第52話→命をかけた鬼ごっこ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!」
「くそっ!!旅人が撃沈した!純、親父さんはまだなのか!?」
俺の言葉を聞いた純は、顔を暗くしながら首を振る。
「やはり、内部にスパイがいたらしい・・・・・たぶん、母と妹だ」
「なっ!?・・・・もしかして親父さんは・・・・・」
「あぁ、母と妹によって鎮圧された」
純の言葉を聞いた俺は、地面に膝をつき、絶望に打ち拉がれる。
「もう・・・・ダメだ・・・」
こんなことになるなら、あの時無理矢理にでも止めておけば・・・・・・そんな後悔は、俺の方に迫ってきている悪魔たちの恐ろしい笑顔の前に、かき消された。
そう、あの時の判断が甘かったのだ。・・・・話は数分前に遡る。
☆☆☆☆
場所は純の部屋。
「だから〜、俺はあのキャラの声はやっぱりゆかりんが」
「バカか!あれにゆかりんは合わねぇだろうが!!」
「・・・・個人的には、堀江が」
「「・・・黙れ」」
純の家にお邪魔した俺は、何故か泊まると言い出した旅人を交え、『あのキャラにあの声優は合ってるか』という議論を繰り広げていた。
「おぉ!私も混ぜてくれ!」
そう言って純の親父さんが参戦してからは、なかなか熱い展開になっていたりする。
晩飯を食べた後ということもあり、まったりしながらも、なかなかに有意義な時間になったていた。
「あ、ちょっとトイレ」
俺は先ほどまで我慢していたものを排出するため、話の区切りがいいところで抜け出した。
もちろん、小の方な。
「ん〜。やっぱ我慢は体に毒だよねぇ〜」
そんなことを言いながら用を足してトイレを出ると、ふと話声が聞こえてきた。
『え?・・・・・はい、義秋ちゃんなら来てますけど?』
どうやら、誰かが俺目当てで電話をかけてきたらしい。
電話に出たのは、純の母親か。
(それにしても電話をかけてきたやつ、よく俺がここにいるってわかったなぁ)
そんな風に感心しながら部屋に戻ろうと足を進めた瞬間。
『・・・・彼女?義秋ちゃんの?』
はて?俺に彼女なんていないはずだが・・・・・。
電話の相手が気になったので、もう少しだけこの場に留まろうと足を止めた。
『何を言ってるかわかりませんが、義秋ちゃんには家の未繰〈みくり〉ちゃんが・・・・・・・え?義秋ちゃんにはたくさんの彼女さんが?・・・・詳しく教えてください』
未繰というのは、純の妹さんの名前である。
・・・・・・と、その前に・・・・なんとなくだが電話相手が誰だかわかってきた。
俺の彼女なんて妄言を言うやつは限られているからな。
これ以上好き勝手言わせるわけには・・・・・。
電話を止めようと足を踏み出した瞬間、背中を冷たいものが這った。
純の母親の背後に、まがまがしい般若が見えるのは気のせいだろうか。
(・・・・恐怖に打ち勝って、電話を止めるか・・・恐怖に負けて、このまま部屋に戻るか・・・)
そう。ここで恐怖に打ち勝つことができれば、この先の惨劇は回避できたかもしれない。
しかし、俺にそんな勇気は微塵もないわけで・・・・・。
そそくさと部屋に逃げ帰った。
そして、部屋に戻って30分もしないうちに純の親父さんが突然呟いたのだ。
「結界が・・・・内側から消された」
親父さんは慌てて部屋を出ていき、俺と純と旅人はその様子を見守りながら首を傾げていた。
なぜ内側からなのか、という点について。
「・・・・まぁいいや。俺、ちょっとコンビニに行ってくるわ」
そう言って旅人が部屋を出ていくと同時に、純がヒッ!と悲鳴にも似た声をあげた。
何事かと純の視線を辿れば、純は窓の外を見ていた。
確か、この部屋の窓からは神社の境内が拝めるようになっていたはずだが・・・・・・・ビクゥッ!!
窓の外を見て、俺は思い切り身を震わせた。
そこには、見るからに邪悪なオーラを放っている5人組が。
・・・・・・悪魔である夏那華や迷梨、ルシフから邪悪オーラが出るのはわかるが、なぜ人間である苺や蜜柑からも邪悪オーラが?
という疑問はさて置き、あんなに病む素振りなんて見せなかったルシフまでもが邪悪オーラを放ちまくっているのは何でだろうな。
あれ、急に涙が・・・・俺、ただ家出しただけなんだけど・・・・・。
そんな時、運悪く家を出た旅人が、固まって動けなくなってるのを見つけた。
「おい純・・・あれ、旅人やばいんじゃねぇ?」
「・・・・・・ロリに殺されるなら本望だろう。・・・・・旅人に幸あれ!」
「・・・・幸あれ!」
俺と純は、旅人に敬礼をし、ご冥福を祈った。
(旅人が生け贄になって、少しでもあいつらの気が晴れれば)
密かに、そんなことを思っていたのは秘密である。
「よし、とりあえず父に連絡をしてみる」
純は携帯を取出し、親父さんに電話をかける。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!」
旅人の悲鳴が聞こえたのはそれから間もなくだった。
☆☆☆☆
「こうなったら、皆の怒りが納まるまで逃げるしかないだろう」
純はそう言いながら、部屋の畳をトントンと叩き始めた。
「・・・・逃げれる・・・のか?」
俺は、虚ろな目で質問をする。
「あぁ、こんなこともあろうかと・・・・・あった」
純はそう言いながら、ある一ヶ所に指を置き、ボソッと呟く。
「・・・・・解除」
ガコンッ!
何かが外れるような音が部屋に響く。
「早くしろよ。1分くらいで自動ロックがかかるんだから」
純は、そう言いながら押し入れをのドアを開いた。
すると、押し入れの中には、どこかへ続いているであろう入り口が開いていた。
奥の様子は暗くて窺えない。
しかし、迷っている暇なんてなかった。
敵はもう、すぐ目の前に迫っている。
俺は、『逃げ切れる』という一縷の望みに賭けるべく、その暗やみの中へと駆け出した。