茶黒コンビとの昼食会
旅行から帰って三週間ほどしたころ、茶黒コンビが遊びに来た。
「ミーア、旅行はどうだった? 楽しかったかい」
「最っ高よ。海、大好き」
「ほーっ。いいなあ、俺も行くぞ、海で昼寝だ」
ビリーが吠えた。
そこにお父様が、バーバラを連れてやってきた。
「やあ、いらっしゃい。今日は二人に僕の娘を紹介するよ。バーバラだよ。さあ、バーバラ、挨拶して」
バーバラが優雅にお辞儀をして、挨拶した。
お父様は自慢そうに、ふふふと笑っている。
私が替わって、バーバラの事を説明した。
「旅行から帰ってすぐに見つかった、お父様の本当の娘よ。そして私の一か月年下の妹なの」
おお、と二人が驚き、それからお祝いを述べた。
「伯爵様、おめでとうございます。良かったですね」
「ありがとう。私のかわいい、かわいいバーバラが、戻って来たんだよ」
みんなで一緒にランチはどうだいと言い、お父様は二人分の席を追加すよういいつけに行った。
お父様が茶黒コンビを紹介するのを忘れているので、私が紹介を替わった。
「こちら、バイオリニストのパーシー、こちらは伯爵子息のビリーよ。レジーナ侯爵家で従僕をしているわ。私とお父様の友達なの」
二人が、よろしくバーバラ嬢と挨拶した。
バーバラは二人をじっと見て言った。
「ふう~ん。二人共結構いい男ね。片方は貴族なのね。きっと金持ちよね」
あまりにあけすけな言葉に、二人はびっくり顔になった。
「バーバラはこの間まで、旅の商団で働いていたの。だから今、淑女教育の真っ最中なのよ。もう少ししたら、淑女になるわ」
そりゃあ大変そうだなあ、と二人はつぶやいたが、私もお父様も大変だとは全く思っていなかった。
「それは、頑張ってね」
二人は何かもっと言い足したそうだったが、激励だけしてくれた。
バーバラが部屋から出ていった後、パーシーが私に聞いた。
「ミーア、本当の娘が現れて、君は寂しくないかい? 今までは一人娘だったのが、二人になって、伯爵の関心も半分になっただろ」
「うーん。そういえば、お父様がバーバラを構っているのを見ると、なんとなくモヤッとするけど、それのこと?」
「そう、それを嫉妬と呼ぶんだ。下の子供が生まれて、親の関心が薄れると、そういう気持ちになる。人間でも貴族猫でも、それは一緒だよ」
「いつ治るの?」
「慣れたらかなあ。それに加え、バーバラは探し続けていた本当の娘、君は養女だ。しかも種まで違う。もしこの先、居心地が悪くなるようなら、すぐに俺たちか宰相に言えよ。君を引き取りたい家は、たくさんある」
「ありがとう。心配してくれるのね」
執事が、昼食の支度が整ったのを伝えに来た。
食堂では、お父様とバーバラが待っていた。
「お待たせしました」
私がそう言って椅子に座ると、バーバラが毒づいた。
「遅いよ、すっかり腹ペコだよ。どうしてくれんのよ」
パーシーとビリーはビクッとして、椅子に座ろうとしたまま動作が止まった。
「言葉遣いが淑女失格よ。まだまだね」
私はそう言って、溜息をついた。
「なんていえば良いんだよ」
「そうね。お待ちしてました。さっそく食事にしましょう、かなあ」
バーバラがチラッと伯爵を見ると、伯爵がウンウンと頷いた。
「言ってみて」
「お待ちしてました。さっそく食事にしましょう」
私は軽く体を前に倒して答えた。
「お待たせして申し訳ありません」
そして食事が始まった。
バーバラはスープを食べるのに魚用ナイフを取った。
伯爵が、それは違うよと教え、正しいスプーンを侍女が手に取り、スープ皿の前に置いた。
「どれでもいいじゃない。スープを飲めれば」
私が、手に持っているスプーンで食べてごらんなさいと言い、バーバラがその通りにした。ほとんど飲めなかった。
「次に、差し出されたスプーンでどうぞ」
バーバラが、スープ用スプーンで一口飲んで、あ、これだねと言った。
「そうよ、色々とあるのには訳があるの。正しいのを使ったほうが楽なのよ。それから、スープは飲む、ではなく食べると言うのよ」
「よく分かった。ミーアが言うことはわかりやすいよ。先生たちもミーア位わかりやすく教えてくれたら良いのに」
メインの鶏の悪魔風では、バーバラは皿をキーキー引っ掻きながらナイフを使った。今回もお父様が、皿にナイフを立てないで、肉だけ切るようにと言った。
肉だけ切ったら切り分けられなかったようで、全部繋がってしまっている。ナイフとフォークで両側に引っ張って分解しようと必死になっている。
私は自分の分を四分割くらいに切って、皿を交換してね、と給仕係に頼んだ。給仕係が鶏肉と格闘中のバーバラに、皿を交換しますと告げ、私が切ったものと交換した。
バーバラがこっちを見た。
「大まかに切ったから、それを一口分だけ切りやすそうな所から切ってみて」
バーバラはナイフとフォークを、私を真似て持ち、ゆっくりと肉を切った。静かにスッと切れた。
そして自慢そうにニッと笑い、パクリと食べた。
「上手ね。食べる時、口を閉じておくと満点よ」
バーバラは、素直に口を閉じて、もぐもぐと咀嚼した。
「素敵よ」
そして私はパーシーに向いて言った。
「これが嫉妬ね。早く慣れたいわ」
パーシーとビリーは、笑いたそうでいて困ったような変な顔をしたが、結局黙っていた。
午後の授業を受けるバーバラが部屋に戻り、四人で窓辺のテーブルに移動した。
パーシーがバーバラの様子を伯爵に聞くと、伯爵は、それはもう嬉しそうに喋り始めた。
「彼女はね、行商人の中で育ったから、少し言葉が乱暴だけど、素直で良い子なんだよ。ちゃんと言うことを聞くし、頭も良さそうだ。それに可愛いだろう?」
二人はしっかりと頷き、とてもチャーミングなお嬢様ですねと言った。
その時、パーシーとビリーの耳が少しピクリとしたので、私には、ちょっと嘘が混じっているのがわかった。
特にビリーは、さすがに人間界の貴族だけあって、言葉や態度の作り方は完璧だ。でも、猫の本性がそれを裏切る。人間には分からないのかもしれない。
でも、おかしい。バーバラは元気が良くて素直で可愛いと思うのだけど?
伯爵はそのままずっとバーバラのことを褒めている。凄い肺活量に感心する。これが父親の愛というものだろうか。
それが急にミーアに向けられた。
「それにしてもミーアは凄い。この子のおかげでバーバラも、この屋敷になじめたのだよ。さっきのテーブルでの導き方を見ただろ。使用人全員がミーアに感謝しているんだ。あの子はミーアには一目置いているようで、素直に言うことを聞くのだ」
二人は、先ほどは感動しましたと答えた。今度は本心のようだ。
私はバーバラを真似て、えっへんと胸を張った。
二人はこうして、お互いにだんだん似ていくのだろうか。
そんな事を、考えている間、伯爵はノンストップでミーアの自慢を続けた。これは義父の愛だな、と思った。
パーシー達が笑いだして、話が止まった。
「この分なら、ミーアが寂しくなることはありませんね。本当の娘が戻って、ミーアが邪魔者扱いになったらと心配したのです。失礼しました」
伯爵が、心底心外だという顔で憮然と言った。
「そんなこと、あるはずないだろう。ミーアは私の娘だ」
張った胸がくすぐったい感じになり、お父様、と言って背中に張り付いて、首筋に頭をグリグリ押し付けた。
お父様が、頭をポンポンと軽く触り、お前が大好きだよと言った。




