第13話→天使と悪魔の関係について、昔話。
「天使と悪魔という存在が生まれたのは、初源の人〈アダムとイヴ〉が生まれたのよりもっと前の話なの。天使界には神が、悪魔界には邪神が、その二つの存在は、仲間を増やしつつそれぞれの世界で平和に暮らしていたの」
迷梨がそこで言葉を区切ると、続いて夏那華が話を始めた。
「ところが、第三の世界。つまり、今、秋義がいるこの世界が出来てからは、平和という言葉がなくなったんだよ。・・・・まず、この世界に手を出したのは神。初源の人を作り出し、神は絶対だと教え込んだ。けど、邪神もこの世界には興味があったから・・・・・・だから、知恵の果実〈ちえのみ〉を初源の人に食べさせた」
夏那華は、勉強嫌いらしいのによく知ってるなぁと感心しつつ、話を頭の中で整理する。
つまり、神と邪神。つまり、悪魔の創造主と天使の創造主の喧嘩の原因が、俺たち人間だってことだよな?端的に言うと。
俺が考えをまとめている間にも、二人は話を続ける。
「知恵の果実〈ちえのみ〉のお陰で、人間は人間としての存在を確立したの。そこから、人はたくさん増えた。でも、神はそれを許さなかった。人が、神を崇めかったから・・・・そして、神と邪神。つまり、悪魔と天使の争いが始まったの」
「力はお互いにほぼ互角。先手を打ったのは、天使だったんだよ。・・・・・神は、人間界にいる悪魔を処理するべく、ある人間と最初の契約をした。その人物は、人間界でも有名な『イエス・キリスト』という聖職者。秋義も知ってるでしょ?」
俺は夏那華の言葉に頷く。
イエス・キリスト、なんて、知らないのは小学生か無知な中学生くらいじゃないのか?
確か、世界史の教科書とかにも名前が載ってたし。
「イエス・キリストの力は、『蘇生』と『浄化』。蘇生は、あらゆる傷を治す力で、魂さえあれば死人を蘇らせることも可能だった。でも、邪神を初めとする悪魔が最も恐れた力は、浄化なんだよ」
「そうなの。浄化は、神や天使にはない、人間特有の力。邪神を含め、悪魔にだけしか通用しないとっても恐ろしい力なの。・・・・神や天使には全く効かず、邪神や悪魔には効果抜群。イエス・キリストは、対邪神用の切り札として丁重に扱われて、その浄化の力で人々を救い、弟子をとるまでになったの」
「それで、身の危険を感じた邪神は、神と同じく契約の法を開発して、ある人間と契約をした。イエス・キリストに近しいその人物の名前は」
「十三人目〈ユダ〉・・・か?」
俺が夏那華の言葉に重ねるように答えると、夏那華は驚いたように目を見開く。
「・・・・よく知ってるね」
「・・・・・・そうか?割りと知ってる人いるんじゃないのか?」
俺がそう答えると、夏那華は苦笑しながら話を続ける。
「・・・・・まぁ、いいけどね。・・・というわけで、その時初めて、契約の法が悪魔界に確立したんだよ。で、十三人目〈ユダ〉はキリストを政府に売り渡し、処刑した。十三人目〈ユダ〉の能力は、『支配』と『浸透』。支配は、神の手が及んでない人を操る能力で、浸透は、どんなことにでも順応出来るって能力なんだよ。」
「浸透の能力は、とっても凄いの。天使の中に一人で潜入しても、順応できるしね。・・・・・で、支配で政府の人間を操り、イエス・キリストを処刑したのはいいけど、彼には、蘇生の能力があったの。傷はかなり深かったけど、3日という短期間で、再生して復活したの」
よしよし、とりあえず話をまとめてみよう。
つまり、お互いに拮抗してた神と邪神が、人間を使ってその拮抗を打ち破ったってとこか?
・・・・・・ていうか、日本史とかは頭に入んないのに、こういう話だけはよく覚えれるんだよね。
ほんと、不思議すぎる。
「そこからは、人間界を巻き込んだ戦争。イエス・キリストは、自分を信頼してくれた人々とともに。十三人目〈ユダ〉は、自分が支配している人とともに戦って・・・・辛うじて天使側に軍配があがったらしいんだよ」
「・・・・らしい?」
「うん。この話は、所謂昔ばなしみたいなのだからね。正確なとこはよくわからないんだって」
「そうなの。そこからは悪魔史の域に入るから、私が説明するの」
迷梨の言葉に、気まずそうな顔をする夏那華。
まぁ・・・勉強出来ない子だから仕方ないね。
「その戦争での被害は、人間界にも悪魔界にも天使界にも多くの影響を与えたの。その時、邪神の直系である、現在の王。ハ・デス・神上・ラクィナフ様が、神の直系、ミカエル・シュライ様と天魔協定を結んで、見た目上は平和になったの」
「・・・・そうだね。今、現在でも、天使だから、悪魔だからと言って差別する大人がたくさんいて、それが子供たちにも伝染してしまってるし。内面上は、まだ平和にはなってないんだよ」
二人は表情を暗くして俯く。
俺は、朝食の後片付けをするべく、皿を重ねながら二人に問い掛ける。
「二人は、どう思ってるんだ?」
「・・・・私は、別になんとも思ってないよ。だって、天使にもやさしい人はたくさんいるし」
「私も、なの。天使の優しさ、いっぱい知ってるから」
俺の言葉に、ゴニョゴニョと答える二人。
うんうん。と俺は頷く。
やっぱり、二人はなかなかいい性格をしているみたいだな。
見た目ツルペタはあれだけど。
会えた悪魔が、この二人で良かったと思う。
「二人とも、優しいね。なんか、惚れちゃいそう」
俺が冗談でそう言うと、二人は顔を赤くしながら慌てふためく。
「ほ、ほほほほ惚れちゃうぅぅう!?私に、義秋が?・・・・・・はぅ〜」
バタンと、夏那華が机に顔を伏せる。
「な、なのなのなのなのなのなのなの!?」
同じく迷梨も。
今日の迷梨は、ツインテールじゃなくて、ポニーテールなんだなぁ〜と思いながら、皿を洗う。
なんで二人とも、顔真っ赤になってんだろ?
と、首を傾げる義秋は、自分が言った冗談を、二人が真に受けていることなどこれっぽっちも気がつかなかった。
なんか、キリスト教徒の人には申し訳ない話でしたね。 これは、あくまで小説の中での話なので、熱心なキリスト信者さんがいたら、許してください。 とりあえず、会話長いですし。駄文サーセンでした。