1章 第2話 どうして俺とお前が友達なんだ!?②
「えっ……。べ、別に良いけど」
美里の声は少しばかり強張っている。急な問い掛けに、驚いているのだろう。
対して氷菓は、スラスラと言葉を発する。
「美里さんと晴人くん。どんな関係なのかなぁって、思っているんだけど……?」
「ふぇっ、どんな関係って!? べ、べべ別に普通の友達よ! と、も、だ、ち!!」
「そうなんだねぇ。じゃあ私も、美里さんと同じポジションに付けたっていうことかぁ」
「ど、どういうこと?」
俺の耳に、困惑する美里の声が届いてきた時だった。
「えっとね。私も昨日、晴人くんと友達になったの……」
氷菓の声だけが拡声器で誇張されているかのように、周囲の音を全てかき消して教室中に響き渡った。クラスの皆んなが、俺の方に視線を集中させはじめる。先生までも、口をポカーンと開いて唖然としている。
急いで俺は立ち上がり、氷菓達がいる背後を振り返って大きく口を開く。
「どうして俺とお前が、友達なんだ!?」
「だって昨日の放課後。また学校で明日って、言ってくれたからかなぁ? なにより、同じものを愛する仲間だから?」
「それで、なんで友達って事になるんだ!?」
俺が氷菓と目を合わせながら言い合っていると、担任が満面の笑みを浮かべながら言ってくる。
「良かった良かった……。コレで氷菓さんも、もう安心だ。頼んだぞ、晴人くん」
同時にチャイムの音が響き、担任はニコニと幸せそうに教室から出て行った。きっと担任も、教室で孤立していた氷菓の扱いに困っていたのだろう。なんというか今の担任の一言の後に、氷菓の友達だということを否定してしまったら、クラス一の薄情な奴になってしまうに違いない。
……クソ担任めぇぇ。
「なぁ、晴人。一体どゆことなんだ? あの、氷菓と友達になったって?」
俺が担任に殺意を覚えていたら、横から誰かが声を掛けてきた。俺はすぐに、声がした方に顔を向けてみる。
そこには、河村大輝という男が立っていた。去年も同じクラスで、俺の親友といっても良いほどの仲。スポーツ万能で、女子から男子からもモテモテな優男だ。
「いや、俺もワケわからないんだよ!? なんであんな、ヤバいヲタク女が……!」
俺がブツブツと氷菓の悪口を呟いていたら、大輝はケロっとした表情で衝撃的な言葉を発する。
「いや、でも氷菓さんと友達になれて良かったじゃん」
「はぁ? 嫌われ者と友達になった俺を、バカにしてるのか……?」
「いや、全然バカにしてない! 本心だよ、本心!! てか、なんか勘違いしてない?」
「勘違い……?」
困惑する俺に大輝は「うん」と首を縦に振り、続けて唇を動かす。
「氷菓さんが、皆んなに避けられてると思ってない? だったら、お前は勘違いしてる。逆に皆んなを避けてるんだ」
「氷菓が、逆に皆んなを避けてる……?」
「そう。俺だって、同じクラスになったのを機に、何回も話しかけたけど全て無視された」
「嘘だろ……?」
「嘘じゃない。確かに氷菓さんは色々とヤバいことをやらかしているが、それ以上に魅力がある。例えば、美人だったり勉強ができたり。なにより……、財閥に最も近いと言われてるとこの社長令嬢だ。魅力があり過ぎる故に、皆はそもそも遠慮して近づこうとしないんだよ」
「社長令嬢って、大金持ちお嬢様ってことなのか?」
そんなこんな大輝と話をしていたら、背後から誰かにトントンっと優しく右肩を叩かれた。急いで振り向くと、そこには微笑を浮かべている氷菓が立っていた。
「な、なんだよ……?」
少し警戒しながら言うと、氷菓は微笑みながらゆっくり唇を動かしはじめる。
「友達になったことだし……。今日の放課後、私の家に招待したいかなぁって」