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ハエ好き男

作者: 銀魚

 あるところに男が住んでいた。広大な敷地に一人で住んでいた。変わった男で、特に変わっていたのは、ハエを愛でていたことだった。居間の隣の部屋には、ハエの標本がずらりと飾られ、図鑑や観察用具が並べられていた。そこに並べられているハエは男が集め、標本にしたものだった。中には珍しいハエもあった。しかし、男はハエを集めることを一番の趣味にしているわけではない。男がもっとも好むのは、生きているハエを見ることであった。広い庭は、格好の観察場であった。踊っているような動きをするオドリバエを見て喜び、キンバエという名の通り瑠璃色の輝きの美しさに感動するのだった。男の至福の時は、クソの上に日の光に輝くキンバエを見出した時である。しかし、彼は「自然を大切にする」という強い「考え」を持っていたので、たとえクソや腐った魚を置けばハエが集まることはわかっていても、決して自分の手で、そのようなハエの餌を置くようなことはしなかった。あくまでも自然の中でハエを見ることを好んだ。


 ある日、猫の保護活動している人が訪ねてきて、男の家の庭に野良猫がいるので、保護させてくれと、言ってきた。男は丁重に断った。すると保護活動している人は、それでは男が捕まえて「私に」渡してもらえないかと、持ち掛けてきた。それも男は丁重に断った。「なぜですか」との問いかけに、「むずかしく、忙しいから」と曖昧に答えた。保護活動している人は不機嫌な顔をして出て言った。そして、庭の外から猫をおびき寄せようと努力していた。男の家は金網で囲われていて、高さは1m50㎝ぐらいで、下は地面からは20㎝ぐらい開いていた。それはハエが自由に通り易くする為だった。暫く努力していた保護活動している人は、うまくいかずに断念して帰って行った。

 それから暫くして男は警察に呼ばれた。ネコを虐待死させたのではないかと、ネコの保護活動している人からの訴えがあったから、とのことである。


「話を聞いたのですが、法に触れるようなことは、何もないのですよ。一応、ネコの死骸も調べさせてもらいましたが、ネコの体には縛れていた後はもちろん、これといった外傷もなく、死因は餓死で、病気を患っていたようだ、との報告を受けています。」

「それでは、餌を与えずに死なせたのは虐待でしょう」

「しかし、ノラネコに餌を与えなければならない義務はないでしょう。縛りつけたりして自由を奪っていたのなら別ですけれど。ノラネコに餌を与えるのでネコが集まってきて困るから止めさせてくれ、というような苦情が住民から警察に来ることもあるのでね……。それに、近所の人の話では、あの男は大変なネコ・イヌ好きで有名なそうですよ」

「え、ほんとうですか?」

「あんな、広大な敷地ですから、イヌはまれだそうですが、飼いネコはよく敷地に入り込むそうです。飼いネコの中には、いついてしまうネコもいるそうで、家の周りをうろついて、餌をくれと鳴くんだそうですよ。仕方がないので捕まえて保護するそうです。それから、写真を撮ってSNSに上げたり、ビラを印刷して近所に配ったり、張り付けたりして、飼い主を探すそうですよ。その費用は男が全部もって、飼い主からは一円も受け取らないそうですよ。しかも、帰って来たネコは元気で毛並みの色つやがよく、よく手入れされ、餌もいいものを与えられたていたようだ、と言っていました。なかには、自分の家の餌に見向きもしなくなって困ったと、言う人もいましたよ。」

「でも、餓死したネコが。ノラネコかもしれないけど……」

「そう、それで男にノラと飼いネコをどう区別し、なぜ、ノラには餌をやらないのか、聞いたんですよ。そうしたら、飼いネコには首輪をするようにビラなどで常に注意を喚起している。

 『どのような動物、生物も自分の意志で野生か、人間の元に生まれるかを選択できるわけではない。自然の営み、運命です。それに対して人間が手をつけるべきではないと思います。ノラとして野生に生まれたなら、そこで生きるべきです。元は人間に飼われていたのだから、保護すべきだと言うかも知れませんが、さらに元をただせば、野生のものを人間が家畜化したものです。それが又、元のノラ、野生に戻ったのです。野生に戻ったものをなぜ、人間の元に戻す必要があるのでしょう。絶滅しそうな動物を人間が育てて野生に戻す取り組みをしてます。それと、大して変わらないのじゃないですか。』

 と、まあ、こんなことを言っていましたよ。」


 雨の日が数日続いて、なかなか晴れなかった。そして、久しぶりに晴れたので男は庭を散策した。と、男はネコの死骸を見つけた。死んでから何日か経っているようで、死体にはハエが十数匹取りついていた。男はハエが逃げないように、そっと近づいた。よく見ると目の周りに白いものが蠢いていた。小さな白いものは輝き、体をうねらせていた。男はほくそ笑んだ。


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