20 お泊まりデート⑥
翌朝、彼は約束通り私を抱き締めたまま寝てくれていた。
「レオンさん、おはよう……ございます」
「おはようございます、レベッカさん」
少し照れ臭いが彼が私の髪をサラリと撫でてくれるのが、とても気持ちがいい。もっとくっつきたくて、彼の胸にぎゅっと身体を押し付けた。
「うわっ……ダ、ダメです!」
ベッドの中で彼に急に距離を取られた。あからさまに拒否をされた私は傷つき「ごめんなさい。はしたなくて」とすぐに謝った。
「あー!違う、違うんです。その……抱きついてくださることはめちゃくちゃ嬉しいんですが……色んな事情がありまして」
レオンさんは頬を染め気まずそうに目線を逸らしながら、ポリポリと顎を指でかいている。
「…………!」
恋愛に疎い私でも、そこまで言われて流石に察しがついた。殿方には色々あるらしいことは知っている。
「き、気が遣えずにすみません」
「いえ。ただ好きな人と密着してると自然と……。そのうち落ち着くので、知らないふりをしていただけると……有難いデス。ハズカシイノデ」
彼はくるりと私に背を向け片言になりながら、顔を両手で隠していた。私は彼の背中にそっと抱き着ついた。
「レベッカさん。そんな可愛いことされたら、一生落ち着かなさそうなんですけど」
「一生って……ふふふ」
「もう……レベッカさんは悪い女ですね。俺が必死に我慢しているのに」
彼はくるりとこちらを向いて、私の髪をぐしゃぐしゃと勢いよくかき回した。
「きゃあ、やめてくださいっ……もう、やだ」
「いたいけで純情な俺を揶揄った罰です」
「きゃっ、くすぐったい。ははっ……ふふ」
「許しませんからっ!」
じゃれあって二人でひとしきり笑った後、彼がある一点を見つめて固まった。
「レオンさん?」
「その……昨晩すみませんでした。自分の気持ちが抑えられなくて」
私が何のことが分からずキョトンとしていると、彼は申し訳なさそうに眉を下げながらトントンと私の首を触った。
「跡付けてしまって」
「大丈夫……だと思います。髪を下ろして……メイクでも隠せますし……たぶん」
まだ鏡を見ていないが、おそらく隠せると思う。急に昨日のことを思い出して恥ずかしくなった。
「次は見えない所に付けますね」
そう耳元で囁いた後、ちゅっと私の頬にキスをして色っぽく微笑み「そろそろ起きましょうか」と部屋から出て行った。
私は頬を手で押さえながら、その場に一人取り残された。
――いきなり男っぽさを出さないで欲しい。
レオンさん再会して約一年。彼は見た目も中身もすごく男らしくなった。しかしまだまだ無邪気で子どもっぽい雰囲気も残っており、それがとてもアンバランスなのだ。
私の方が年上なので、基本的には甘えてくるのにたまに強引なので戸惑ってしまう。
――どちらが本当のレオンさんなのかしら。
いや、たぶん両方なのだろう。きっともう数年したら彼は色々な経験を経てスマートな大人になる。だから今のレオンさんを知っているのは私だけだ。
それがなんだかとても幸せなことのような気がした。私がいなくなった後に出逢う女性は、こんなに可愛くて格好良い彼を知ることはできないはずだ。
♢♢♢
「……まさか団長が払ってくれているとは」
「まあ、なんだかんだであの方は面倒見が良いですからね」
ホテルをチェックアウトする際に『料金はすでにいただいております』と言われたのだ。どうやら団長が事前にポケットマネーで支払ってくれていたらしい。
「なんか悔しいです!」
複雑な表情をしているレオンさんを「まあまあ」と宥めてホテルを出た。
「レベッカさん、テレポーテーションで帰りますか?一瞬で着きますよ」
「え?」
「任務中は魔力温存するためにわざと使わないんですけど、今日は休暇中でもう帰るだけだしテレポーテーション一回くらい俺はなんてことないですから」
そういえば、一度行った場所にはテレポーテーションできると聞いたことがある。こんな離れた土地でもすぐに帰れるというのだから魔法使いは凄いと感心してしまう。
魔法省でも高位魔法のテレポーテーションが使えるのなんて団長と副団長……そしてレオンさんくらいだけだが。
「……レオンさんは馬車だと疲れますか?」
有難いお話だが、テレポーテーションだとすぐに着いてしまう。つまりはこの旅が終わると言うことだ。
「いえ、別に疲れませんけど」
「なら……もう少し一緒にいたい……です」
私は彼の袖口をちょんと引っ張り、勇気を振り絞ってそう告げた。するとレオンさんにガバリと抱き締められた。
「レベッカさん……可愛い。絶対に馬車で帰りましょう!帰るまでが旅行の醍醐味ですもんね!!俺もまだレベッカさんと一緒にいたいです」
そして二人で楽しく話しながら馬車の中でゆっくりと過ごした。長旅なはずなのに、レオンさんといるとあっという間に時間が過ぎていくから不思議だ。
――もうすっかり見慣れた景色だわ。
この旅がもうすぐ終わってしまう。仕方のないことだけど、少しだけ切ない気分になった。
「レベッカさん、どうもありがとうございました。すごくすごく楽しかったです。また旅行しましょうね」
「……ええ。私もとても楽しかったです」
「レベッカさん、大好き」
馬車が止まると彼は嬉しそうに微笑みちゅっ、と唇に軽く触れるだけのキスをしてくれた。
「私も大好きです」
「へへ。俺、今めっちゃ幸せです」
照れたように笑いながら、彼は馬車から降りるエスコートをしてくれた。
「離れるの寂しいですけど、明日仕事だしゆっくり休んでください」
「はい。レオンさんも」
「ちょっと早いけど、おやすみなさい。また明日」
私はレオンさんに手を振って、寮の中に帰った。一昨日からずっと彼と過ごしていたので、一人になるだけですごく寂しい。
この旅行は私にとってまさに幸せの絶頂だった。私はこの後に大変なことが起こるなんて思ってもいなかった。




