 そう言われて、お父様は答えに詰まったようだ。

 私も、考えてみた。人間のように何回も機会があるわけでは無いのだ。しかし、その三回の機会はどうやって訪れるのだろう?


 私が聞いてみると、それは貴族猫の秘密。だからこその大人教育なんだよ、と返されてしまった。


「大丈夫です。全てが大人の貴族猫としての必要知識で、有益なものです。十一歳になる頃に連絡が来ますので、よろしくお願いします」


 私は意気消沈したお父様を慰めた。

 今でこれなら、恋人が出来たら泣くのじゃないかしら。それも私の時と、バーバラの時の二回も。そんなことを考えた。




 その数日後、以前から言っていたブティックへ行くことになった。

 バーバラは不機嫌だ。着る物がこんなにあるのに、なぜもっと作らないといけないのかわからないとむくれている。


 私もそう思ったが、ブティックの後のパーラーがメインイベントなのだ。バーバラにこっそりとそう教えると、バーバラの機嫌がなおった。


「ミーアはバーバラの扱いがうまいね。こつを教えて欲しいくらいだ」


 


 バーバラにはベルという専任の侍女が付いている。だから今回は私とルル、バーバラとベル、それにお父様の五人でお出かけした。


 ブティックでは、以前と変わらずルルが張り切り、今回はベルもいるので、その熱量が倍に増えていた。

 私は早めに、これが欲しいと言い切り、着せ替えごっこにピリオドを打った。

 慣れていないバーバラは、昔の私と同じように、お人形扱いされ振り回されていた。シルクや綿の布地やリボン等に埋もれ、目があちこちにさまよい続けるバーバラを、私は助けに入った。


 ところがだ。


 なぜだか、ルルとベルと私の三人で、バーバラで人形ごっこをしてしまった。これが思いがけないほど楽しいのだ。

 なるべくバーバラに似合う、可愛く見える物を選ぼうと必死になり、時間がどんどん経ってしまう。


 やっと選び終わった時には、バーバラは疲れ果てたせいか、すごくおしとやかになっていた。


 私は心の中で、ごめんねバーバラ、と謝り、手をつないでパーラーに向かった。


 いつもの窓辺の席に案内され、お父様にするのと同じように背中をさすってあげながら、お勧めのメニューを説明した。


「一番たくさん食べられるのが、このプリンアラモード。フルーツがいっぱいなのがフルーツパフェ。一番こってりなのがチョコレートパフェ。それでね、クレープシュゼットはお父様と分けて食べるのよ。どれにする?」


 バーバラの目に生気が戻って来た。


「チョコレートパフェって、チョコレートが乗っているの?」


「チョコレートとバニラのアイスクリームに生クリームとチョコレートソースが掛かっていて、チョコレートでの飾りとバナナが飾ってあるの」


「なに、それ。天国の食べ物? 私絶対にそれ」


「じゃあ、私はプリンアラモードね」


「クレープシュゼットって何?」


「クレープをオレンジソースで焼いたもの。熱くてアイスが解けて、すっごくおいしいの」


 早速お父様が注文をしてくれた。クレープシュゼットは三人分になるよう増やしてもらい、いつものように目の前でフランベされ、一皿ずつに取り分けてもらった。


 クレープのフライパンにぼっと火が上がると、バーバラが喜んで笑った。

 一口、口に入れたとたん、全身に喜びがあふれるのが分かった。そして、そのまま、すごい勢いでペロッと平らげた。

 お父様が、これも食べなさい、と自分の皿をバーバラの方に押しやった。それもすぐに無くなったので、私の分も、バーバラにあげた。


 もしかしたらお腹一杯になってしまうかもと心配したが、次に運ばれたチョコレートパフェも、おいしそうにパクパク食べた。更に私のプリンも半分食べた。


「バーバラってすごくかわいいのね」


「え、急に何を言うのよ」


「うん。なんだか、すごくかわいいなあって思ったの」


「ふ、ふん。変な奴」


 バーバラはそっぽを向いて口を尖らせたけど、顔は嬉しそうだった。



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