第20話→3人の、暴走。
「まぁ、端的に言うとね。契約者の危険をなんとなく察知して、学校を早退して治療しにきたんだよ」
「はぁ・・・・・・つまり、俺を助けてくれたのは先輩ってことですよね?」
俺がそう言うと、和月先輩は大きく首を縦に振る。
「あっきーには、その・・・・・・死んでほしくないんだよ。い、いや・・・ほら、あのボロ博物館で助けてくれたし、ね?まだ恩返ししてないから・・・・」
和月先輩は、顔を赤らめながら早口でペラペラと言葉を口にする。
「いやぁ。別に、幽霊か・・・・いや、元博物館跡地か。あの場所で助けてもらったのは俺の方だし。恩返しなんて、なんか恥ずかしいっす。だから、気にする必要ないですよ?」
「だ、ダメだよ!」
「・・・・・・先輩?」
俺が先輩に迷惑かかるかなぁ、と思って、恩返しを謹んで遠慮しようとしたら、大声で拒否られてしまった。
(ん〜、先輩にはあれだけしてもらえれば十分だと思うんだがなぁ)
実はあの幽霊館での騒ぎの後、純と旅人が呼んだのか、夏那華と迷梨が突入してきた。
そして、先輩の寝顔を見てニヤニヤしている俺を見て、3人目の契約が発覚したのだ。
しかも、3人目の先輩は天使だったりする。
2人は、最初嫌そうな顔をしていたが、先輩の目が覚めて色々話しているうちに仲良くなったみたいだ。
余談だが、部屋を出たとき、見るも無残なくらいバラバラになった鎧と人体模型が床に転がっていた。たぶん犯人であろう夏那華と迷梨には、あまり逆らわないようにしようと心に誓った。
で、その後。
なんで危険な場所に1人で行ったのか、と、夏那華と迷梨説教をくらった。
人体模型や鎧の件もあり、ビクビクしているところを、和月先輩の巧みな話術で救出されたのだ。
つまり、恩返しをしたいのはむしろこちらの方である。
それに、夏那華のくしゃみのせいで傷ついた内蔵の治療もしてくれたみたいだし。
恩返しをすることはあっても、される理由が思いつかない。
そんなわけで、顔を赤くしながら「むぅ〜」と唸りつつ俺を見ている和月先輩に、恩返しの件は遠慮したいと伝えようと思った時。
「・・・・ずるい」
ボソリと夏那華が呟いた。
「和月ばっかり、ずるいよ」
いや、学年上なんだし先輩をつけるべきじゃないか?
不満げに和月先輩を睨む夏那華に、心のなかで突っ込む。
「確かに、なの・・・・・・なんか、2人が喋ってる時の雰囲気、ずるいの」
・・・2人は何が不満なんだろう。
「義秋、ちょっと和月のおっぱいが大きいからって、発情してないよね?」
「ぶはぁ!?い、いきなり何言ってんだよ!!?」
夏那華の言葉に、思わず吹き出してしまった。
確かに、先輩の胸は見た目Cくらいの手ごろなサイズだけどっ!発情は、少しならしてるかもだけど、ほんの少しだけだし!和月先輩に誤解されたらどうすんのさ!
・・・・・あれ!?和月先輩は何でそんなに嬉しそうな顔してるんだよ!!
「やっぱり、調教が必要なの。新参者に、義秋は渡さないの」
「いや、少し待て。なんで服を脱ぎだすんだお前は。いやいや、夏那華も、真似すんなって!・・・・先輩も脱ぐなぁ!!・・・・・・う、嘘だろ?こっちにくんなよ・・・やめろ、俺はまだそういうことをするには年齢的に早いんじゃないか?」
「「「問答無用!」」」
なんで和月先輩まで!?
俺は脱がされつつあるズボンをなんとか死守しつつ、いきなり暴走を始めた3人をなんとか宥めようと口を動かす。
「よく考えてみろ。俺とそういうことをしたら、お前たち損するぞ?ほら、イケメンの友達なら紹介してやるからさっ!あいつらはロリコンだし、ツルペタはぐぼぉっ!?」
痛い・・・夏那華と迷梨に殴られた。
「せ、先輩も、学校のイケメンを適当に拾った方がいいですよ!?ほら、部屋の中をよく見てください。俺みたいなオタクなんかとなんて」
「もぉ!!あっきーは鈍感すぎるよ!」
「確かに、なの。鈍感すぎて悪意を感じるくらい」
「義秋、わざとじゃないよね?」
「皆さんが何を言ってるか理解出来ないんですけどっ!!あぁ!?ズボンがぁっ!!」
とうとう俺のズボンがやつらの手に。
ピンポーン。
「義秋ぃ!遊びに来たぜぇ!!」
「・・・・・・鍵あいてるな」
下の階から聞き覚えのある声が。
時間的に昼休みくらいだし、心配して抜け出して来てくれたのだろう。
その声のお陰で、3人の手が止まり、パンツは死守できた。
純様と旅人様。今日ほど2人に感謝した日はないぜ。
俺は奪われたズボンを取り返し、それを履きながら純と旅人になんとお礼を言ったらいいか考える。
と、夏那華、迷梨、和月先輩の3人はおもむろに立ち上がると、俺の部屋のドアを開けて出ていった。
「あれ?なんか先客がいるな」
「・・・・・義秋・・・妹に報告しとくか」
その直後。
呪文らしきものの詠唱と、純、旅人の悲鳴が聞こえてきた。
俺は静かに合掌する。
「・・・・・身代わりありがとう。そして、さようなら」
俺を呼ぶような声が聞こえたが、無視だ、無視。
俺は目を瞑り、全力で合掌を続けた。