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ねこの救い方:How to save the cat  作者: 著者:私 / 編集:カイエ
第0部
2/35

02

 いつからこのような関係が始まったのか、上手く思い出すことができない。つい最近のことだと言われればそんな気がするし、三年以上前からだと言われればそんな気がする。気がするだけなので、三年以内、高校一年生から高校三年のゴールデンウィークの最終日までの間のどこかだ。それでも、思いだせない。思いだそうとすると、脳に霧がかかる。いや、霧がかかる、というよりそこだけすっぽり抜けていて白紙になっている。

 そこだけ、魔法で隠されているみたいに。

 仲良く三人でソファに座り、部屋を暗くし、お菓子やジュースを飲み食いしながら、大画面のテレビで映画を観る姿は、とても仲が良さそうに見えるだろう。自分たちの関係を自分たちで言葉にするのは恥ずかしいので、あえてしたことはないが、姉妹みたいだねと言われても否定はしない。姉妹ではないが。界隈によっては百合と表現するだろう。

 隣にいる彼女たちの体温で、我が体が暖められている。しかもその熱は、衣服に奪われることなく、互いの身体で交換されている。永久機関だ(何エネルギーかは知らないが)。二人がどんな服を着ていたか思いだせないが、足と腕の肌を露出しそれなりの面積を日光に曝す服であるのは、私の身体が身をもって感じている。肩と太腿は密着し、左にいる猫に至っては、私に肩を組んでいる。無駄にでかい乳も当たっている。やわらかし。右にいる兎は私の右肩に頭を乗せて映画を観ている。髪が長く頭の位置を調整するたびに、変なところに入っているのでくすぐったい。むねはなし。映画に音が無かったら、二人の呼吸と鼓動が聞こえる密着度だ。今の私のポジションをオークションにかけたら、どれほどの値がつくのだろう。少なく見積もって、十万円といったところか。

 現状の詳細な情報を報告できるのは、一度に複数の感覚を詳細に分析できるほど、私の頭の出来が良いからではなく、単に映画がつまらないからだ。また、今はエンドロール中だ。この映画の内容がよくて、エンディング曲にその内容を補完するような情報があることを匂わせる何かがあれば、真剣に曲に集中するが、この映画にはそれがない。また、見れば誰でもわかるような内容なので、内容を整理したり、考察することもない。要するに、余韻がない。そのため、少女たちの体温と質感の方が、今の私にとっては優先される情報なのだ。私はレズではない。

 エンドロールが終わり、メニュー画面が現れた。誰も立たない。

「おもしろかった?」と左にいる兎が言った。

「いや、あんまりかな。」と私が言った。

「どのへんが?」と兎は言った。

「新しさがなかったよね。ゴミ映画ではないんだけどさ。ストーリーもキャラクターもいいんだけど、ただどこかで見たことがあるんだよね。なんていうか、良くも悪くも教科書通りに作った、て感じ。」

「ふむ。兎は?」

「まぁ、話の展開?出来事?はいいと思った。ただ、主人公とヒロインの繋がりをもっと掘り下げて欲しかったかなぁ。すごくさっぱりしてた。二人の関係が曖昧なまま終わったし、最終的にお互いがお互いのことをどんな風に考えていたのかよくわからなかった。」

「ふむ」

「で、猫は?」

「え?いや別に?なにも?特に感想はない。映画観たなぁて感じ」

「なんだそれ」

「おもしろかったよ。理由はないけど。」

 少しの間、沈黙だった。

「電気つけない?」と私はいった。

 猫が私に膝枕になって、こぶしを顔の前に出した。

「じゃ~ん、け~ん、ぽいッ!」

 猫が負けた。

「え~。私この家の主なんだけど」

「家の主ならむしろ率先しなよ。あと主ではないだろ。」と私は言った。

「じゃあ神。」

「神ならなんでもできる。ここからでもつけられるよ。頑張れ。全知全能」

「はッッ!!」

 しかし なにも おこらなかった!

「お客様は神様でしょ?頼むよ神様」と猫は、私の髪をクルクルと指に巻きつけながら言った。

「膝に矢を受けてしまってな。昔は出来たんだけど、今は無理なんだ。あの頃に戻りたいよ。お客様は神様ならあなたが行く流れじゃん」

「猫の手も借りたいってわけか」

「あなたが手を出したんじゃん」

「ふふふ」と猫が笑った。

「よし」と猫は言って、体を起こして部屋の電気をつけたので目が痛かった。なぜ、いきなり明るいところに行くと目が痛くなるのだろうか。暗いと何かが開くから、明るくなったときに、それが閉じるよりも速く目に光が入るから、だっけ?何が開いたり閉じたりするんだっけ?瞳孔?虹なんとか?こうさいだっけ?さい、てどんな字だっけ?

 目が明るさになれるとどうでもよくなった。

「光の量を調節するやつ、なんていうんだっけ?」どうでもいいけど、訊いた。

「なんの話?目?」と言いながら、猫は私の膝に戻った。

「目。瞳孔とさいこうだって?」

「いわれてみればそんな気するなぁ」

「あと重いんだけど」

「レディーに対して失礼なんじゃない?モテないよ」

「私は男じゃない」

「知ってる?男子からハーレム築いているって言われているの」

「あんたらがベタベタするからでしょ」

「ハーレム王の自覚ないの?私とは身体だけの関係だった、ってコト!?ひどい!!」

「そんな自覚はないし、お前と肉体関係をもったことはない。私は処女だ。」

「これだから最近の若いのは。子供をつくれ、子供を。経済を回せ。俺らの時代はすごかったんだぞ。みんなよー活気ずいとってなぁ。むかしむかしはとにかくすごかった。」

「お前が男じゃねぇか」

「ふふふ」と兎が笑った。

 女子の話には終わりがない。まぁ、男子とまともに話したことがないので、これは噂に基づているが。学校だったら、チャイムによって強制的に会話は終了するが、学校以外にはその役目を果たすものがほとんどない。だから、特に打ち合わせもなく、私と猫は兎が笑うことをチャイム代わりにして話を区切る。私たちの関係性、というより兎のことを知らない人にとっては不自然に感じられるだろう。兎は、あまり会話に参加しない。無口というのとは違うが、あまり自分から話をふったりしない。というよりは、私と猫がおしゃべりなのかもしれない。だから、相対的に数が少ない兎の行動に、注意が向いているのかもしれない。

 まぁ、たかだか三年程度の関係なので、これからバージョンアップが行われるだろう。最も近いのは、飲酒だ。酔ったことがないので知らないが、あれにはどうやら人を変える作用がある。兎が積極的に話すのが楽しみだ。

「さて、そろそろいい時間だね」と猫が言った。

 時刻は十八時三十一分。夕食について考え始める時間だ。

「どうする?家で食う?どこか食べに行く?」

「いや、私は今日は帰るよ。」と私は言った。

「ふむ」と猫は言い、私と猫は兎に顔を向けた。

「私も今日は帰らないと」

「そっかぁ。じゃあ、お気をつけて。ああ、片づけはいいよ。私がやっとく。」

「別にこれくらい手伝うけど」と私は言った。

「これくらいのこと、手伝ってもらわなくていいの」

「ん。悪いね」と、私は猫の乳に言った。

「なんでおっぱいに言うの?たしかに私の財産だけど」

「ボケにボケで返さないでよ。映画観ているときずっとそいつに攻撃されてたんだよね。映画よりおっぱいの感触の方が記憶に残っているもん。バスケするとき邪魔じゃないの?」

「まぁ、中途半端に資産があっても税金が大変ていうからねぇ」

「なんだそれはぎとるよ?」

「最近ミニマリストが流行っているんでしょ?何も持たなくて面白いの?」

「面白いから貧乳してるんじゃないんだよ」

「ふふふ」と兎が笑った。

 貧乳は面白ステータスだ。

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