第54話→鬼ごっこの末に。
純を待ち始めて15分くらいが経った。
「・・・よぉ」
『純は無傷で生還した』
と、いうテロップが流れたような気がした。
コイツ・・・・・死亡フラグを回避した・・・だと?
予想外のことに頬を引きつらせる俺を見て、純は首を傾げる。
「なんだ?その『交通事故に遭った奴が死んでしばらくしてひょっこり生き返ってきた』みたいな顔は」
「・・・・お前の解説は一々わかりにくいな、おい」
「何を言ってるんだ。旅人からは、足し算よりも安易に解ける解説と太鼓判をもらっているのに」
ヤレヤレ、と息を吐く純。
くぅっ・・・・こいつ・・・少しでも心配していた自分を呪いたいぜ。
超むかつく。何なんだよこの態度は。
・・・・・と、それより本題に入るか。
「で、結局どうだったんだ?あの中」
俺が光を指差すと、純はわざとらしく声をあげた。
「おおっ!そうだったそうだった」
無理矢理にやける顔を押さえ込んだような表情になった純からは、怪しさしか感じない。
「あの中はちょっとした部屋になっていてな、そりゃもう安全な場所だった。隠れておくには十分じゃないのか?」
・・・・嘘だな。
今の言葉は絶対嘘だ。
証拠?もちろんあるさ。
それは・・・・・「純、そのポケットに入ってる封筒、見せてみろ」これが証拠。
さっきまでなかったものが、突然どこからともなく湧いてくるはずがないし。
第一に、純は10円玉を拾っても交番に届けるような奴だ。
そんな奴が物を拾って来るはずがないし、あるとしたら“誰か”から渡されたとしか考えられない。
その“誰か”は、純を使って俺を部屋の中に誘い込もうとしているわけだ。
「・・・・・・これは・・・・無理だ」
純は嫌々と首を横に振るが、そんなの関係ないし。
「ふふ・・・・頭は大人、身体も割と大人・・・・・名探偵義秋様にその封筒を見せてみなさい、早く」
真実はいつも一つなのだよ。ワトソン君。
その封筒の中には純が隠していることの手がかりがあるはずだ。
俺は、純にジリジリと詰め寄ると、ズボンのポケットに大切そうに入れられているそれに向かって飛び掛かった。
「・・・・・・・ぁ?」
瞬間。世界が回転。
俺は背中を地面に叩きつけ、口から空気をもらした。
俺がゴホゴホと咳き込んでいると、純はニヤリと笑って俺の手をロープのようなもので縛り始めた。
「・・・・すまんな義秋。俺も自分の命が大事なんだ」
純の一言で、あの光の中に何があるかわかってしまった。
「くそ!!放しやがれぇ!!」
「・・・・・・よいしょっと」
俺の手を縛った純は、次に足の束縛を開始した。
必死で暴れてみるも、馬乗りになられて無理矢理抑えこまれてしまう。
男に馬乗りだと?・・・・激しく萎えるんですけど。
っと、尻をこっち向けんな!誘ってんのかァ?
・・・・・てな冗談は置いといて、今なら封筒が奪えそうな気がする。
実は、封筒の中身、かなり気になってたんだよね。
俺は縛れた両手を駆使して、純のポケットに手を伸ばす。
「・・・・・・・・・ッ!!」
純のポケットから封筒を引き抜くと同時に、純はしまったと言わんばかりにこちらを振り向くが、時すでに遅し。
封筒の封は開いていて、引き抜いただけで中身はあっさりと出てきた。
パサッ・・・・。
そんな擬音とともに、封筒からは数枚の写真が現われた。
「純・・・・・お前・・・」
そこには、先程撮ったと思われる家の妹と夏那華、迷梨の写真が。
「・・・・・・人間、欲には勝てないものだな」
そうですか。
親友より、ロリの写真を選びやがりますか。
「変態!ロリコン!あいつらから脅されて嫌々ながらやってるんだろうから、許してやるか、なんて思ってた俺の純真無垢な心を利子付きで返却しやがれこの野郎!」
「・・・・・・変態でロリコンですが何か?」
開き直るだと?・・・・純なら罪悪感を感じて謝ってくれるって信じてたのに!
「あ、あと思い込み乙。俺の知ったことじゃない」
純がいつのまにか不良になってる・・・・今まで、こんなこと言う奴じゃなかったのに・・・。
これがロリの力だと言うのか・・・・・。
純は呆然とする俺の腕を掴むと、無慈悲にも光の中へと歩きだした。
もう、オワタ。
なぜか走馬灯のようまで見えてきたし・・・・。
俺は覚悟を決めて、これから起きることを想像し、ゆっくりと身を震わせた。