第21話→風下旅人の復讐。
「ごほっ、ごほっ!ちょ、少しは掃除しといてくださいよ!」
「いやぁ、悪いなぁ手伝ってもらって。今日は家で晩ご飯を食べていくといい」
不運が続く週の土曜日。
学校は休みだし、ゆっくりできるなぁと少しうかれていた昨日の朝が懐かしく感じた。
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金曜の朝、明日は休みだということもあり、少し高めのテンションで学校に行くと、身体中に包帯を巻いた純と旅人が俺を睨んできた。
「・・・・おい、なんで見舞いに行っただけでこんなボロボロにならなくちゃいけないんだよ」
「・・・・・・いや、スマン。昨日のことは俺から謝る。・・・けど、俺は何も知らないからな?あれは夏那華たちが勝手にだな・・・・」
俺の言葉に、2人の顔が険しくなる。
「そういえば・・・・なんで夏那華ちゃんと迷梨ちゃんという二大ロリに加え、楔先輩までが義秋の家に居たんだ?」
純が眼鏡を光らせながら、俺を睨んでくる。
「・・・い、いやぁ・・・・なんでかわからんけど、見舞いに来てくれたんだよ。アハハハハ」
「アハハじゃねぇ!」
ガスッと抉るように頭を殴られた。
「痛ぇぇえ!!何すんだよ、アホ旅人が!」
「うるっせぇ!どうせ、俺と純が居ない間イチャイチャしてたんだろうが!!」
「・・・・・し、してねぇし!」
和月先輩に膝枕とかしてもらってたみたいだけど、あれはイチャイチャに入らないよな?
「・・・・純、落ち着け。・・・まぁ、こっちの条件を飲んでくれれば、昨日の件はチャラにしてやってもいいんだがな」
「・・・・・条件は?」
純は、ニヤリと笑って眼鏡を上げる。
「俺の家の倉庫整理、だな。俺はこんな状態だし、旅人も結構怪我してるからな。父の手伝いを出来る者がいなくて困ってるんだ」
なるほど、神社の倉庫整理か・・・・もっときついこと言われると思ってたんだが。
「いいよ。それくらいなら手伝う。・・・なにより、純の親父さんにはお世話になりまくってるし、少しは役にたたないとな」
「・・・・そうか。なら今日帰って父に伝えておく」
まぁ、せっかくの休日が潰れるのはあれだが、親父さんの手伝いが出来るうえに、昨日の件をチャラにしてもらえるなら喜んで行かなきゃな。
「・・・あれ?ところで旅人は?」
ふと旅人がいないことに気づき、辺りを見回すと、何やら委員長と話をしていた。
「・・・・珍しいな。旅人がクラスメイトと話すなんて」
そんな純の呟きに、俺は同意するように頷く。
夏那華や迷梨と話すんならわかるが、よりによって委員長と話すなんてな。
「あれ?なんか、委員長こっち見てないか?」
「・・・・そうだな。主に義秋を見ている」
なぜだかわからないが、委員長が俺の方を見ている。
・・・気のせいかな?どんどん表情が険しくなってるような・・・・。
そんな委員長の様子に気づいてるのは、俺と純。それに、委員長と話をしている旅人くらいか。
なんか、委員長の体から殺気のようなものが・・・・。
「すまん純。俺、逃げるわ」
昨日同様に、委員長から逃げ回るはめになるとは・・・・・。
「森川義秋ぃぃぃぃぃい!!」
委員長、クラスの中でそんな大声出すなよ!ほら、夏那華と迷梨が俺の方見てるし!
何?なんなのあの目。
俺がなんかやらかしたみたいな視線はやめてくれ!
委員長は声をあげるとともに、俺の方へ突進してきた。
急いでクラス内から脱出しようと試みるも、不運なことに、ドアの前には女子の集団がたむろっていた。
「嘘だろ・・・・うぉっ!!?」
ドカッ!
委員長の飛び蹴りをギリギリのところで避けると、誰かの机にジャストヒット。
机は、見るも無残な木の破片に成り果てていた。
おいおい・・・・普通、蹴っただけで机って壊せるもんなのか?
「ちょっ!?旅人から何言われたかわかんないけど、落ち着けって。話せばわかるぉぉぉぉお!!」
ビュンッ、と風を斬るような音が耳元で聞こえた。
俺は、間一髪で避けた委員長の拳に恐怖を覚えながら後退る。
「くっ・・・・いつのまにか腕を上げたようだな・・・」
委員長は舌打ちしながらも、キラキラと目を輝かせている。
「どんな、修業を、したんだっ?」
委員長は、次々とパンチを繰り出しながら俺に質問してくる。
・・・たぶん、人外になったからです。なんて答えられるはずもなく。
「ひ、秘密だよ、秘密!ってか、そろそろやめようぜ!?」
「なにを!!まだまだぁ!」
俺と委員長が凄まじい攻防を続けていると、知らぬ間に野次馬が出来ていた。
「義秋ぃ!やっちゃえ!」
「ほら、少しは反撃するの!」
何を熱くなってんだこの2人は。
「旅人・・・お前、委員長に何を言ったんだ?」
「・・・・義秋には内緒な。実は、義秋の女たらしっぷりについて語っただけだなんだけど。そしたら思った以上にいい反応してくれてさぁ」
「てめぇ!旅人!聞こえてんだよ!」
俺がそう叫ぶと、旅人はニヤリと笑った。
「ふんっ。何聞いてんだよ!委員長にボコられてしまえ!」
くそぉ。こいつ、昨日のこと俺のせいだと思ってやがるな・・・・。
「い、委員長、聞いただろ?全ては旅人の陰謀なんだって!だから、攻撃をやめてくれ!」
「ダメだ!一発当てないと、家の名に傷がつく!!」
やべぇよ!委員長の目がマジだ・・・・うぉっ!?さっきより攻撃速くなってんだけど!
このままだと、キリがないな・・・。
かと言ってわざと殴られるのもなぁ・・・・冗談抜きで死ねる。
なら、手は1つしかない。
俺はギリギリで避けていた委員長のパンチを見極めるべく、意識を集中させる。
(・・・・・・今だ!)
俺は、委員長の拳が最大限まで伸びきったのを見届けると、委員長の腕を掴み、足払い的な感じで押し倒そうと力を入れる。
が、委員長も負けじと力を入れたせいでバランスを崩した俺は、委員長を押し倒す形で床に伏せてしまった。
「よ、よよよよ義秋!な、何をするんだ!」
「・・・・わざとじゃないよ?」
顔を真っ赤にして慌てふためく委員長に対し、俺は顔を真っ青にする。
さっきの言葉も、委員長に言ったのではなく、俺に冷たい視線を放ってくる2人の人物に言ったのだ。
「・・・女たらし」
「・・・・処罰、なの」
この後、委員長はなぜか早退するし、和月先輩からも怒られるし大変な1日になったのだ。
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そんな昨日のことを思い出しながら、俺はせっせと働く。
早く終わらせて、家でゆっくりする。
それだけが、今、俺を動かすエネルギーになっている。
倉庫整理には2時間程度を費やしたが、無事に何事もなく終わった。
ちなみに、晩飯は「家で待ってるやつらがいるんで・・・」と、丁重に断っておいた。
俺は、「休日に働くという予想外のことが起きたけど、日常的で悪くないな」、と頬を緩めながら帰宅するのだった。