第60話→人の不幸は笑えるが、自分の不幸は笑うどころじゃない。
「いよぉしゃぁぁぁぁあ!!ついに来たぜ俺の時代!」
そう唸りを上げたのは、旅人。
4回目にしてようやく王さまを勝ち取れたのだ。
俺と純はそんな旅人を見て、あからさまに舌打ちをする。
順番を決めるジャンケンで勝ってさえいれば・・・・なんて後悔は後の祭りである。
最初の1回目以外は女子同士の絡みばかりだったが、ここになって危険物(旅人)が王さまになるなんて・・・・・なんの冗談だよまったく。
「んじゃあ、言うぜ?・・・・・4と12の人が俺のことをご主人様と呼ぶ、だ!」
くっ・・・・二つの番号を指名するとは・・・やるな、こいつ。
番号を多く言えば言うほど女子との絡みが高くなるのは、言うまでもないだろう。
「じゃあ、4と12の人は―――――――んっ?」
残念だったな旅人。
お前の計画は見事に崩れ去ったのだ。
俺は旅人の肩をポンポンと叩き、トランプを見せてやる。
「・・・12は俺だ」
見るからに意気消沈する旅人。
しかしまだ一人残っている。
それが誰なのかはわからないが、意味深ににやけている純の表情から、大体予想できた。
「ま・・・まさか・・・・」
旅人は、恐る恐るといった感じで純を見る。
「つくづく、運がないな」
純の手にはもちろん、スペードの4のトランプが握られていた。
さて、王さまの命令は絶対だ。
この際、上目遣いというアレンジもトッピングしてやろう。
「「ご、ご主人様?」」
低い二つの声が重なる。
よほどショックだったのだろう。
旅人は思い切り吐血すると、まるでヤムチャのごとき惨めさを纏ながら、その場に倒れた。
ざまぁみろ。そんなことを思いながら、俺と純はハイタッチを交わす。
ふぅ。これでパソコンの件のストレスが多少なりとも解消された。
そんなこんなで、旅人を抜かしたメンバーで続きを再開する。
そろそろ、一回くらい王さまになってみたいんだがなぁ。
そんなことを思いながらトランプをシャッフルする。
それを一人づつに配り(旅人の分は、死体にもにたそれの近くにそっと置いておいた)、おなじみの掛け声をかける。
「王さまだ〜れだ!」
「・・・・・ぼく、です」
ヤバい。厄介なのが王さまになってしまった。
今度の王さまは、どうやらルシフのようだ。
しかしまぁ。何回かやってある程度“加減”はわかっているはずだし、大丈夫だろ。
「えっと、8番の人が・・・・・・ぼくにキスしてください」
純よ。そんなに食い入るように見つめても数字は変わらんぞ。
さて、8番は誰かな・・・・・・って俺かよ!!
まるで狙っているとしか思えな・・・・トランプに少しだけど傷がついている。
・・・・・やられたよ。ルシフめ。トランプに小さな傷をつけてそれを目印に俺を狙いやがったな?
まぁ、いい。ここはばれないように純のトランプとすり替えて・・・・・何?くそっ!純のやついつの間にやらトランプをしっかり握って・・・・まさかコイツ・・・。
「大人しく離せ馬鹿野郎。寝たフリなんかしてんな」
他の人に聞こえないくらいの声で、旅人に話し掛ける。
「ふんっ・・・いい目に合いやがって。せめて理不尽に散りやがれ」
くっ・・・旅人め、さっきの恨みか。
待て、ここは純と交換してもらえば・・・・。
「じゃあ、みんな数字を見せてくれ」
おいおい。仕切りたい気持ちはわかるが今回に限ってそれはないだろう、立夏よ。
まぁ、誰も名乗り上げなかったから痺れを切らしたんだろうが。
俺は諦めたように息を吐くと、降参だ、とばかりにトランプを放り出した。
こうなったらスピードの勝負である。
ちゃっちゃとキスをしてすぐに終わらせよう。
「んじゃあ、ルシフ。準備はいいか?」
「・・・・・はい。ご主人様!」
周りの痛い視線を極力気にしないように心がけながら、俺はルシフにキスをした。
(よっしゃ。さっさと離れ・・・・・・は、離れないだとぉ!?)
まるで蛸に吸い付かれているかのごとくルシフが離れない。
(一体どうなって・・・・・・・・ぐっ!?苦しいよコレまじきてるきてるぅ!!)
唇が離れないせいで、息が出来ない。
これはガチで死ねる。
ギブアップ、と、ルシフの背中を叩くが、一向に離れる気配がない。
「ちょっ!?義秋何だか苦しそうじゃない!?」
「お兄ちゃん!!」
「よしにぃ!?」
「「・・・ざまぁみろ」」
そんな声を聞きながら、俺は意識を手放した。
キスで気絶なんて恥ずかしすぎる。パソコンのことといい今のことといい。
不幸ってものは、連鎖的に続くんだなぁと身を持って体験した俺なのであった。