第45話→変わってしまった、思い出。
「な、なんですとぉぉぉぉお!?」
俺は、馴染みのゲームショップで打ち拉がれていた。
「いやぁ。本当にスマンな義秋。旅人の野郎が一人で6個くらい買っていったんだよ」
俺が馴染みということは、もちろん旅人と純も馴染みなわけで・・・・・。
つか、旅人・・・・次会ったら覚えてろよ。
「なんで6個も買うんだよ、あいつ・・・・・」
俺は涙目になりながら、店を後にする。
俺が店から出ると、店の外で待たせておいたルシフが、俺の姿を見るなり安堵のため息を吐いた。
「ご主人様・・・遅いです。なぜか、知らない男の人にたくさん声をかけられて・・・・」
まぁ、ルシフはかなり可愛い部類に入るし、ナンパくらいされて当然だよな。
「悪い、悪い。色々あって少し長引いてしまったんだ」
主に旅人のせいでな!
ゲームの次回入荷は来週らしいし、俺の今週の予定が大きく変わった。
「ところで、どっか行きたい場所ある?俺の用事すんだし、付き合うよ?」
俺がそう言うと、困惑気味に苦笑するルシフ。
「すみません。ぼく、こっちの世界のこと、よく知らないんです」
「・・・・・・・そうだったな。ごめん、気が回らなくて」
・・・・・ルシフが楽しめそうな場所って、どっかあったか?
俺は、とりあえずこれからどうするかを思案する。
・・・・・・・・・ダメだ。何も思いつかない。
俺が軽く唸っていると、それを見兼ねたのか、ルシフが控えめに提案してきた。
「ご主人様・・・ぼく、お腹が空きました」
ルシフの言葉を聞いた途端、俺のお腹がグーッと鳴いた。
「そういえば、朝飯も昼飯も食べてなかったな」
とりあえず、行き先は決まったみたいだ。
俺とルシフは、商店街の中に浮いたように存在している、この町唯一のファミリーレストランに足を向けて、少し急ぐように歩きだした。
☆☆☆☆
「ご主人様、あ〜ん」
「これ、やらなきゃダメなのか?」
「・・・・・一回だけですから・・・お願いします」
俺は、にやけそうになる頬を引き締めて、ルシフが差し出すスプーンにかぶりつく。
「美味しい・・・・ですか?」
「・・・美味しいけどさ」
まぁ、この店自慢のパフェらしいし、美味しくないわけがない。
しかし・・・なんなんだこの羞恥プレイは。
もとはと言えば、あのバカップルが悪いんだ。
俺はカレーライスを、ルシフはうどんを注文し、それを空きっ腹に詰め込むように食べている時だった。
近くの席に座っていた大学生くらいのバカップルが、大きなパフェを二人で突き合っていたのだ。
それこそ、あ〜んとか、周りから見ててイライラするようなイチャイチャっぷりを発揮していた。
俺がカレーライスを食べ終わる頃には、そのバカップルは様々な被害を残して去っていった。
「リア充死ね!」と叫んでいるものや、男子だけの学生グループの大きな舌打ち。さらに、ウェイトレスさんまでもが、食器を片付けながら舌打ちをしていた。
カップルと思わしき人たちは、ただ苦笑していただけだったが。
しかし、そんな人たちと打って変わって、俺の正面でうどんを食べていたルシフの目が、キラキラと輝き出した。
はっきし言って、嫌な予感しかしないんだが・・・・。
「ご主人様、パフェ、頼んでもいいですか?」
そんなルシフの言葉を否定する理由などなく、あの台風の一番の被害者が自分であることを悟った。
「・・・・はぁ」
店を出る際、多大な痛い視線を受けていた俺は、店を出るなりため息を吐いた。
「ご主人様、楽しかったですね!」
まぁ、楽しくなかったと言えば嘘になるが。
「できれば、今度からさっきみたいなことは家だけにしてくれよ」
「・・・・次、行きましょう」
でた、スルー。
俺の知り合いの女子どもは、都合が悪くなるとなんでもスルーしやがる。
まぁ、もう慣れたけどさ。
「どっか、行きたい場所あるのか?」
「・・・・・・特に、ないです」
そう言って落ち込むルシフ。
「俺のお気に入りの場所に、行ってみる?」
「はいっ!行きます!」
俺はゆっくりと歩きだした。
俺の大好きな、あの場所に向かって。
☆☆☆☆
「ここ、ですか?」
「ん、この奥だよ」
俺は今、純の家の近く、神社の境内にいる。
この神社の裏側には、大きな森林が広がっており、そのある場所に俺のお気に入りの場所があるのだ。
この場所を知っているのは、現在は俺だけだろう。
森林の中にある、普通は気付かないような目立たない獣道を、俺とルシフは進む。
5分くらい歩くと、その場所が見えてきた。
「うっわぁ〜・・・・綺麗ですねぇ」
どうやらルシフは気に入ってくれたらしい。
俺のお気に入りの場所。
昔、俺と父さんと母さん、3人で遊びに来た大好きな場所。
その場所には、大きな一本の木が生えていて、その木は、他では見たこともない蒼い花をつけている。
木の図鑑には載っていないその木を、父さんはこう呼んでいた。
“蒼樹〈そうじゅ〉”と。
父さんと母さんは、この木をまるで自分の子供みたいに大切に扱っていたのを今でも思い出せる。
そんなこの木に、子供だった俺が嫉妬を妬いていたのは内緒である。
「この木・・・・すごい魔力を持っていますね」
ルシフの言葉に、俺は頷く。
人外になった今だからこそわかる。
そんな不思議な木の下で、俺とルシフは風に吹かれながら、ただただ、見惚れる。
太陽に妖しく照らされて輝いている、蒼い花を持つ大きな木に。
「そろそろ、帰るか」
俺がそう言うと、ルシフは無言で頷き、俺に着いてくる。
前までは感じなかった膨大な魔力のせいで、なんか変な気分になってきたのだ。
俺とルシフは、ゆっくりと手を繋いだ。
自分が自分でなくなりそうな、そんな気がしたから。
「来るんじゃなかったな・・・・」
そんな俺の後悔は、森をざわつかせる風によって、掻き消された。
年末年始は更新できないかもです。まだわかんないですけど。 まぁ、バイト次第ですねwなるべく更新していきたいとは思います。