第47話→死の事実。
(たす・・・・・て・・・・・)
義秋は、変な声で目が覚めた。
外は暗く、生き物の気配がない。
携帯で時間を確かめると、携帯のデジタル時計は、深夜の2時5分を差していた。
いわゆる、丑三つ時。
幽霊とか、その類がもっとも具現化しやすい時間・・・・・だと純の親父さんが言っていた。
まさかさっきの声も幽霊・・・・・。
そんなことを考えていると、背筋がゾッとなり、思わず身震いしてしまう。
いや、これは勘違いだ。
きっと、昨日、超ご機嫌でカラオケから帰ってきた夏那華と迷梨、苺、蜜柑のせいで、悪夢的なものを見てしまったのだ。
と、自分に言い聞かせる。
いやぁ、昨日の4人はヤバかった。
意気消沈気味な俺の存在を無視して、4人でずっと楽しくお喋りをしていたのだ。
ルシフが、俺に絡んできて、いくらイチャイチャしようと何も言ってこなかったし。
そんな光景は、逆に気分が悪くなる。
何か企んでいるのではないか、と疑心暗鬼に陥りそうになったりもした。
いつもしないことを、急にやりだす。
これ、ダメだよ。絶対。
やられた本人は、逆に怖いからね。
俺は、横で寝息をたてているルシフを見て、にやりと笑う。
ルシフの寝顔で、癒されよう。
そう思いながら、ルシフを見つめていると・・・。
(助けて・・・・誰か・・・)
今度ははっきり聞こえた。
誰かの声。助けを呼んでいるみたいだが。
「・・・・聞こえてるの、俺だけか?」
いっこうに目を覚まさないルシフを見るに、どうやら聞こえてるのは俺だけみたいだ。
そう考えていると、体が自然に動いた。
そして、服を着替えながら、その声に質問したいことを頭の中で念じる。
(俺はどこに行けばいい!お前の名前は!)
数秒もたたないうちに、声が返ってきた。
(神社・・・・・・な・・・まえ・・・・・そうじゅ・・・・)
神社、そうじゅ。
この二つで思い当たる場所は1つしかない。
俺は、寝ているみんなを起こさないように気を付けながら、家を出た。
☆☆☆☆
「・・・・・どういう、ことだ?」
俺は、思い出の場所である蒼樹の前に来ていた。
そこには、二人の先客が。
一人は、よく知っている。
一度は戦ったことのある男、黒次。
もう一人は、見たこともない女の子。蒼く輝く髪を持ったその女の子は、黒次に腕を掴まれて、泣いていた。
俺の言葉に答えたのは、黒次。
「また会いましたね。青年」
丁寧にお辞儀をしてくる黒次。
俺は、そんな黒次を睨む。
「なんでお前がここにいるんだ!!」
「・・・・まぁまぁ。落ち着いてください。今回、わたくしは貴方を助けに来たのですよ?」
「・・・助けに?」
俺は黒次の言葉に首を傾げる。
「青年、貴方は昨日この場所に来ましたね?」
「・・・・・・・・あぁ」
「それは、何でですか?」
「何でって・・・・なんとなく、だけど」
俺がそう言うと、黒次はクスクスと笑いだした。
「なんとなく・・・ですか。貴方が一番嫌いなはずのこの場所に、なんとなく来てしまうことなんてあり得るのでしょうか」
「一番嫌い?・・・・・ここは、俺と両親の思い出の場所・・・・・・だよな?」
「やはり、記憶改竄ですか。まぁ、いいでしょう。貴方にはまだやるべきことがある。ここで死んでもらっては困るのです」
「何を言って・・・・」
「やめて!お願いだから!!」
黒次に腕を掴まれていた女の子が、突然大きな声を出した。
「では、覚悟してください」
黒次の影が、突然義秋の背後に出現した。
「修正、開始」
黒次の影が、義秋の頭を貫通する。
「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
それに伴う痛みが、義秋を襲う。
まるで頭を硬い物で殴り続けられるような痛みに、義秋の意識は飛びそうになる。
「こ・・・れは?」
昨日、思い出そうとして靄がかかっていた記憶が、鮮明に頭が浮かぶ。
ゆっくりと、しかし、はっきりと。
☆☆☆☆
「義秋、誰と喋っているの?」
この声は・・・・母さんか。
「えっとね。そうじゅちゃんと喋ってるの」
俺がそう言うと、母さんは苦笑いしながら、俺の頭を撫でる。
「義秋にも、見えるのね」
母さんの言葉に、父さんが胸をはって答える。
「俺たちの息子なんだから、当たり前だな!」
父さんの言葉に、俺は照れたように頬を掻いて、母さんはクスクスと笑いだす。
そんな俺たちを、どこか羨ましそうに見つめる女の子がいた。
今なら、その子が誰かわかる。黒次に腕を掴まれて泣いていた女の子。
・・・蒼樹。この木の精霊である。
女の子は、突然立ち上がり呟いた。
「蒼樹も、お父さんとお母さんが欲しいな」
その声に反応するように、周りの木々が騒めきだし、地面から鋭い木の根っこのようなものが出てきた。
「やめ・・・て。違う、蒼樹は望んでいないから!」
それに気付いた蒼樹は、周りの木々に向かってそう叫んだ。
「お前!!」
「はいっ!」
父さんと母さんは、俺を護るように立ちふさがり、身構える。
「「炎舞〈えんぶ〉!!」」
赤い炎が二人を包み、俺はただ、それを見つめていた。
襲いくる根っこから俺を護りながら、父さんと母さんは必死に戦う。
「っ!?卑怯だぞ!」
木々は、蒼樹を人質にして、父さんと母さんの動きを止めた。
俺は何が何かわからなくなった。
だって、木々を操っているのは蒼樹だと思っていたから。
動けなくなった二人を、木の根っこが貫く。
俺はただ、泣きながらそれ光景を見ていた。
「真実を、見極めろ」
それが、父さんが最後に残した言葉。
「ごめん・・・・ね」
それが、最後に聞いた母さんの声。
俺はただ、泣いて泣いて。
それしか出来なかった。
☆☆☆☆
気がつくと、俺は涙を流しながら立ち尽くしていた。
「理解しましたか?貴方がこれから何をしなければならないかを」
黒次はそう言って、蒼樹を俺の方に寄越した。
「周りの木々は、蒼樹の願いを何でも叶えようとします。つまり元凶は」
俺は黒次の言葉を、手で制した。
視線は蒼樹から動かすことなく。
今は、いつまでも悲しんでいる時ではない。
俺は唇を噛み締めながら、手を振り上げた。