第37話→ヤンデレに覚醒。
「・・・・・・はぁ」
俺は、一人バスで揺られながら帰路についていた。
あの後、肉体的にも精神的にも半殺しにされた。
特に、「俺が誰と何しようと、勝手だろ?」と言ったときはヤバかった。
あれは本気で死ぬかと思ったよ。
予定ではあと2日くらいは泊まる予定だったが、これ以上俺が泊まっていたら、メイドさんにも手を出しかねないという根拠もない理由で、先に帰れと言われてしまった。
俺は、他に乗客がいないバスの中で大きなため息を吐き、家に帰ってゲームをプレイしまくろうと、帰宅後の計画を立て始めた。
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「・・・・嘘・・・だ、ろ?」
自宅に帰ると、俺は驚きの余り呆然と立ち尽くしてしまった。
玄関には、見覚えのある靴が。
「あ、お兄ちゃん!久しぶりぃ!」
「・・・・よしにぃ?帰ってきたんだ」
俺の声を聞きつけたのか、見覚えのある顔が二つ現われた。
「なんで・・・・いるんだよ」
俺は痛くなる頭を押さえつつ、二人を睨む。
「なんだょ〜。お兄ちゃんってば連れないなぁ」
「よしにぃは照れてるんだよ、きっと」
「えぇ!?そうなのお兄ちゃん!そんなに私のこと意識して・・・・・」
「違う。よしにぃは、私のことを意識してる」
二人は、軽く言い争いを始めてしまった。
髪を背中辺りまで伸ばしているのが、姉の、垣崎 苺〈かきさき いちご〉。少し・・・・いや、かなりロリ体型をしている。
もう一人が、妹の垣崎 蜜柑〈かきさき みかん〉。姉に瓜二つで、一目で双子とわかる。もちろん、体型も瓜二つだ。
俺がロリを好きになれない主な理由は、こいつらにあると言ってもいい。
一つ目の理由は、勝手に話を進めていき、かなりマイペースなところ。
二つ目の理由は・・・・・・。
「あ、お兄ちゃん。部屋、掃除しといたからね?」
苺の言葉に、俺は血の気が引いていくのを感じる。
旅行用のカバンをその場に落とすと、急いで自分の部屋に駆け込む。
「・・・あは・・・・あははは」
綺麗になった部屋を見て、自然に涙がこぼれてくるのを感じる。
そう。部屋の中は、確かに綺麗になっていた。
・・・・・俺の大事なコレクション、大量のアニメグッズ、漫画本、ラノベなどが跡形もなく消え去り、確かに、綺麗にはなっていたんだが・・・・・・・・・。
それと引き換えに失ったものが大きすぎる。
そう、俺の妹たちは、俺が他の女の子を愛でるのが耐えられないとか言って、人の趣味を否定しやがるのだ。
二つ目の理由。
それは、極度の嫉妬深さだ。
いつの日か確実にヤンデレになると、俺は確信している。
「綺麗になって、嬉しい?」
「お兄ちゃん、私たち頑張ったんだからね!」
そんな、褒めてほしい犬みたいな目で俺を見るな。
「・・・・お前ら、やっぱ嫌いだ」
俺がそう呟くと、二人が静かになる。
今までも何度かこういうことがあった。
巧みに隠していてもすぐに見つけだしてポイ。
しかし、俺が何か反抗する度に・・・・・。
「お・・・お・・・・お兄ちゃんの馬鹿ぁぁぁぁぁあ!!うぇ〜〜〜ん!」
「ぐすっ・・・よしにぃのあほ・・・・・ううっ・・・・」
二人同時に涙を流し始める。
そう、何かあればすぐ泣く。
これは一番厄介な攻撃である。
向こうが悪いのに、まるで俺が悪いような錯覚に陥り、結局俺の方から謝るってのがいつものパターンだ。
しかし、人間は成長する生き物である。
ふふふ・・・・今までの俺とは一味違うのだよ。
まぁ、人間じゃなくなってる時点で前とは違うのだが。
「さぁて、暇だし遊びにでも行くかな〜」
俺は二人を無視しつつ、下の階へ降りようと・・・・・して、二人から両腕を掴まれた。
「・・・・お兄ちゃんが、変わった」
「よしにぃ・・・この家の中、知らない女の人の匂いがするのと関係、あるよね?」
(・・・・や・・・ヤンデレぇぇぇぇぇえ!?何!?この二人、すでにヤンデレ状態!?)
「い、いやぁ・・・そういえば、この前学校の友達が遊びに来てさぁ」
「「嘘だ!!!」」
(ひぃぅ!?二人が完全なるヤンデレに!Level5になっちゃってるしぃぃぃい)
俺は恐怖のあまり二人の顔を見れない。
「・・・いや、本当だし」
「じゃあ、なんでお兄ちゃんの体からも女の人の匂いがするのかな?かな?」
「よしにぃは、私たちを騙せると思ってるの?よしにぃのことは、全部わかってるんだから」
いや、これ・・・・二人とも元ネタ絶対わかってるだろ。
まさかの隠れヲタか?
っていうか、明日か明後日には夏那華と迷梨帰ってくるし、バレるじゃん。どっちにしても。
んなら、今のうちに説明をしとくか。
「あ、あのな・・・・」
説明をしようとしたその時。
声が聞こえた。
『ご主人様・・・どこ、ですか?』
『・・・・ルシフ?』
その声に、心の中で返事をする。
『やっと、見つけました!』ルシフの喜んだような声。
すると突然、目の前にルシフが出現した。
「・・・・・・・・・ぇ?」
俺は目を見開いてそれを見る。
・・・・たぶん、夏那華十八番の『緊急回避』と似たような魔法を使ったんだろうが・・・・・・なんで今なんだ?
タイミングが悪すぎる。
さらにルシフは、俺を見るなり抱きついてきた。
瞬間。後ろの二人、苺と蜜柑二人が放つ絶対零度の視線が俺を貫く。
(・・・・・・誰か助けて)
俺は涙目になりながら、そんなことを願った。
もちろん、無駄だとわかっていたんだけどね。