第61話→始業式。
「・・・・かったりぃ」
どこぞの手からお菓子を出せる魔法使いばりに唸る。
夏休み明けの学校というのはなんてかったるいんだろうか。
現在、学校の体育館にて絶賛校長のお話タイム。
じじいの話なんざ長々と聞きたくないんだよ。
ほとんどの人がそう思っているだろう。
しかしまぁ、今はそんなことより気になることがある。
こっくりこっくりと夢の世界へ船を漕いでいる蒼樹。
俺にベタベタとくっついてきているルシフ。
なぜ学校の始業式にこいつらが居るんだ?それもなぜかしっかりとこの学校の制服を着てるし。なんなんだろうなこの二人は。
つか、回りの視線が痛いんだよ。
『てめぇ、少し前まではリア充なんかに程遠い存在だったのに・・・・殺す』
そんなことを目で語っているやつが一体何人いるだろうか。
少なくとも、純と旅人以外のクラスのやつ全員ということはわかるんだが。
「・・・・おい、義秋。気をつけろよ」
「・・・ん?」
俺の後ろに居る旅人がボソッと声をあげる。
「・・・・・そうだな。俺たちは悪い意味で入学式に目をつけられた。見てみろ、ほら」
旅人の横に座っている純が、クイッと顔を横に向ける。
「・・・・・うわぁ・・・・」
2、3年生のヤンキーさんたちがこちらをすごい形相で睨んでるなぁ。
んと・・・・少なくとも20人くらいはいる。
あいつら、絶対喧嘩ふっかけてくるよな。
「・・・・・・どうする?」
ニヤッと笑う旅人が言いたいことは大体予想が付く。
まぁ、今日は始業式のうえに授業もあるからな。
教室にゾロゾロと来られた日にはたまったもんじゃない。
「・・・・・先手必勝」
まだ終わりそうにない校長の話はいい加減飽きていたんだ。いい暇潰しになる。
俺は横で無駄にひっついているルシフの耳元でボソッと呟く。
「こっち睨んでるやつらを一掃してくるから、魔力を分けてくれないか?」
まぁ、俺の力はご存知の通り。
魔力をもらえればその分チカラが増す。
フフフ・・・・人外の恐ろしさを思い知らせてくれるわ!
・・・・・・なんか自分で言ってて虚しいな。
「・・・・・ぼくが行ってきましょうか?」
「いや、いいよ。これは暇潰しみたいなもんだから」
そう。これはただの暇潰し。
俺と純と旅人、3人がいて勝てなかった相手はあまりいない。
小さな暴走族くらいなら潰したことあるしな。
っと・・・・昔の自慢話は置いといて。
「・・・・・わかりました。では」
ルシフが俺の手をギュッと握って魔力を送り込んできた。
そういえば、と、あることを思い出した。
ルシフのキスで気絶した俺は、それこそルシフを無視でもして鬱憤を晴らそうとしたわけだが、「ごめんなさい。・・・・・ずっとご主人様と絡んでなかったから我慢できなくて・・・」と、さすがにやり過ぎだと思ってくれたのか、必死に謝ってくるルシフを見てたら、そんな気は失せた。
それからは、ベタベタはしてくるものの、貞操の危機に陥ることがなくなった。
まぁ、それが良かったのか悪かったのか・・・・よくわからなくないけどな。
「うし、そんなもんでいいぞ」
ルシフにストップをかけ、手をグーパーする。
うんうん。いい感じだ。
「じゃあ、俺特攻してくるわ」
「・・・・旅人」
「あぁ。わかってる」
俺が動きだすより早く、二人が動きだした。
回りの生徒や、先生方は何事かと騒ついているが、二人は素知らぬ顔で歩いている。
一人の先生が二人に近寄り事情を聞いている。
まぁ、たぶんトイレだ、とか言ってるんじゃないだろうか。
二人が外に出ていくのを見送ると、俺は息を大きく吸い込み、全力で体を動かした。
まぁ、今の俺の動きを見切れるのはほんの一部の人だけだろうが。
「こんにちはー」
まず二年生のヤンキーさんたちのグループに行った俺は、軽く挨拶を済ませて、適当に2人の襟を掴み、その場を離脱。
外で待っているはずの純と旅人の前に、そいつらを連れていく。
んで、また体育館の中に戻る。
それを何度か繰り返しているうちに、二年生のヤンキーたちは全滅。
まるで神隠しにあったといわんばかりに人が消えていくさまは、きっと誰もが恐怖したに違いない。
校長の話の途中で、二年生たちからの悲鳴などがあがる。
さてさて、いい具合に乱れてきたな。
俺は純と旅人に頷きかけ、二人がそれに応えるのを見届け、次は三年生の元へ向かう。
今度は堂々とやってやろうじゃないか。
「やっほー」
そんなふざけた挨拶をしながら、三年生のヤンキーたちに手を振る。
俺はあくどい笑みを浮かべながら、ただ一言。
「これに懲りたら、二度とやっかいな考えなんてしないことだな」
先生方の制止の声を軽く聞き流し、俺は体育館の床を蹴った。