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第七話 残章

昨日投稿する予定だったのですが、見直ししたらそれで満足して投稿するのを忘れてました。

そういうことよくあるよね、てへっ……………………誠にすみませんでした

すねに傷のあるものが多く集まるセントラル外縁のさらに外側。外外縁(がいがいえん)。夜中でも明るく輝くセントラル中央と比べ、昼でも薄暗いセントラルの陰に一人の屈強な大男がいた。


「ジャ、ジャンギーだ、逃げろ」


その大男の姿を見ればたいていのごろつきはその名を叫び尻尾を巻いて逃げる。それほどその大男はこの陰の世界で有名であり、有名になるほど数多くの悪行を成してきたのである。


「…………」


大男はつまらなそうに薄暗い道を歩く。大男にとってごろつきたちのこの反応はいつものことで当然の反応なのである。この近くでもう自分に絡んでくるものは、真正面から挑んでくるものはいない。


すべては大男の持つ力のせいである。


大男は悪魔と契約したのだ。悪魔と言っても大男と契約したのは普通の、物腰の柔らかそうな口調の営業マンのような男の悪魔だった。もちろん、悪魔がその姿を現すわけはないので、しゃべり方や口調から感じ取った大男の想像上だけの姿ではあるのだが……


大男はその悪魔らしくない悪魔と契約をした。そして、強大な力を手に入れた。


最初は気持ちよかった、自分を馬鹿にしてたやつらを圧倒的な理不尽ともいえる力でぶちのめす。みんなが自分を怖がり畏怖するのだ。大男は快感に酔いしれた。


しかし、それも長くは続かなかった。


大男はむなしくなった。


結末の見えた勝負、なにも得るもののない戦い。ただ生きるために弱い奴をぶちのめし金目の物を巻き上げる毎日に辟易としてしまったのだ。


「……さて、今日はどこのどいつからかっぱらってやろうか」


大男の声に覇気はない。重い体を動かして今日生きる金を奪い取る相手を探しに行こうとした、その時、背後から声をかけられた。


「あ、あの」


「……」


大男は振り返らなった。自分に話しかける奴などいないと思っていたからだ。なぜなら、みんな自分の姿を見ればすぐに逃げ出す、それほど大男は恐れられている。そんな大男に好き好んで話しかける奴などいるわがないと、そう思っていたから大男は自分に投げかけられた言葉に気がつかなかった。


「あ、あのっ」


「……」


尚を振り返らぬ男に、最初はおどおどと声をかけていた相手も若干のいらだちを覚え、一つ間違えれば殺されるかもしれない恐怖の名を大声で呼んだ。


「ジャ、ジャンギーさん、ですよね」


「あん」


さすがのジャンギーも名前を呼ばれれば振り返るしかなかった。


振り返るとそこには巨体のジャンギーとは全く違うやせこけた顎の長い男が体をぶるぶる震わせながら立っていた。


「あなたが、この界隈で最近名を上げてきている潰王(かいおう)のジャンギー、ですよね」


「ああ、そうだがてめぇは」


「ぼ、僕は、ガ、ガクション、ガクションといいます」


「ガクション……」


ジャンギーの聞いたことのない名前だった。というより、もうこの辺りにジャンギーの知る名前の者はいない。みなジャンギーによって潰されてしまったからだ。文字通りに。


「で、俺に何の用だ」


ジャンギーにそう言われ、ガクションと名乗った顎長の少年は足をがくぶるさせながら、それでもジャンギーの興味なさげなうつろな目を真っすぐ見てその小さい手を伸ばした。


「ぼ、僕と組みませんか」


「お前と……」


わずかにジャンギーの目が揺れた。


「は、はい僕と組んでこの世界に僕たちの名前を知らしめませんか」


その言葉を聞いてわずかに光がともりかけてジャンギーの目が再び暗闇に沈む。


「それはつまり、俺に格闘技とか、どっかのボディガードとかをやれっていうことか」


外外縁で名を知られるほど強いジャンギーである。当然格闘家やどこぞの貴族のボディガードの誘いもあった。しかし、ジャンギーがそれを受けることはなった。自分の力が悪魔と契約した人目をはばかるものであったのもそうだが、それ以上に誰かに仕えて、誰かの思うように、誰かの意のままに自分の行動を決められるのが心底嫌だったのだ。


「……」


ジャンギーの冷たい視線に射抜かれガクションは言葉を詰まらせる。


次の言葉、次の言葉を聞いたらこの顎長男の頭を握りつぶそう。こいつは恐れ多くも俺様の足を止めさせ、こんなつまらない話を聞かせたのだ。当然の報いだ。


そう考えていたジャンギーだが、結局ジャンギーがガクションの頭を握りつぶすことはなかった。なぜなら、


「ち、違います。僕は、ジャンギーさんと、ジャンギーと成りあがりたいんです」


「俺と……」


ガクションの言葉がジャンギー想像していたものとあまりにもかけ離れたものだったからだ。


「成りあがるってのはつまり、俺たちみたいなごろつきがいっぱしの暮らしをできるくらいの金と地位を手に入れるってことか」


「そうです」


ガクションの言葉に再びジャンギーの目に光が宿る。しかし、


「……無理だな」


ジャンギーはゆっくり、首を横に振った。


「俺たちみたいなごろつきがどんなに頑張ったって陽の光を浴びれねぇ。日陰者は日陰でしか生きられねぇんだ」


話は終わりだと、黙ってガクションに背を向けた瞬間、ガクションがジャンギーの腕をとった。


「それは、どんな手を使ってもですか」


「っ」


ジャンギーを見上げるガクションの目は変わらず、真っすぐジャンギーを見ていた。


「グレーでも黒でも、人道を外れた悪魔に身を落してもそれは成せないのですか」


「っ、悪魔に身を落としても」


それはかつて力がすべての裏世界でしか生きることを許されないジャンギーが悪魔に願った時の目によく似ていた。強くなりたい、生きるために、誰にも負けない強さが欲しい。


「……ぐ、ぐはは、ぐははははははははははははは」


「ジャンギー、さん」


突然笑い始めたジャンギーにガクションの目が点になる。


久しぶりすぎてすっかりわすれてしまっていた笑い方はあまりにも野太く、不細工だった。それでもジャンギーはこの笑い方が嫌いではなかった。


「おもしろい、貴様のその薄汚ねえ野望、このジャンギー様が手を貸してやるぜ」


「じゃ、ジャンギーさん」


この時、ジャンギーがイビルになって初めて、誰かの手を優しくとった。

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