発火油
「でかい蜂じゃのぉ。それもここら辺にしかおらんような奴らじゃ。名前は……あ、また一人やられた」
「名前はいいよ。行ってくる」
<鞄>を開いて武器を取り出す。
使う武器は、もう決めてある。
本から出ているのはグリップではなく、柄。
虫には火だ。
「<発火油>」
ストーンビーが羽音をたてながら、女剣士の横を通り過ぎる。
「……仲間もやられてしまった、『SSS』のダンジョンにたどり着くことすら」
既に戦う体力も気力も残っていない。
逃げることもできないくらいには傷を負っている。
それに比べて、ストーンビーは残り二体。
状況は絶望的だ。
だが、一匹のストーンビーが突然燃え始めた。
「っな、なんで、今のは魔法!?」
「まだです。あと一匹残っています」
いつの間にか自分よりも前にいる防具もつけていない男が現れたことよりも、男の強さに驚く。
男とは、もちろんアルバの事だ。
手には極東に伝わる武器、赤色の鞘の刀を持っている。
「ランク『A』のストーンビーを一撃……あ、あなたは一体」
ストーンビーは斬撃に態勢を持っている。
だが、アルバは刀で切るつもりだ。
「誰かわからないがストーンビーに切りつけは無駄だ!先ほどのように魔法で」
「魔法なんて使ってないんですけど」
「え?」
ストーンビーの突進に合わせて刀を振るアルバ。
……ストーンビーは切れていない。ヒビ一つ入っていない。
どころか、抜いた鞘からは刀身が見えなかった。
「おいおい、どこを見とるんじゃ若いのよ。ほれほれ」
フールはグイっと女剣士の顔を動かす。
困惑に困惑を重ね塗りされて、既に回転を止め始めている頭ではっきりと見る。
そこで見た光景とは、ストーンビーには通っていなかったはずの剣筋に沿って炎が上がっていた。
そしてその炎は跡形もなくなるまで燃え続けた。
「フール!何なんだこの刀は!」
「驚いたか?刀身がない刀は」
鞘と柄を<鞄>に放り込むアルバ。
「燃える刀を作りたかったんじゃがの?刀を振った時に火の魔法が出るようにしたんじゃが……なんでか鞘がすぐに壊れてしまっての。……諦めて相手の熱に反応して無限に燃える油でも出すか、と。そういう感じじゃ。」
「ま、待って。私の事無視しないでよ!あんた達何者なの!?」
「冒険者だ」
「わし、じゃしーん」
じゃ、そういうことで。と言って去っていく二人を、呆然と眺める女剣士。
取り残されていると、後ろからうめき声が聞こえる。
死んでいたはずの二人だ。
「……いったぁ。あれ、ここは?」
「……っは!ストーンビーはどうしたの?まさか貴女一人で!?」
「もう、何もわかんない!!!」
未知と遭遇した『A』ランクなり立ての剣士は、魔物にやられた以上の叫び声を森中に響かせた。
「今なんか聞こえた?」
「仲間が復活したとかそんな感じじゃろ?」
「ふーん。……え?フールってそんなことできるの?」
「楽勝」
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