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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第二章 ミーアの困った姉妹たち

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本当の娘が見つかった日

 次の日は念願の海への探検に出かけることになった。

 朝食をたくさん食べ、登山に向けて、しっかりした靴とズボンを履こうとした私を、ルルが止めた。


「海辺のファッションは軽やかにが鉄則です。そんなゴツい靴を履くなんて言語道断」


 そう言って、ひらひらした薄い布地のワンピースとサンダルを差し出しだされた。


「不安だわ」


「ルルが保証します。崖登りは無しです。サンダルで砂浜を歩くのですよ」


 仕方なしにひらひらワンピースに着替え、昨日の麦わら帽子を被った。

 バッチリだった。やはりもう一つ買って帰ろう。


 そして三人で歩いて海へ向かった。

 ホテルの前の通りを進み、左に曲がって同じようなお店が並ぶ道を歩き、途切れたところから砂の地面になっていた。


 猫の本能が騒ぐ。

 掘れ、と。

 ウズウズしている私の腕をルルが引っ張った。


「お嬢様、あれが海ですよ」


 砂の地面の向こうに水がたくさんあった。どこが端か分からなかった。とにかくずっと遠くまで水がある。

 それがこっちに向かって寄せて来て、また戻っていく。あっちの端でこぼれていくのだろうか。

 砂の土は砂浜と言って、川から海に流れた砂が、海が寄せたり引いたりした時に運ばれて、こんな風になるそうだ。

 ルルは物知りなのだ。


 私はしばらくぼーっと波が寄せて返すのを見ていた。風が湿っている。

 なんだかおいでと波に呼ばれているような気分になり、怖くなった。


「ルル、海はどのくらいの深さがあるの?」


「一番高い山より深いところもあるそうですよ。でも大丈夫。この浜辺はずっと浅いままです。旦那様がちゃんと安全な浜辺を選んでくださったのです。だから安心して遊んでください」


 サンダルのまま、少し水がかかるところまで行ってみた。水が足先をサラサラ流れていく。少し冷たいけど気持ちいい。お父様は靴と靴下を脱ぎ、ズボンをまくってもっと先まで歩いて行った。


 私も後ろをついて進んでみた。足首の上まで水が来る。水を覗いたら、小さい魚が見えた。

 ハンティングだ。


 私は手で魚を掬った。やった。手のひらの水に魚が入っている。


 グレイの目立たない魚だ。食べようかな、と思ったが、貴族猫教育で教わった事を思い出した。

 人間は魚を生きたまま食べません。もし魚を捕まえても、人がいる場所では食べては駄目です。


 魚をじっと見つめていたら近くにいた女の子達が寄ってきた。


「魚、捕まえたの? 素手で? あなた、凄いわ。見せて」


 すごく褒められたので、一緒に魚掬いをして遊んだ。ワンピースはすっかりびしょ濡れになっていた。


 海は軽装で来るもの。ルルは正しい。

 そのまま一旦ホテルに戻り、お昼ごはんを食べてから水着に着替えた。


「ねえ、これでなきゃ駄目? 普通のワンピースとかは?」


「駄目です。危ないんですよ、ちゃんと水着を着ないと」


 渋々水着を着て、その上にバスローブみたいなのを羽織り、ブツブツ言いながらまた海に向かった。


 この水着はとっても嫌い。でも、そんな事を忘れるほど海が楽しかった。

 浮き輪を持って水にプカンと浮き、手足をバタバタすると前に進む。

 もう、面白くって、ルルとお父様に帰るよと言われても、何回も後少しとおねだりした。


 そんなわけで、毎日水着を洗ってもらい、毎日それを着て泳ぎに行った。

 窓の外にブランと干した様は、まるで長毛種の猫だ。それもかなりだらしない感じの。


 でも海で泳ぐ楽しさには勝てない。どうにか、もう少し見栄えの良い水着が作れないだろうか。


 お父様は主に浜辺で昼寝をしていた。極楽だと何回も言っていた。そしてすごく満足そう。


 楽しい休暇は、あっという間に終わってしまった。

 なんとなく疲れたような、気だるい感じで、家に向かう馬車の中も静かだ。


 パイナップルはもちろん買ったけど、そしてもちろん美味しいけど、何か違う。

 旅行が終わってしまったからだろうか。

 何だか寂しかった。



 家に着いたら、ほっとして嬉しかった。

 旅もいいけど家もいい。


 皆にただいま、と元気に挨拶すると、使用人たちが出迎えてくれて、ワイワイ賑やかになった。そんな中で執事が、場にそぐわない不安そうな顔で、お父様を人垣の中から連れ出し、二人で書斎に入って行く。

 その様子は気になったけれど、皆に話しかけられ、いつのまにかそれを忘れていた。


 その次の日、朝早くからお父様はお出かけしたそうだ。私は朝食を一緒にとれなかったので、少し淋しかったけど、休暇の間の用事が溜まっているのだろうと、我慢した。


 昼前に馬車が戻り、お父様が私と同じくらいの年の女の子と、一緒に帰って来た。

 執事と侍女長が出迎え、女の子を客室に案内していく。

 

 私は戻って来た執事に聞いてみた。


「あの子は誰?」


「後で旦那様からお話があります。今日は部屋で静かにしていてくださいね」


 その後、掛かり付けの医者が呼ばれた。たぶんあの子の診察を行ったのだと思う。


 そして、午後も遅くなった頃、お父様が読んでいると言って、執事が書斎に案内してくれた。


「ミーア、私の娘が見つかった」


 ああ、そうか。あの子が探していた実の娘なんだ。


「お父様。良かったですね」


「ありがとう。君よりほんの一ヶ月だけど、生まれた日が遅いから妹になる。仲良くしてくれるかな?」


「もちろん。妹ができるなんて感激です。すごく嬉しいです」


「私も、すごく嬉しいよ」


 そう言うお父様の顔は、なんとなく変な感じだ。なんだろう。もっとすごく大喜びして、跳ね回ってもいいはずなのに。


 ミーアはお父様の隣に座り、背中をさすった。お父様が悲しい時にいつもやっていることだ。今日は嬉しいことなのに、悲しそうな気がした。


 お父様は私をぎゅっと抱きしめ、ミーアありがとう。ミーア大好きだよ、と言った。

 

「夕食の前に屋敷の皆に正式に紹介する。その前に一緒に会いに行こう」


 私はお父様と手を繋ぎ、彼女のいる客間に一緒に向かった。

 ドアをノックすると、侍女長の声で、お待ち下さいと答えがあり、少ししてからドアが開かれた。


「旦那様、ミーア様、お待たせしました。どうぞお入りください」


 部屋には私の少し小さくなった服を着た女の子がいた。落ち着かなげに、もじもじしている。


「ミーア、紹介するよ。この子が君の妹のバーバラだよ。バーバラ、姉のミーアだ。年は一ヶ月しか違わないけどね」


「はじめまして。よろしくね」


 私の挨拶に対して、バーバラは小さい声で挨拶をして、すぐに下を向いてしまった。

 そして時々前髪の間から、ちらっと周囲を見る。まだ、この場所に慣れず、戸惑っているようだ。知らない場所に連れてこられた猫のようだった。


「夕食の前に使用人を集めて紹介するよ。いいね」


 バーバラは黙ったまま頷く。

 使用人達に紹介すると、昔からの者たちは涙ぐんで喜んだ。私はこうでなくちゃおかしいよね、と考えていた。


 その後の夕食で、バーバラは食事のマナーを忘れてしまっていることがわかった。


「バーバラ。気にせず好きなように食べなさい。僕たちも同じようにするから」


 そう言って、お父様はナイフとフォークを放り出した。

 私も喜んで手とスプーンで食べた。

 いつもの料理が、ちょっと違った味に思える。

 お父様と私は楽しくて笑いながら食べたが、バーバラは不機嫌そうだった。


 食事の後に部屋に戻る途中で、侍女長がお父様と話しているところに出くわした。


「レディ教育の先生をお呼びしますか」


「そうだな、なるべく優しく忍耐力のある女性を選んでくれ。ミーアのように誰でも大丈夫とは行かなそうだ」


「ミーア様は教える必要がないくらいでしたから。先生たちも楽でしかも楽しいと好評でした。今回もすぐに来てくださるでしょう」


「落ち着いたら、もう少し打ち解けてくれるかな?」


「きっとそうなります」


「そうだな。五年は長い。六歳から十歳までの五年間、もっと早く見つけ出せたらよかったのに、と思ってしまうよ」


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