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13 変わりたい

「な、な、な、なんでそんなことレベッカさんが知っているんですか!?」


 レオンさんは青ざめて、わかりやすく焦っていた。キスしたのは間違いないらしい。


「私のことをずっと好きだと言ってくださっていたのに、他の女性とキスはできるのね」


 なんだか面白くなくて、そんな嫌味な言い方をしてしまった。もしかしたらカトリーナ様が私に嘘をついているのかも……と思っていたのに。


「ち、違う!違うんです。あれは事故みたいなもので!!」


「事故?」


「そうです!親同士が仲良くて、小さい頃カトリーナはよく家に来てたんです。遊んでてあいつが怪我しそうになった時に、助けようとして体勢を崩して……その時に唇が一瞬触れてしまっただけで」


 なるほど……確かにそれは事故かもしれない。


「しかもこれは十一歳のガキの頃の話です!俺はその時からあなたが好きだったし、あれは決してキスなんかじゃありません。信じてください!!」


「十一歳の時……」


 レオンさんは真剣な表情で、必死にそう伝えてくれた。カトリーナ様はきっとこの時からレオンさんを好きだったのだろうなと少し切なくなった。


「だから、こんなことで俺を嫌わないでください。俺がキスしたいと思うのは、大好きなレベッカさんだけです。信じてください」


 彼の偽りないストレートな言葉に、胸をぎゅっと締め付けられる。嬉しくて恥ずかしい……自分の身体中が熱くなっていくのがわかる。


「わかりました。信じます」


 私の言葉を聞いて「よかった」と彼はベッドに倒れ込んだ。


「レベッカさん、好きですよ」


 ベッドから上目遣いで私を見つめて、嬉しそうにそう言った。


「……知っています」


 私はなかなか可愛くなれそうにもない。長年の癖はすぐには抜けないようだ。


「幸せだな……大好き!愛してる!!」


 彼は私の腰に抱き着いて、すりすりと鼻を寄せて甘えている。


「も、もうわかりましたから」


「ふふ、レベッカさん照れてる。かわい……」


 レオンさんは、ふにゃふにゃに蕩けるように嬉しそうに微笑んでいる。


「俺、一刻も早く治します!」


「ええ、そうしてくださいませ。私はそろそろ行きますね」


 彼の甘い雰囲気に慣れるわけもなく、いっぱいいっぱいの私は医務室を早く去りたかった。


 立ち上がった私を見て「まだ一緒にいたいです」と嘆いていたが「怪我人ですから安静にしてください」と嗜めると「ちぇっ」と唇を尖らせて拗ねていた。


 その可愛らしさにもう少しいてもいいかも、とグラッと気持ちが揺らぎそうになるが心を鬼にした。


「ではまた明日」


「レベッカさん!待ってください。一つ聞きたいことがあったんです」


「なんですか?」


「アリアちゃんの傷跡を治してくれたの……レベッカさんですよね?」


 ――レオンさんは私だと気が付いていたのか。


「この前近くに寄ったので、見舞いに行ったら綺麗に傷跡がなくなっていたので驚きました。アリアちゃんもお母さんも誰に治してもらったかは頑なに教えてくれなかったけど……絶対にレベッカさんだって……俺が凹んでたから……わざわざ行ってくれたんだってすぐにわかりました」


 どうして私だとわかったのだろうか?普通はカトリーナ嬢だと真っ先に思うだろう。


「どうして私だと?カトリーナ様の可能性もあるでしょう?」


 そう質問すると、レオンさんは「あり得ません」とフッと笑った。


「カトリーナなら、治したことをわざわざ秘密にするのはおかしい。それにカトリーナの力では傷跡までは完全に消せないだろうから。二人から何のお礼も貰わず、あんな凄い力を使って誰にも言わないなんてお人好しはあなたしかいません」


「お礼はいただきました」


 そう、私はあの親子と約束をした。レオンさんが来たら感謝を伝えてあげて欲しいと。


「お母さんは改めて『俺のおかげで娘が生きている。本当にありがとうございます』ってお礼言ってくれました。治してくれた方は俺の心配をしていたと……」


 そうか……あのお母さんはちゃんと約束を守ってくれたようだ。


「レベッカさんのおかげで心が救われました。あの時は未熟で怪我をさせてしまったけれど、それでも命を助けられて良かったってちゃんと思えました。二人にもっと強くなるからと約束してきました」


 彼の目はキラリと光り、希望に満ちている。私はこの瞳をしている時のレオンさんが一番好きだ。


「大事な髪を切らせてすみませんでした。俺のためにしてくださったのは分かっていますし、感謝の気持ちでいっぱいです。でももうこれ以上は自分を犠牲にしないでください。お願いします」


 泣きそうな顔で、私の手を優しく握ってくれた。


「約束するわ」


「はい。俺も自分を大事にすると約束します……レベッカさんのために」


 その誓いが嬉しくてフッと微笑むと、彼は頬を染めグッと唇を噛み締めた後……おでこにちゅっとキスをした。私は真っ赤になっておでこを手で押さえた。


「……誓いのキスです。唇にするのは我慢したんで、褒めてください」


 そう言ってニパッと悪戯っぽく笑った。私は「馬鹿」とわざと傷口をちょんと突くと「痛ぇっ!けど……レベッカさんから触れてもらえるなら、痛みすらも嬉しいです」なんてヘラヘラ笑いながらちょっと危ない事を言っていた。




♢♢♢




「よし。これでいいかな」



 仕事中は効率重視。それは私の中では譲れないが、レオンさんのために少しでも変わりたい。


『地味で行き遅れな上に、化粧っ気のない口煩い髪の短い事務員』


 それが暴言を吐いた男の評価だ。行き遅れと口煩い……そして髪が短いことも私にはどうしようもない。


 それならば『地味で化粧っ気がない』部分を変えるしかない。


 私はいつもより一時間早く起きて、プライベートの時にする以上に丁寧に化粧をして髪もアレンジして綺麗に纏めた。眼鏡も伊達に近かったので、外すことに決めた。そして最後の仕上げにレオンさんにもらった髪留めを付けた。これは私のお守りだ。


 ――もう私のことで喧嘩をして欲しくない。


 私は周囲から『地味』だと思われている事を知っていたが、今まではあえてそうしてきた。しかし彼の横に立つと決めた以上は、誰から見ても彼に相応しい自分でいたい。


「おはようございます」


 軽く微笑みながら、普段通り挨拶をすると魔法省の皆が驚いた顔をする。いつもと違うのは、髪とお化粧……そして眼鏡を外し表情を少しだけ柔らかくしただけだ。


「その声は……まさかレベッカ嬢!?」


 まさかとは流石に失礼ではないか。そんなに違うのかしら?と首を捻った。周囲は私が思ったよりザワザワと煩くなった。


「レベッカさんが眼鏡を外した!?一体どうしたのかしら?」

「いやー……なかなかの美人だったんだな」

「あの地味なレベッカ嬢とは思えない」


 好き勝手言われて居心地が悪いが、概ね良い意見が多いようで安心した。


 すると遠くからもの凄い勢いでレオンさんが走って来て、私の前で止まった。大怪我をしているのに、元気そうだ。


「お、おはようございます」


 昨日のことを思い出して、私は照れてしまい頬が染まった。


「レベッカさん、その格好なんですか!!」


「……え?変ですか?」


 まさかのダメ出し。一時間も早く起きたのに、レオンさんの好みではなかったのかと少ししゅんとしてしまった。


「変なわけない!めちゃくちゃ可愛いです。可愛くて綺麗で……もったいないから、こんな素敵な姿をみんなに見せたくないんですよ!プライベートの時のレベッカさんを知ってるのは俺だけだったのに」


 レオンさんはそう言って、私の目の前で膝から崩れ落ちた。相変わらず……大袈裟すぎて恥ずかしい。でも似合わないってわけではなくて良かった。


 すると周囲からケラケラと笑い声が聞こえてきた。


「なんかレオンのそれ聞くの久しぶりだな」

「もう魔法省の名物に近いしな」

「大好きなレベッカさんと仲直りできて良かったな」


 どうやら、私達は知らないうちに色んな人に心配されていたらしい。ずっと話していなかったから。


「ふっふっふ、ご心配なく。俺はついにレベッカさんの恋人に昇格しましたから!」


 堂々とそんな宣言をするものだから、魔法省の中で私達のお付き合いを知らぬ人は一瞬でいなくなった。


「どんなに可愛くてもレベッカさんは俺のですから皆さん、絶対に手を出さないでくださいね!」


 誰にも手を出されないから、この歳まで恋愛をしていないんですよ!とツッコみたかったが……デレデレにまにましてるレオンさんには響きそうにないので言うのを諦めた。


 そんなこんなで紆余曲折はあったが、正式にお付き合いを始めることになった。




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