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からくりピエロと大罪の姫  作者: 深月(由希つばさ)
第4章 星の行方

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4-4

 公開懲罰(こうかいちょうばつ)の処刑場は(はち)の巣をつついた大騒ぎになった。

 広場に集まった者たちは散り散りになって逃げるが、とても間に合わない。

 すぐに魔物に囲まれて逃げ遅れた。



「里長様、助けてください!」


「里長様ぁ!」


「うっ……! こんなバカな……バカな!」



 その里長は逃げ足が速かった。

 我先(われさき)に逃げ出していた。

 一族の者たちの安全を守るのは自警団の役目だったが、その自警団には、今、団長がいない。

 こんなとき、咄嗟(とっさ)に判断を下せる者が存在しない。

 統制がとれない中、魔物たちに対して無防備になったのはどうしようもなかった。

 あっという間に、魔物と人間が入れ惑う地獄絵図になった。



「……っ! くそ!」


「あっ、おい! 何をしてるんだ?!」



 逃げ遅れた者たちを守ろうと、勇敢な自警団の少年は決心した。

 トトを後ろ手に縛っている縄を、震える手で解こうとする。

 びっくりしたのはトトも同じだ。



「……ねぇキミ、何してるの?」


「貴方を逃がす!」



 一瞬、見咎(みとが)めた年嵩(としかさ)の自警団員は「……どうなっても知らないからな!」とぼやいてその場を離れた。

 それどころじゃなかったのだ。

 他の団員たちもトトと少年にかかずらっている余裕がない。

 魔物と戦い、里のひとたちを守るのに必死だった。

 今なら誰にも注目されずに逃げることもできた、が……。

 少年は必死の面持ちで言った。



「お願い、皆を助けて!」


「……へ?」


「勝手を言ってるのはわかってる! けど、このままじゃ(みんな)、魔物に殺されちゃうよ! 貴方の強さなら、これぐらいの敵……」


「ねぇキミ、わかってる? ボクはその方がいいんだよ」



 トトは(あき)れたように言った。

 ついさっき、(みんな)ぶちのめせばいいと(さけ)んだばかりだ。

 それが聞こえてないはずはないのに、少年はトトに(みんな)を助けてくれと言う。



「サフィアを泣かせる奴らは(みんな)、いなくなっちゃえばいい。正直、壊すのが人間(ヒト)だろうと魔物だろうと、どっちでもいいんだよ、ボク。そりゃあ、逃げられなかったらボクもひどい目に遭うけど……そんなの、どうってことないし」



 心の痛みに較べれば──身体の痛みなんて全然、たいしたことはないのだと。

 そのことを知らないトトだったけれど、皮肉(ひにく)にも、その言葉は真理を突いていた。

 しかし、それに反論した少年も、(はか)らずも道化師の琴線(きんせん)に触れたのだった。



「僕たちが死んだら……巫女王様がまた泣くからな?!」


「……え?」


「だって、そうだろ?! 巫女王様は僕らに協力してほしいって言ったんだ! 魔王を倒すために(いにしえ)の一族の……僕らの力が必要だって!」



 トトは目を丸くした。

 昨日、サフィアが訴えたとき、彼もまたその場にいたのだった。

 そして、サフィアの訴えに共鳴した者たちは、確かにいた。

 だが、場の空気に()まれ、総意の暴力に屈して、希望の灯火(ともしび)に手を伸ばす前に(あきら)めてしまった。

 自分たちにはムリだ……と。

 その結果が、サフィアへの暴力であり、トトの暴走だった。

 二度と、同じ(あやま)ちを繰り返すわけにはいかなかった。



「くそっ……くそっ! 結び目が固くて……」


「バカ、何やってんだ。ナイフ使えよ。こっち代われ」


「え……」



 もう一人、トトを解放するのに若者が手伝った。

 両手が自由になったトトにレイピアが押しつけられた。

 牢に入れられるときに押収(おうしゅう)されたものだった。

 押しつけた若者は、なぜか視線を()らしながら言う。



「俺らもただ見てるだけですまなかった。本当は誰もあんたが語り部様までさらったなんて思ってねーよ」


「え……?」



 疑われるのに慣れているトトは、こんなとき、どんな顔をしたらいいのかわからない。

 こんな──……自分のために、誰かが動いてくれることがあるなんて。

 昨日、暴動の中に、彼らの他にもいたのだろうか。

 (ひそ)かにサフィアを支持し、味方になってくれるようなひとたちが。

 一緒に魔王を倒すため、協力したいと思ってくれるようなひとたちが。

 トトは目を(またた)いた。

 トトのことを受け入れてくれて嬉しい──そう微笑んでいたサフィアの言葉がすとんと胸に落ちてきて、何もない空っぽの隙間(すきま)をほんのりと温めた。



「俺からも頼む。皆を助けてくれ。後で必ず皆を説得するから」


「……ボクは……──」



 戸惑ったまま棒立ちになったトトたちをネオキメラが襲った。

 動かないトトの無防備な背中を切り裂こうとしたネオキメラが、不意に沈んだ。

 (ほふ)ったのは、つい今しがたまで看病に明け暮れていたアルディクトだった。

 頭に包帯を巻いたロッテ・ミルズも駆けつけた。



「何ボサッと立ってるの! 死にたいの?!」


「あれ? 護衛のお姉さん。無事だったんだ?」


「そっちこそ、牢屋送りになったにしては随分と元気そうね」



 怪我人(けがにん)とは思えないほどの元気さでロッテが言い返す。



「セレンザ様と語り部様が連れ去られたわ。アナベルって男が魔王とグルだったのよ……やられたわ!」


「?! それ、本当?」


「残念極まりないことにね。おかげさまで今の今まで昏睡してたわよ! アルが看病してくれてたけど、起きて早々、ひどい騒ぎじゃない。怪我人(けがにん)働かせるんじゃないわよ、まったく」



 トトを手助けした少年たちも青い顔をしている。

「団長が……?!」と震える(くちびる)(うめ)いた。

 アルディクトが魔物を剣で一太刀(ひとたち)のもとに下しながら言う。



「さっさと助けに行きたいけど、この騒ぎだからな! この際、貴重な戦力になる貴方をどさくさに(まぎ)れて助け出せないかと思って動いてたところだ」


「そういうこと。感謝してよね。さあ、とっとと活路を(ひら)くわよ!」


「……そうだね」



 トトはレイピアを抜き放った。

 逃げる前に、やることができた。

 レイピアを一閃(いっせん)させた。

 背後でネオキメラが断末魔を響かせながら爆散して灰塵(かいじん)()す。



「──さっさと全部片付けよう」



 トトが獰猛(どうもう)な笑みを見せる。

 彼にとっては()()()()()()()()()()()()()()()()……。

 その横顔に、さっきまでの迷いはどこにもなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんばんは! トトもですけど、ロッテたちが無事でよかった(*´ω`*) 前回の感想で書くの忘れてたんですけど、アナベルが裏切るとは……! そばかすは裏切らないって信じていたのに……!!(←…
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