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初めから

 二年前に書き出してみたはいいものの、文章力・表現力に自信がなくなり筆を折っていたのですが、アイデア自体は個人的に面白くてスパッと捨て去るに偲びなく、リメイクしてもう一度投稿することにしました。

 読んでくださった方にも面白いと思っていただけるよう頑張りますので、よろしくお願いします。


 ニーチェさんよ、あんたがそう言い残したからには、あんたにゃそう見えたのかもしれないがね。

 ブレーキとしての友人から、あるいはその「深淵」とやら自体から、こうは言われなかったのかい?

 「深淵を覗いた気になるなよ」、と。


◇◇◇



2005/08/14


 きょうから、まちにまったりょこう。

 おぼんだから、おじいちゃんとおばあちゃんちにいくんだ。

 くるまのなかでねむっていたら、いっしゅんでついちゃった。

 いとこのちーちゃんもきていたよ。

 でんしゃのおもちゃでいっしょにあそんだ。


2005/08/15


 うらのいけには、たくさんの黒いいきものがいる。

 でもおなかが、すごい赤い。

 アカハライモリっていうんだって。

 かゆくなるからさわるんじゃないよ、っておばあちゃんいってた。

 でも、すこしくらいいいよね。

 ちーちゃんとこっそり、いっぴきだけつかまえた。


2005/08/16


 ちーちゃんも、お父さんもお母さんも、おじいちゃんもおばあちゃんも、おじさんもおばさんも、いっしょになってトランプしたよ。

 ばばぬきとか七ならべとかしたんだけど、どれもおじさんがかってた。

 たぶんずるしてるよ。

 でもたのしかった。

 明日のひるにはここをでちゃうことをかんがえると、すこしさみしいな。


2005/08/17


 今日のひるにかえるから、ぼくはめいっぱいはやおきした。

 七じだった。

 おとなはみんなおきてなかったけど、ちーちゃんはおきていた。


(塗り潰し)(塗り潰し)(塗り潰し)(塗り潰し)

(塗り潰し)(塗り潰し)(塗り潰し)(塗り潰し)

(塗り潰し)(塗り潰し)(塗り潰し)(塗り潰し)

(塗り潰し)(塗り潰し)(塗り潰し)(塗り潰し)


 ちーちゃんどこっておじさんにきけば、ちーちゃんってだれ? ってかえされた。

 おばさんにも、おじいちゃんにもおばあちゃんにも、お父さんにもお母さんにも。

 へんなの。


◇◇◇


「……また懐かしいものが出てきたもんだ」


 真っ赤な夕日の影となり、薄暗い部屋の一角。

 積みに積まれた、愚か者の罪悪感と同じくらいに重そうな段ボールの山は、今にも部屋を覆い尽くさんとするばかりだが、しかし隙間は存在し。

 山が少しでも崩れれば一瞬で埋められてしまうだろう空きスペースの一つで、見た目の若い男が一つ、呟いた。


「ちーちゃんを覚えてるのは、俺だけであり」


 下手くそ極まりない絵がドカンと添えられた、古臭く、カビ臭くもある日記ノートをパタリと閉じて、曇ってスレ切ったボロボロのクリアファイルに、ささっと挟む。


「せっかく見つけたこの安アパートが取り壊しってことにならなきゃ、もうしばらく目にすることはなかったんだろうがな」


 まったく、ったく、漂白出来るなら是非そうしたいくらいに、中途半端な始まりだった。

 フッと鼻を鳴らしたのちに、口元に薄っぺらな微笑を貼り付け、クリアファイルを段ボールの一つに閉じ込める。そして、ビーッとガムテープを準備し、中身を封印した。


「っと、あとは引越しセンターに……」


 ピルルルン♪


 突然の、メールの受信音。

 送信元不明。

 書かれるは、無味乾燥なことに、待ち合わせ場所と集合時間のみ。


「ったく、こんな時によ。俺を軽々しく使うな」


 憮然とした表情で、「ったくったく、また仕事かよ、胸糞悪い」とこぼしつつ、ラフな格好から背広に着替えて、アパートの一室から出ていく男。

 ピルルルンとまた、メールが届く。

 添付資料を開けば、携帯電話の画面には、四十代から五十代ほどの男の写真が映し出された。



◇◇◇

◇◇◇

◇◇◇





「ねえ、未来君」


「何だい、九堂さんやい」

「もし未来が見えたら、どうする? ……ややこしいわね。あなた、読みを『みく』に変えなさい」

「ややこしいからと俺の名を、愛嬌のある電子音で世界からラブされるあのビッグネームガールのものに変えようとするのをやめろ。おこがましいわ。急にどうしたんだ?」

「別に。聞いてみただけ」

「じゃあ答えてやるだけするけれど、目を抉り取るね。矮小な自分の本質と同じくらいに、未来のことなんて知りたくないな」


「確かに、未来なんて未来君の本質と同じくらいには、矮小でガッカリするものに違いないわね」


「うるさい。というか本当にややこしいな。明日からかっこよく、フューチャーシュタインに名前変えようかな」

「シュタインはどこから来たのよ」

「未来から来た」

「どこの青ダヌキ?」

「僕はタヌキじゃなーい」

「た未たた来たたた君、そたんたたな名たたた前たたたたを名たたた乗たるたたなたたたたんたて、たた高た一たにたもたたなたたたたたったてたた中たた二たたた病たなたたのた? 精た神たた科たじゃた黒たた歴たたた史たたはたたた消たせなたいたのたたよた」

「た抜きでようやく意味通じる文章やめてくんない? 小学生の暗号文? しかも何気に傷つくこと言ってるし」

「にしても、目を抉り取るね。過激でロックな答えだわ」

「唐突に戻るな。九堂はどうなんだよ。未来が見えたらどうするつもりだ?」

「未来の見え方に寄るわね」

「というと?」


「起こり得るすべての未来が見えるポテンシャルがあるけど、実際に見る時には一筋一筋しか観測出来ないならば、その一筋一筋は、ほとんど確実に起こらない気がしない?」


「言われてみれば」

「なら、未来なんて見えてないのも同じよ。でもま、見た未来が確定的に起こるのであれば、目を抉り取るほど絶望もしそうだけどね」

「含蓄があるね。よく考えるの? もしも未来が見えたらとか」

「まあね」

「ほー」

「タイムスリップが出来たらだとか、魔法が使えたらだとか、妖精の国に迷い込んだらどうするかとか。そういうことも結構考えるわ」

「なんと、九堂さんにそんなロマンチックな一面があるとは知らなんだ」

「可愛らしい?」

「へ?」

「そういう私のこと、可愛らしいと思った?」

「うーん、九堂にも可愛らしいところがあるのは知っているけれど、それを補って有り余るほど、クールだからな」

「そう……」

「賢くて、いつも真面目で、ストイックで凛としていて、冷静沈着でかっこいい。みんなの憧れだ。尊敬するよ、友達として。ものすごく」


「そう…………」

「…………?」


「ねえ、未来君」

「何だい、九堂さんやい」



「未来君は、未来のことを考える時、どんな『味』を感じるの?」



 殊の外真剣そうだった、あの時の、あの問いに。

 なんて答えるのが、俺の正解だったのだろうか。


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