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視界が白く弾けた。
今度こそ消滅したかと思った少女は目を覆って、
──……自分に腕と目があることに驚いた。
誰かに支えられている。
自分の脚がある……心臓も。
「サフィア。無事?」
輪郭を取り戻した少女は──サフィアは目を瞠った。
何者かがレイピアで、あろうことか、闇を切り裂いて乱入したのだ。
闇を構成していた羽虫は一斉に飛び立ち、サフィアたちは白い異空間に取り残される。
サフィアは自分を支えてくれている青年を見た。
相変わらず、三方向に垂れた奇妙な帽子とちぐはぐな道化服という出で立ち。
横顔が獰猛な笑みを刻んで、目の前の虚空を好戦的に睨んでいる。
サフィアの頬を零れ落ちた涙が、透明な滴となって、無重力の空間にきらきら散っていった。
「トト……遅いよぅ!」
かつてのアメリアと同じ苦情に、青年となったトトは戯けて笑った。
「やあ、サフィア──『五百年ぶり』」
その台詞で、今度こそ本当に本物のトトだと知れた。
トトの胸元には、革紐で吊した銀色の鍵があった。
対魔の光を宿して輝いている──サフィアではなく、アメリアの願いを託したもの。
かつて魔王デュヴァルオードを封印して昏睡した幼なじみを救おうとした彼女の祈りがこめられていた。
「これがサフィアの元に導いてくれたんだ。それこそ時空を超えて、ね」
サフィアの手の中で、トトの心臓が優しいリズムを刻んだ。
サフィアの心にも、トトの抱く切ない愛しさや優しさが届いてくる。
そこには喪失の痛みも混じっていた。
トトにとっても、それはもう遠い昔の傷跡なのだった。
「……トト、私、五百年前の貴方と魔王に呑み込まれたの。助けなくちゃ!」
「大丈夫、無事だよ。五百年前の僕も、今の僕も、聖剣ステラにとっては同じ『僕』だから」
……どういう意味だろう?
疑問に思ったが、トトが無事だと言うのなら大丈夫なのだろう。
サフィアはほっと胸を撫で下ろした。
「さあ、ここを出るよ。しっかり掴まって」
「えっ、どうやって?」
魔王のお腹の中どころか、まるっきり異空間だ。
言うなれば精神体で世界の狭間を漂っているようなものである。
トトは悪戯っぽく笑った。
「魔法を使うのさ。君が僕のこころを取り戻してくれたから、ね」
トトが受け取った心臓を胸元に当てると、深紅の宝石は粉々の欠片となって青年の中に溶けていった。
そうして、今度は視界だけでなく、空間ごと弾けた。
もう不安は感じなかった。
温かい光の粒子となって、サフィアたちは駆けて行った。
出口へと……──




