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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第二章 ミーアの困った姉妹たち

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茶黒コンビとの昼食会

 旅行から帰って三週間ほどしたころ、茶黒コンビが遊びに来た。


「ミーア、旅行はどうだった? 楽しかったかい」


「最っ高よ。海、大好き」


「ほーっ。いいなあ、俺も行くぞ、海で昼寝だ」

 ビリーが吠えた。


 そこにお父様が、バーバラを連れてやってきた。


「やあ、いらっしゃい。今日は二人に僕の娘を紹介するよ。バーバラだよ。さあ、バーバラ、挨拶して」


 バーバラが優雅にお辞儀をして、挨拶した。

 お父様は自慢そうに、ふふふと笑っている。


 私が替わって、バーバラの事を説明した。


「旅行から帰ってすぐに見つかった、お父様の本当の娘よ。そして私の一か月年下の妹なの」


 おお、と二人が驚き、それからお祝いを述べた。


「伯爵様、おめでとうございます。良かったですね」


「ありがとう。私のかわいい、かわいいバーバラが、戻って来たんだよ」


 みんなで一緒にランチはどうだいと言い、お父様は二人分の席を追加すよういいつけに行った。


 お父様が茶黒コンビを紹介するのを忘れているので、私が紹介を替わった。


「こちら、バイオリニストのパーシー、こちらは伯爵子息のビリーよ。レジーナ侯爵家で従僕をしているわ。私とお父様の友達なの」


 二人が、よろしくバーバラ嬢と挨拶した。

 バーバラは二人をじっと見て言った。


「ふう~ん。二人共結構いい男ね。片方は貴族なのね。きっと金持ちよね」


 あまりにあけすけな言葉に、二人はびっくり顔になった。

 

「バーバラはこの間まで、旅の商団で働いていたの。だから今、淑女教育の真っ最中なのよ。もう少ししたら、淑女になるわ」


 そりゃあ大変そうだなあ、と二人はつぶやいたが、私もお父様も大変だとは全く思っていなかった。


「それは、頑張ってね」


 二人は何かもっと言い足したそうだったが、激励だけしてくれた。



 バーバラが部屋から出ていった後、パーシーが私に聞いた。


「ミーア、本当の娘が現れて、君は寂しくないかい? 今までは一人娘だったのが、二人になって、伯爵の関心も半分になっただろ」


「うーん。そういえば、お父様がバーバラを構っているのを見ると、なんとなくモヤッとするけど、それのこと?」


「そう、それを嫉妬と呼ぶんだ。下の子供が生まれて、親の関心が薄れると、そういう気持ちになる。人間でも貴族猫でも、それは一緒だよ」


「いつ治るの?」


「慣れたらかなあ。それに加え、バーバラは探し続けていた本当の娘、君は養女だ。しかも種まで違う。もしこの先、居心地が悪くなるようなら、すぐに俺たちか宰相に言えよ。君を引き取りたい家は、たくさんある」


「ありがとう。心配してくれるのね」



 執事が、昼食の支度が整ったのを伝えに来た。

 食堂では、お父様とバーバラが待っていた。


「お待たせしました」


 私がそう言って椅子に座ると、バーバラが毒づいた。


「遅いよ、すっかり腹ペコだよ。どうしてくれんのよ」


 パーシーとビリーはビクッとして、椅子に座ろうとしたまま動作が止まった。


「言葉遣いが淑女失格よ。まだまだね」

 

 私はそう言って、溜息をついた。


「なんていえば良いんだよ」


「そうね。お待ちしてました。さっそく食事にしましょう、かなあ」


 バーバラがチラッと伯爵を見ると、伯爵がウンウンと頷いた。


「言ってみて」


「お待ちしてました。さっそく食事にしましょう」


 私は軽く体を前に倒して答えた。


「お待たせして申し訳ありません」


 そして食事が始まった。


 バーバラはスープを食べるのに魚用ナイフを取った。

 伯爵が、それは違うよと教え、正しいスプーンを侍女が手に取り、スープ皿の前に置いた。


「どれでもいいじゃない。スープを飲めれば」


 私が、手に持っているスプーンで食べてごらんなさいと言い、バーバラがその通りにした。ほとんど飲めなかった。


「次に、差し出されたスプーンでどうぞ」


 バーバラが、スープ用スプーンで一口飲んで、あ、これだねと言った。


「そうよ、色々とあるのには訳があるの。正しいのを使ったほうが楽なのよ。それから、スープは飲む、ではなく食べると言うのよ」


「よく分かった。ミーアが言うことはわかりやすいよ。先生たちもミーア位わかりやすく教えてくれたら良いのに」


 メインの鶏の悪魔風では、バーバラは皿をキーキー引っ掻きながらナイフを使った。今回もお父様が、皿にナイフを立てないで、肉だけ切るようにと言った。


 肉だけ切ったら切り分けられなかったようで、全部繋がってしまっている。ナイフとフォークで両側に引っ張って分解しようと必死になっている。


 私は自分の分を四分割くらいに切って、皿を交換してね、と給仕係に頼んだ。給仕係が鶏肉と格闘中のバーバラに、皿を交換しますと告げ、私が切ったものと交換した。


 バーバラがこっちを見た。


「大まかに切ったから、それを一口分だけ切りやすそうな所から切ってみて」


 バーバラはナイフとフォークを、私を真似て持ち、ゆっくりと肉を切った。静かにスッと切れた。

 そして自慢そうにニッと笑い、パクリと食べた。


「上手ね。食べる時、口を閉じておくと満点よ」


 バーバラは、素直に口を閉じて、もぐもぐと咀嚼した。


「素敵よ」


 そして私はパーシーに向いて言った。


「これが嫉妬ね。早く慣れたいわ」


 パーシーとビリーは、笑いたそうでいて困ったような変な顔をしたが、結局黙っていた。



 午後の授業を受けるバーバラが部屋に戻り、四人で窓辺のテーブルに移動した。

 パーシーがバーバラの様子を伯爵に聞くと、伯爵は、それはもう嬉しそうに喋り始めた。


「彼女はね、行商人の中で育ったから、少し言葉が乱暴だけど、素直で良い子なんだよ。ちゃんと言うことを聞くし、頭も良さそうだ。それに可愛いだろう?」


 二人はしっかりと頷き、とてもチャーミングなお嬢様ですねと言った。

 その時、パーシーとビリーの耳が少しピクリとしたので、私には、ちょっと嘘が混じっているのがわかった。


 特にビリーは、さすがに人間界の貴族だけあって、言葉や態度の作り方は完璧だ。でも、猫の本性がそれを裏切る。人間には分からないのかもしれない。


 でも、おかしい。バーバラは元気が良くて素直で可愛いと思うのだけど?


 伯爵はそのままずっとバーバラのことを褒めている。凄い肺活量に感心する。これが父親の愛というものだろうか。

 それが急にミーアに向けられた。


「それにしてもミーアは凄い。この子のおかげでバーバラも、この屋敷になじめたのだよ。さっきのテーブルでの導き方を見ただろ。使用人全員がミーアに感謝しているんだ。あの子はミーアには一目置いているようで、素直に言うことを聞くのだ」


 二人は、先ほどは感動しましたと答えた。今度は本心のようだ。


 私はバーバラを真似て、えっへんと胸を張った。

 二人はこうして、お互いにだんだん似ていくのだろうか。


 そんな事を、考えている間、伯爵はノンストップでミーアの自慢を続けた。これは義父の愛だな、と思った。

 パーシー達が笑いだして、話が止まった。


「この分なら、ミーアが寂しくなることはありませんね。本当の娘が戻って、ミーアが邪魔者扱いになったらと心配したのです。失礼しました」


 伯爵が、心底心外だという顔で憮然と言った。


「そんなこと、あるはずないだろう。ミーアは私の娘だ」


 張った胸がくすぐったい感じになり、お父様、と言って背中に張り付いて、首筋に頭をグリグリ押し付けた。

 お父様が、頭をポンポンと軽く触り、お前が大好きだよと言った。


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