表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からくりピエロと大罪の姫  作者: 深月(由希つばさ)
第3章 道化師の帰還

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/37

3-2

(自分からアメリアさんの話持ち出しておいて、もう……あーあ。絶対、不審に思っただろうなぁ。私のバカバカバカー)



 サフィアはモヤモヤした気持ちを引きずったまま、案内役をしてくれているメイの背中を見ながらひたすら歩いた。

 後ろにはトトが、少し遅れて護衛の近衛兵たちが影法師(かげほうし)のようについてくる。

 どんよりとした気分だった。穴があったら入りたい。



(前はこんなことなかったのに……どうしたんだろ、私)



 トトの「おとぎ話」を聞いてから、時々、こうなる。

 突発的に()き起こる感情の(あらし)に飲み込まれて、自分で自分が制御(せいぎょ)できなくなってしまう。

 両手で包み込んだ両頬(りょうほほ)が熱い。

 気持ちが勝手に駆け出して、どんよりと疲れていたはずなのに、今度は自然と早足になったりする。

 隣でトトが鈴の音をさせながら意味もなくその歩数を数えていたので(しか)ったりもした。


 その後も他愛(たあい)のない話をしながら歩いて、冬の夕日が稜線(りょうせん)を赤く()がす頃には、目的地まであと少しというところまで来ていた。

 アルマダールの隠れ里は枯れ谷を抜けた先にあるという。



「あ、そうだ。おねーちゃんは、みこおーだって、いわないほうがいいですよ」



 おもむろにメイが言った。

 サフィアは首を(かし)げた。

 言われるまでもなく、今回の旅はお忍びである。

 魔王が復活して魔物たちの勢いが増している今、肝心(かんじん)の巫女王が王都から逃げ出したと思われたら一大事になる。

 道中でも巫女王だとばれるような行動は(ひか)え、護衛の近衛兵たちも白外套(しろがいとう)を脱いで旅の冒険者に(ふん)している。



「いにしえのいちぞくは、みこおーをうやまわないです。それどころか……」


「別に今更、尊敬してもらおうなんて思ってないわよ。まぁ、実際こんなだし」


「なんだ。よくわかってますねー。エライエライ」


「あ、コラ。そこは否定(ひてい)するところだってば!」



 短い旅路だが、遠慮なく()め合うぐらいには仲良くなっていたサフィアはメイの両頬(りょうほほ)を引っ張った。メイも負けじと抵抗してサフィアを足蹴(あしげ)にする。

 トトはのほほんとして「うわぁ、楽しそうだねー」と見物した。

 ……が、何かの気配を感じて振り返った。

 枯れ谷の脇にそびえ立つ峻険(しゅんけん)勾配(こうばい)をじっと見据(みす)える。



「……サフィア、メイ」



 取っ組み合っていた少女と子どもも、何やら緊迫した声音(こわね)に動きを止めた。



「待って。探ってみるわ」



 そう言って、サフィアは瞑目(めいもく)した。

 自身の内側に潜るような感覚で、一切の物音を意識から遮断(しゃだん)する。

 ちょうど無音の深海に深く深く沈み込んでいくような感じだった。

 そうして、周囲の気配を(さぐ)る。

 乾いた地面の砂の一粒一粒を感じ、岩や小石の位置まで手に取るように把握(はあく)していく。

 不穏(ふおん)な気配を察していち早く逃げていくネズミやイグアナといった小動物や虫たち。

 切り立った(がけ)の上には雲の多い灰色の空。

 そして、(がけ)の上には──



「ひと……じゃないと思う。かなり大きい。あれは──」



 旅の間も何度か、サフィアの「()る」力で窮地(きゅうち)を避けていた。

 そして、今回も、誰よりも先にその正体を見破ったのはサフィアだった。

 頭はトカゲ、胴体(どうたい)獅子(しし)、背中に巨大な(つばさ)を持つ魔物たちが群れをなしてサフィアたちのいる谷底へと飛んでくる。



「ネオキメラだわ! 気をつけて、十匹はいる!」


「?! ……そんなに!」



 護衛も含めて数人の戦闘力では心許(こころもと)ないほどの多さだ。それでも、やるしかない。

 サフィアに応えて即座に近衛兵たちが散開し、トトもレイピアを抜きながら()えた。

 サフィアはメイの手を取った。



「メイちゃん、行くよ!」



 護身術しかないサフィアとメイでは足手まといになる。

 (すで)に棒のようになっている足に鞭打(むちう)って走った。

 どこまでいっても石と岩と干からびた灌木(かんぼく)ばかり。



(どこか……メイちゃんを(かくま)えそうな場所は……)



「きゃあ!」


「あっ……」



 気ばかりが(あせ)る中、メイが転んでバランスを崩した。

 足下の凹凸(おうとつ)につまずいたのだ。



「メイちゃん。大丈夫? 怪我(けが)はない?」


「おねーちゃん、まえ……!」



 サフィアたちに先回りして、魔物の一頭が立ち塞がっていた。

 サフィアは咄嗟(とっさ)にメイを後ろに(かば)った。

 護身用の短剣を構える。

 冷や汗がこめかみから流れた。



「来るなら、来なさい。ブッスリ刺してやるんだから」



 近くで見ると、図体(ずうたい)だけで(くま)ほどの大きさがある。

 短剣ぐらいで致命傷(ちめいしょう)になるとは思えなかったが、一矢報(いっしむく)いるぐらいの覚悟はあった。

 ネオキメラの巨体が跳躍(ちょうやく)した。

 まっすぐサフィアの喉笛(のどぶえ)()み切ろうとする。



(──!!)



 耳に届いたのは、あまりにも軽い風切り音。



「グギャアアア!!」



 反射的に目を閉じかけたサフィアは、すぐに驚きで目を見張った。

 ネオキメラが苦痛に満ちた悲鳴をあげている。



「え……? な、何? 何が起きたの?」



 瞠目(どうもく)しながら見ると、分厚い筋肉で覆われた肩に矢が一本、突き立っている。

 矢は二本、三本と続けざまに射かけられ、ネオキメラはなすすべもなくたたらを踏んだ。



「だれか、たにのうえにいます!」



 メイが指さした先に弓矢を持つ人影があった。

 一人や二人ではない。

 何人もの射手(しゃしゅ)がネオキメラたちを目がけて矢を射かけている。

後方にいた魔物たちを相手にしていたトトが追いついて来た。

 護衛の近衛兵たちも、突然現れた射手(しゃしゅ)たちに加勢してもらってなんとか乗り切ったようだ。



「サフィア、メイ! 無事?」


「う、うん。ねぇ、あのひとたち、何……?」


「さぁ……」



 最後のネオキメラが倒れて灰燼(かいじん)と化し、静けさを取り戻した谷底に、弓矢を背負った人影が降りて来た。

 覆面(ふくめん)(かぶ)っていて顔はわからない。

 射手(しゃしゅ)の一人がまっすぐサフィアたちのところにやって来た。



「……やっぱり。君……メイじゃないか!」


「え? だ、だれですか?」



 覆面(ふくめん)の向こうから聞こえた意外と若い声に、サフィアは二度驚いた。

 覆面(ふくめん)の下から現れたのは十七、八の少年である。

 よく日に焼けて、顔いっぱいのそばかすは人懐(ひとなつ)っこそうだった。



「ひどいな。アナベルだよ。枯れ谷から来るのを見て、もしかしてって思ったんだ」


「えー! アナベル! ぜんぜん、わかんなかったです」



 メイはツインテールをぴょこりと揺らして駆け寄った。

 そこへ残りの射手(いしゅ)たちもわらわらと集まって来た。

 覆面(ふくめん)を脱いだ彼らはみんな十代から二十代の若者で、思いがけない友好さでメイを歓迎した。

 みんなであっという間に和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気(ふんいき)になる。



「メイ、久しぶりだな!」


「また大賢者様のお使いか?」


「こいつら、メイの友達? にしては、年離れてるなー」


「なー。またガラの悪い侵入者かと思った」


「ほんと、ほんと」



 サフィアはこっそりとメイに耳打ちした。



「メイちゃん、このひとたちは?」


「メイたちがむかってる、かくれざとのひとたちですよ」


「ってことは……まさか、(いにしえ)の一族?!」



 サフィアは急いで背筋を正した。

 そこへアナベルと名乗った少年がやって来た。



「魔物に襲われて大変でしたね、旅の方。大賢者様の用件で来たんでしょ? 俺たちの里に歓迎しますよ」


「助けてくれてありがとう。私はサフィア。こっちはトト。後のひとたちは私の連れで──」


「あれ? あんたのその格好……」


「ん? ボク?」



 アナベルが気に留めたのはトトの衣装だった。

 鈴のついた帽子にちぐはぐな服、爪先のカールした靴といういつもどおりの出で立ち。

 王都にいても奇抜(きばつ)な格好が目に付かないはずがない。



「その格好……もしかして道化師か?!」



 しまった、とサフィアは思った。

 せっかく友好的な雰囲気(ふんいき)で隠れ里に迎え入れてもらえそうだったのに、()み嫌われている道化師が一緒だと思われたら何をされることか。

 しかも、街中(まちなか)と違って向こうは武器を持っているのだ。



「……セレンザ様、どうします?」



 護衛たちがこっそりと耳打ちした。

 トトもちらりとサフィアを(うかが)っている。

 サフィアは迷った。

 ここでアルマダールの民と敵対するのは避けたい。

 いざとなればトトとメイだけ連れて隠れ里まで強行突破するか……と(ひそ)かに決めたときだった。

 一族の若者たちが一斉に()いた。

 (とき)の声……ではなく、歓迎ムードで。



「……マジで?! 道化師?!」


「えっ、嘘。ホンモノ?!」


「道化師が里に来てくれたって!」


「すげーっ! 皆に知らせなきゃ!」


「……へ?」


「……はい?」



 予想外の反応に、サフィアは(ほう)けた。

 トトはもっと惚けていた。開いた口が(ふさ)がらない、といった感じだ。



「えっと……ボク、道化師なんだよ?」



 トトが戸惑いながらも確認すると、若者たちはさらに()いた。



「うぉー! ホンモノだって! ホンモノの道化師だって!」


「ちょっと見せて。触らせて!」


「俺、一足先に里の皆に伝えてくる!」


「あ、ずるい。僕も!」



 何人かの若者が待ちきれないといった様子で駆けていく。

 サフィアとトトは思わず顔を見合わせた。



「どうなってるの、これ……」


「さぁ……」



 熱狂の(うず)の中で置いてけぼりになっているサフィアとトトの(かたわ)らで、唯一、冷静だったメイがぽつりと言った。



「ごしゅじんさまがいったですよ──ここは『けんこくしんわが、ただしくつたわっているとち』だって」



 その意味を、サフィアたちはのちに嫌というほど知ることになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 丁寧な表現と上質な文章で、読んでいるこちらも雄大なファンタジー世界を闊歩している気になって素敵です(●´ω`●) [気になる点] 射手は『しゃしゅ』か『いて』だと思いますのですっ(/ω\*…
2019/12/16 10:35 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ