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隠れヲタの俺に、オープンヲタのお前が話しかけないでくれ!  作者: めーる
1章 隠れヲタの俺に、オープンヲタのお前が話しかけないでくれ!
1/3

プロローグ


 高校二年生になって二ヶ月が経った。学校に通う皆は、もうすっかりとクラスに馴染んだりしている時期だろう。


「ああ、あのぉ……。コレ、見てくれたりすると嬉しいなぁなんて」


 夕日が街を紅で美しく染める放課後。俺は帰路を歩く中、背後からおっとりとした口調の誰かに話し掛けられた。


「ん、誰……?」


 俺は後ろを振り向く。すると、自分自身が通う高校の制服を身につけている少女が一人、瞳に映った。


 華奢で色白な身体に、ぱっちり二重の黒い瞳が特徴的な整った小さな顔。肩まで伸びる黒く艶の良い髪。細い綺麗な手足に、鈴音のように透き通った声。身長は平均的で、高くも低くもない。胸の大きさも、そこそこ……。一言で纏めると、美しくて可愛い。


 俺は彼女を知っている。今年から同じクラスの奴。だけど、話したことなんて一度もない。


「おい、急に話し掛けてきてどしたんだよ。って、なんだそのノート?」


「実は、貴方も……。私の仲間だったりするのかなって?」


「なな、なに気持ち悪いこと言ってるんだよ……?」


 俺は若干に後退りしながらも……、彼女が両手を前に伸ばし渡してこようとしている、一冊のノートを恐る恐る受け取ってみた。


 ノートを開くなり、俺は言葉を失った。


「…………こ、このノートに書かれてる事って。もしかして……」


「そうだよぉ。私と同じクラスになってから、貴方が発していた数々の言葉。うふふっ」


 嬉々と笑みを浮かべる彼女を目前に、俺の顔は青ざめる。身体全身に、ブツブツと鳥肌が立ちはじめてきた。


 そんな俺の気分を御構いなしに、彼女はニコニコと満面の笑みを保ち、肩に下げるスクールバックから一冊の文庫本を取り出して言ってくる。


「晴人君も。この本が、大好きだったりするのかなぁ?」


 裏島晴人。それが、俺の名前だ。生まれ持った勇気と、鍛え抜いたコミュニケーション能力で、学校内にてトップカーストを築いている。


 そんな俺に目前の彼女は、ニコニコと取り出した本を見せつけてきている。ブックカバーなどされていない表紙には、パッチリとした青眼と金髪ツインテールが特徴的な美少女。いわゆる、萌えキャラが描かれている。


「…………」


 俺がムッとした表情で本の表紙を見つめていると、彼女の唇は再び動きだす。


「このラノベに登場するキャラと貴方。同じ言葉を発していたり、してたんだけどなぁ」


「そそ、それがどうしたんだよ!? 人生を長く生きていれば、架空のキャラと言葉が酷似たりする偶然だってあるだろう」


「本当に、偶然なのかなぁ……?」


 彼女は悪戯めいた笑みを浮かべながら、俺が手に持つノートを指す。


「例えば……。ノートの一番最初のページに書かれている『俺に話し掛けてけくれるなんて、嬉しいな』という言葉と、このラノベの二十六ページに書かれている文が全く同じ。他にも――」


「待った待った! もう良い、これ以上口を開くな!!」


 本のページを次々とめくっていく彼女の細い手を、俺は頰を赤らめて慌てて止めていた。


 花宮氷菓。女神のように美しい容姿。そんな彼女は学業の方も優秀で、入学以来から学年トップの座を独占している。学内ではとてつもない有名人。……学校一のアニメヲタクとして。授業中も関係なしに、萌えキャラが表紙の本をずっと読んでいる。漫画内の出来事を現実にしようと、去年の学祭ではとんでもない事をやらかしたり……。だから校内の皆は、彼女を嫌って近付くことを拒んでいる。


「この行動は、認めたってことで良いのかなぁ……?」


 彼女はニコッと笑みを浮かべて首を傾げながら、問い掛けてきた。


「…………ぐぬぬぬぅ」


 俺は下唇を噛み締め、手に持つノートと彼女が持つ文庫本を鋭く睨む。ここまで証拠が上がっていれば、もう言い訳は困難だろう。今まで、俺が積み上げてきた努力が……。


「此処は、意を決して……」


 俺は呟きながら、ギュッと身体中に力を込めた。そして――。


「それじゃあなっ! また明日、学校で!!」


 俺はノートを返却すると、自宅まで全力ダッシュで向かう。家の近くで話し掛けられたことが、不幸中の幸いだった。


 走りながら上着ポケットから取り出した鍵を、自宅の開き戸の鍵穴に急いで差し込む。そして、慌てながら玄関に入るなり鍵をガチャリと閉めた。


「ふぅ……、本当に危なかった。俺のヲタクが、バレるところだった……」


 裏島晴人は、隠れヲタクである。生まれ持った勇気と、今まで読んできたラノベに登場するキャラ達の言葉を駆使して、学内トップカーストを築いてきた。


 ――場に取り残された氷菓は、にんまりと頰を赤く染めて呟く。


「また明日、学校で……って言われちゃった。コレは、もう友達ってことで良いのかなぁ?」

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