第18話→出現した黒
なんか、サブタイがぐだぐだになってる気がする・・・・。
俺が止まっても尚、走って向かってくる鎧と人体模型。
強がって微笑んだのもつかの間、俺は再び走りだした。
だって、人体模型の顔が必死なんだもん。
なにあれ?マジギレしてるよ確実に。
そんなに腕が大事なのか?
・・・いや、まぁ、大事だとは思うけどさ・・・・。
「っ!いい加減自重しろよ!!」
そう叫びながら、上の階に上がり続けると、4階くらいで上がる階段がなくなった。
4階には、どこかの部屋へ続く扉が1つだけあり、その他は何もない。
後ろからの足音が近づいてきたので、俺は考える間もなく扉を開いて部屋の中に入った。
☆☆☆☆
部屋の中は、どこかの王室と間違えるほどに豪華な造りになっていた。
壁にかかる鹿の頭や、熊の手。偽物だとは思うが、龍の頭蓋らしきもの、等々。
さすが元博物館だっただけある。
俺は、後ろに迫る鎧と人体模型のことを気にしつつ、ついつい沢山の見たことない品々に見惚れてしまう。
と、部屋によく似合っている白いソファーの上に視線を向けたとき、そこに見知った顔があった。
「・・・・・・先輩!?」
俺は、急いでその人物、和月先輩に駆け寄る。
「・・・すぅ・・・・すぅ」
どうやら眠っているだけみたいだ。
俺は安堵のため息を吐いた。
「しかし、なんでこんなとこに・・・・」
俺がそう呟くと、それに答えるように、部屋の中に笑い声が響く。
「クフフフ・・・・それは、わたくしの食事ですよ?手を触れないでくださいね?」
この声は・・・・間違いない。
「・・・・・・・黒次」
「おやおや。わたくしの名前を知ってるとはねぇ・・・・・・何者だ」
不意に黒次の低い声が耳元で聞こえた。
「っっ!!」
声にならないような、悲鳴にも似た声が口からもれてしまった。
「・・・・・・・・・何者って、ただの高校生だけど?」
ゆっくりと気持ちを落ち着けながら、背後にいるであろう黒次に声をかける。
「・・・冷静、と。なかなかの度胸ですね」
その声とともに、背後の気配が消え去った。
「・・・・・・どうも。なぜかわたくしのことを知っているようですから、名乗る必要はないですね?」
今度は、ソファーを挟んで俺の正面に姿を現した。
間違いない。黒いシルクハットに黒いスーツ。
和月先輩の記憶の中で見た黒次、その人だ。
「・・・先輩から、離れろよ」
「クフフ・・・・それは無理ですね。言ったはずですよ?わたくしの食事だ、と」
「・・・・・・食事?」
「・・・そうですね。人間である貴方は知らないと思いますが、この世には人ならざる存在がいる、ということです。中には、人間などを主食にしている者もね」
「・・・・なるほど・・・で、俺が先輩が食べられるのを大人しく見ているとでも思ったか?」
俺は、なるべく低い声で、牽制するように言った。
「・・・・・・おもしろい。貴方が、わたくしに勝てるとでも?」
俺の挑発に乗るように、黒次の体を影が覆う。
あいつは、俺の能力のことは知らないはず。
やるなら最初の1発で決めなければ。
俺は拳を強く握る。
黒次は、影と一体化するように自分の姿を隠す。
一体化した影は、どんどん長細くなっていき、すうっと消えた。
「・・・・・後ろ、ですよ?」
俺は声に反応して、体を伏せる。
シュッと風を切る音とともに、頭上を何かが通過する。
「うぉっ!!あぶねぇ!」
俺は床に伏せると同時に、体を転がして黒次から距離をとる。
距離がとれたところで、立ち上がり、黒次に視線を固定させる。
黒次の手には、黒い刀らしきものが握られていた。
「今のを避けるとは・・・・なかなかやりますねぇ」
黒次はニヤリと笑うと、再び影の中に身を隠した。
「またかよっ!!見えないとか、反則だろぉ!!」
俺は舌打ちしながら、気配を探る。
「ぬぉっっ!!」
と、背後から気配が。なんとかギリギリで直撃は避けたけど、どうやら服は破れたみたいだ。
「・・・・・また、ですか。なんと運のいい」
そう言って、再び姿を消す黒次。
実は、運だけじゃなかったりする。
意識を集中すると、微かだが気配を感じる。
たぶん、和月先輩か迷梨との契約で得た新しい能力なんだろうが・・・・詳細がわからないことには、応用のしようがない。
(・・・集中・・・・集中)
心でそう呟きながら、黒次の気配を探る。
(・・・・・・・・・捕まえたっ!)
右斜め前辺りから黒次の気配を感じた。
俺は、その場所に向かって全力で拳を突き出す。
「制服弁償しろやぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
ドガッ!
鈍い音が部屋に響く。
「グフッ!?ま、まさか・・・・」
俺の拳は、突然出現した黒次の顔に見事ヒットした。
途端、俺の拳に黒次の影が吸い込まれていく。
「っ!?貴様!?」
黒次は数歩後退り、俺を睨む。
「・・・・・なるほど、契約者か・・・」
黒次は、苦々しい顔をする。
「ちっ!殺りそこねたか」
俺は大きく舌打ちする。
たぶん、今ので能力の断片はバレたはず。
「・・・・魔力吸収能力ですか・・・厄介な・・・・・・」
やっぱりな。
黒次という男は、強いだけじゃなく頭の回転も速いみたいだ。
言葉遣いから、その辺の予想はできてた。
だから、尚更能力を知られたくなかったんだが。
「・・・・・・・楔家も、いい廻り合わせをしたものだ」
黒次はそう呟くと、俺に背中を向けて歩きだした。
「・・・青年、名前は?」
黒次の言葉に答えるかどうか迷ったけど、とりあえず名乗ってみた。
「・・・・・・義秋」
「クフフフフ・・・・義を司る、秋、ね。・・・なるほど、いい名前だ」
黒次は独り言のように言葉を発すると、影を纏い姿を消した。
「青年・・・・また、会う時を楽しみにしているよ」
その言葉だけを言い残して。
俺は何をするでもなくそれを見送ると、ソファーで寝ている和月先輩の傍に行き、頬を軽く撫でる。
「・・・・もう、二度と会いたくないんだけど」
黒次の言葉に、そっと返事をすると、未だにスヤスヤと眠っている和月先輩の寝顔を見ながら、俺は軽く微笑んだ。