表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜  作者: 大森 樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/30

7 秘密の治療

 翌日にはレオンさんはいつも通りに明るい彼に戻っていた。たぶん無理をしているだろうけれど。


 魔法騎士団の団長から今回の報告が書類で上がって来た。私はそれに目を通してファイルに仕舞った。


 魔物討伐中、立ち入り禁止の森の中に子どもが迷い込んでいたらしい。しかも皆そのことに気が付いていなかった。魔物は子どもや女性を好む。弱いものから狙うのか、食べると美味しいのかは不明だがそういうものなのだ。


 魔物が襲いかかろうとした時に、レオンさんが初めて子どもの存在に気が付いた。テレポーテーションをしようとしたが、魔力が足りずに移動は叶わなかった。そのため残りの魔力で出せる攻撃魔法に切り替えたが、魔物の牙は女の子の手を掠め……そのすぐ後に他の部隊にいた団長が異変に気が付き助けに来てくれたらしい。


 レオンさんは自分の魔力量が多いことを知っているので、討伐の最初から全力で惜しみなく力を使っていたそうだ。様々な属性の力を持つ彼の魔力消費は半端な量ではない。しかし、元々の魔力量も多い彼は今まで魔力切れを起こしたことなどなかったのだ。


 しかし今回の魔物は強かった。しかも子どもがいたというイレギュラーも重なって最後の最後で魔力が()()()()()()()気を失った。


 だから『自分の力を過信していた』と後悔していたのだ。団長からレオンさんは説教を受けたようだ。


『何故余力を残さなかった?お前にはそれができたはずだ。自分は強いと勘違いしたのか?その勘違いで、お前自身が死ぬなら何も言わない。でも結局死ぬのは弱い者。その弱い者達を全力で守る気がないなら、魔法省を今すぐやめろ』


 厳しい言葉だが仕方がない。彼は国王陛下直属の臣下である魔法省に所属し、全国民を守る義務と責任がある。その危険がある分、魔法省の魔法使いはこの国の中でずば抜けて給与が高い。レオンさんは素直に自分の非を認め、一から鍛え直してもらうように団長にお願いをした。


『わかったならもう何も言うことはない。レオンより経験のある隊員達が気が付いていない中で、いち早く子どもを守り命を救ったことはよくやった。怪我させたことを後悔しているのなら……その分強くなれ』


『……はい!』


 レオンさんは団長が直々に育てるということになったらしい。彼の魔力量は凄いが、まだ若いので上手な力の使い方を知らないのだ。


 もちろんレオンさんだけが叱責されたわけではなく、その場にいた隊員達も魔物に気を取られて保護対象の子どもに気が付かなかったことを反省させられたようだ。


 団長は厳しいが、経験も魔力も人格的にも申し分がない。きっとレオンさんや他の隊員達を良い方向に導いてくれるだろう。


「レベッカさーん!」


 遠くからぶんぶんと笑顔で手を振る彼に、私も小さく手を振り返した。するといつもスルーされるのに、振り返されたのが意外だったのか嬉しそうにニコリと微笑んでいた。


 ――さてと、私は私ですることがある。


「事務長、急で申し訳ないですが明日お休みをいただけませんか?」


「もちろんいいですよ。仕事引き継ぐことありますか?」


「大丈夫です。全て終わらせてから帰りますから」


「……さすがですね。ゆっくり休んでください」


「ありがとうございます」


 私はペコリと頭を下げ、アリシアさんにも明日休む旨を伝えた。彼女は「どうぞどうぞ。やっと休む気になられたんですね」と快諾してくれた。


 魔法省の事務はとてもよい職場だ。事務長もアリシアさんも良い人で基本的に真面目だ。仕事が終わっていれば、休みもフレキシブルに対応してくれてお給料も良い。細かい仕事や雑用も多いが、私はそういうことは得意なのでとても向いている。


 集中して仕事を終わらせた後、私はこの前の魔物討伐がどこであったのかを調べた。二つ先の街にある森か。よかった……これならばまだ近い。


 事務報告を読むと、一般の負傷者欄にアリアという八歳の女の子の名前が書いてあった。腕の軽傷と書かれていたので、レオンさんの言う通り命に別状はなさそうだ。


 私は寮に戻り、明日に備えて早めにゆっくり休むことにした。



♢♢♢



 辻馬車を拾い、目的地を告げる。普段働いている時に出掛けるのは不思議な感じだが、たまにはこういうのもいい。


 中で本を読んで過ごしていると、あっという間に二つ先の街に着いた。御者に運賃を渡し、お礼を言った。


 街のお花屋さんで小さな花束を買い、アリアという女の子の家を探した。


「すみませんが、アリアさんという八歳の女の子のお家をご存知ありませんか?」


 街で聞き込みをすると、すぐに家を教えてもらえた。小さな街なのでみんな知り合いのようだ。


 私は大きく深呼吸をして、意を決して扉を叩いた。ガチャリと扉が開くと、人の良さそうな女性が顔を出した。アリアさんのお母様だろうか。


「あの……どなたでしょうか?」


「いきなりお伺いして申し訳ありません。私は王宮の魔法省に勤めているレベッカと申します。ここはアリアさんのお宅でお間違いないですか?」


 私はできるだけ丁寧に頭を下げた。すると彼女は「まあ、魔法省の!?私はアリアの母です。先日は娘がお世話になりすみませんでした」とペコペコと謝っている。


「アリアさんにこれを。お見舞いですわ」


「まぁ、ご丁寧に。ありがとうございます」

 

 何もおもてなしできませんけれど、どうぞと家の中に招き入れてくれた。


「アリア!アリア!!」


 お母様が彼女を呼ぶと、腕に包帯をぐるぐるに巻かれたアリアさんがひょこっと顔を出した。


「あなたを心配して来てくださったの。ほら、お花貰ったのよ」


「……お姉ちゃん、ありがと」


 アリアさんは花束をギュッと抱き締めて、とぼとぼと奥の部屋に帰って行った。


「すみません。勝手に森に行ったことを主人と二人でだいぶ怒ったものですから、元気がなくて。あと……腕に傷が残るとお医者様に言われてショックを受けたみたいで」


「……そうですか」


 女の子に傷が残るのは大問題だ。貴族ならお嫁にいけない可能性もある程だ。男なら傷も勲章と言われるのに、女なら少しの傷も許されない。そんなことはおかしいし間違っていると思うが、まだまだその偏見はこの国に残っている。


 平民であるアリアさんも、貴族程ではないかもしれないが見えるところにある傷はマイナスになる可能性が多い。本来ならそんな傷など気にしない男性と巡り逢って欲しいものだけれど。


「でも、命が助かっただけでありがたいです」


 そう言いながら、アリアさんのお母様はポロリと涙を流した。


「秘密を守っていただけるのであれば……お嬢さんの怪我を治せます」


 私がそう言うと、彼女はバッと顔を上げた。


「ほ……本当ですか!?」


「ええ。しかし条件があります。治療しているところは誰にも見せません。アリアさんにも目隠しをしていただきます。それと誰に何を聞かれても、絶対に私が治したと言わないと誓えますか?」


「アリアがそれで治るのであれば……誓います」


 きっとそう言ってくださると思っていた。彼女が治るのであれば、そしてレオンさんの心の傷が軽くなるのであれば……私の力を使う意味がある。


「あの……お恥ずかしい限りですが、お金はあまりないんです。でもどれだけかかってもお支払いしますから」


 何か勘違いされているらしい。私はお金が欲しくて治療するわけではない。


「お金はいりません。アリアさんを守ったレオンという若い魔法使いが、怪我をさせたことを気に病んでいました。だから……もしまた彼と会ったら笑顔で接してやってください」


「そんなことでいいのですか?レオン様はアリアの命の恩人です。感謝しかありません」


「いつか……それを彼に直接伝えてやってくれませんか?」


 お母様は「はい。必ず」とはらはらと涙を流した。私はアリアさんを呼んで、治療をすることを話した。彼女は何故秘密にしないといけないの?と首を傾げていたが『魔法を見たら治らないの』とだけ伝えた。


「傷が治るなら……ちゃんと秘密にする」


 彼女はこくんと縦に頷いた。アリアさんはとても賢い良い子だ。


「アリアさん、わかってくれてありがとう」


 私は彼女の目をタオルで縛った。アリアさんは不安なようで「怖いよ」と私の服を掴んだ。


「大丈夫よ。すぐ終わるからね」


 同じく不安そうなアリアさんのお母様にも出て行ってもらい、治療を開始する。彼女の怪我であれば、少量で済むだろう。


 私は鞄からハサミを取り出して、ジャキッと髪の先を切り落とした。パラパラと髪の毛が落ちた瞬間に、その髪は消えアリアさんの身体は光に包まれた。


治療(キュア)


 これでアリアさんの傷は治ったはずだ。きっと傷跡ひとつ残っていないだろう。


 ――切った髪は二度と伸びない。


 それでも、アリアさんを治すことはレオンさんのために意味があることだと思っている。だから後悔はしていない。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ