第16話→和月先輩の、記憶。
夢・・・・俺は夢を見ているのか?
途切れた意識の中、目の前に現われたのは、泣き喚く女の子と、それを哀れむような目で見ている数人の大人たち。
それと、凄い勢いで燃える大きな家。
女の子の顔には見覚えがある。
幼くはあるが、和月先輩その人だった。
突然の目の前の光景に、何事かと首を傾げていたが、これが和月先輩の記憶であることをなんとなく理解できた。
契約の影響だろうか。
「・・・先輩!」
俺は、泣いている幼い和月先輩に声をかけながら駆け寄るが、触れることはできない。
歯痒さに唇を噛み締めながらも、泣いている和月先輩に声をかける。
ふと、周りの大人達の声が聞こえてきた。
「なんでも、誰かが火を点けたらしいわよ?」
「知ってる知ってる。なんでも、楔さん家の旦那さんが狙いだったとか」
近所のおばちゃん達の声が耳に入ってくる。
(なんつー大きなひそひそ話だよ)
そんなことを思いつつ、あることに気付く。
俺に聞こえているってことは、もちろん、泣いている和月先輩の耳にも届いているはず。
恐る恐る和月先輩を見ると、涙がたまった目でおばちゃん達を睨んでいた。
「お・・・お父さんと、お母さんを燃やしたのは・・・・・誰なの?」
震える声でそう呟く和月先輩。
話の流れから察するに、どうやら和月先輩の両親は、今、目の前で燃えている家の中らしい。
「あ・・・・えっと、ねぇ?」
「そ、そうよ。うん・・・・・ごめんなさいね。和月ちゃんは、気にしなくていいから」
そう言って、和月先輩の頭を撫でる二人のおばちゃん。
(・・・そんなこと、聞いてないっ!!)
和月先輩の心の声らしきものが、頭の中で響く。
おばちゃん達は、焦るようにどこかへ去っていった。
それに続くように、他の大人たちも去り、燃え続ける家の前には和月先輩1人が取り残されていた。
(薄情なやつらだな・・・・)
俺は舌打ちするとともに、和月先輩の横に座り込んだ。
和月先輩には、俺の存在を認識することはできないだろう。
けど、なんとなく傍に居てやりたかった。
「・・・・・・殺してやる」
横の和月先輩が、そう呟く。
すると、ザザァっと目の前が揺れて、目にうつる光景が、燃える家からどこかの森の中に変化した。
辺り一面木だらけで、森という単語以外の言葉が見つからないような、そんな場所に、和月先輩と黒服の男が対峙するように立っていた。
男は、黒いシルクハットを深くかぶり、黒いスーツを着込んでいる。
まさに、黒一色といったところだ。
和月先輩も、先程よりは少し大人びた雰囲気になっていた。
制服から察するに、どうやらうちの高校の1年生らしい。
女子は、学年別に制服を留めるリボンの色が違うからすぐわかる。
和月先輩の背中には、白い翼が生えていて、どうやら黒服の男戦っている最中とらしい。
「あなたが、お父さんとお母さんを殺した犯人?」
和月先輩がそう質問すると、男は低い声で笑いだした。
「クッフッフ・・・・お前、楔家の生き残りか・・・おもしろい」
男が手を指揮者のように振ると、男のスーツの黒がザワッと揺らいだ。
「さぁて、あの男の娘か。・・・・どうやって殺してやろう」
男がにやりと笑うと、スーツの黒が地面にも広がり、足元から和月先輩を狙った。
「っっ!!水素、圧縮、増幅、圧縮、圧縮、複製!」
和月先輩は、その黒を避けるように空へ飛び上がると、言葉を紡ぐ。
すると、和月先輩の周りにソフトボールサイズの水の球が複数現われた。
「ほぅ・・・元素操作の能力は、きちんと引き継いでるようだなぁ・・・・クフフフフ」
男は満足気に頷きながら、低い笑い声を洩らす。
「さぁて、楔家のお嬢さん。冥土の土産にわたくしの名前を教えてあげよう」
和月先輩は、男の言葉を無視するように、水球を飛ばす。
土で出来た地面が抉れるほどの威力があるそれも、男は、自分の黒で弾き飛ばす。
「お初にお目にかかります。わたくし、影使い〈ShadowMaster〉の黒次〈こくじ〉という者です。以後、お見知りおきを」
男、黒次は、名乗るとともに、自分の黒、つまり影を、和月先輩に向かって放った。
影は、地を這う蛇のように和月先輩に迫る。
和月先輩の真下まできた影は、飛んでいる和月先輩を飲み込む網のように広がり、そのまま食らい付いた。
「・・・・おや?」
しばらくして、黒次が首を傾げる。
黒次が手を振り下ろすと、和月先輩を覆っていた影が、元のスーツに戻っていく。
覆っていた影は完全に消え去ったが、そこに和月先輩の姿はなかった。
と、視界がノイズのように揺れて、再び目の前の光景が変わった。
どうやら、今度はどこかの洞窟の中らしい。
洞窟の奥から声がして、ゆっくりと足を進めると、そこには、和月先輩が血を流して倒れていた。
どうやって、こんな場所に移動したのだろうか?
そんな疑問を抱きつつ、俺は、和月先輩に慌てて駆け寄った。
触ることすら出来ないけど、苦しそうに呻く女の子を見て何もしないなんて、俺の中では有り得ないことだ。
さっきの影の影響か、和月先輩の白くて綺麗な翼が、所々黒くなっている。
「先輩っ!しっかりして下さい!」
俺は必死に声をかける。
なんなんだよコレ。
なんで俺は何も出来ないんだ?
「・・・・っ!」
洞窟の壁を思いっきり殴ったら、手が切れた。
人には触れないのに、なんなんだよ、マジで。
俺は、血がどんどん出てくるのも構わず先輩に触れようと手を伸ばす。
すると、突然背後に視線を感じた。
勢いよく振り返ると、そこには1人の女の子が立っていた。
暗い洞窟の中で、まるで闇を照らす光のように、綺麗な銀色の髪をなびかせている女の子。
そして、急に意識がぼんやりとしてきた。
女の子はゆっくりと言葉を口にする。
「・・・・・光よ、命を」
俺は、女の子の言葉を聞き終わると同時に、意識が途切れた。
こんにちは。 なんか、自分の文才のなさに萎えますw シリアスな話は、あと1話か2話続ける予定なので、駄文乙とか思ってる人は、シリアスな部分を飛ばして読んでくださいね〜。