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からくりピエロと大罪の姫  作者: 深月(由希つばさ)
間章 聖女の天秤

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14/37

2.5-3

 廃墟(はいきょ)のような広間を満たした()いだ静寂の中、少女の呼吸の音が荒く響いている。

 短剣は床に転がっていた。

 突き飛ばされた少年も、生きて、床に転がっていた。

 呆然(ぼうぜん)とした表情で、勇者だった少女を眺めた。



「……アメリア、どうして。()()()()()()()()()……」



 トトの目から涙が一筋、伝って落ちていく。

 何かが決定的に間違っていた。

 けれど、どこが間違っているのかわからない。

 泣きじゃくってかぶりを振る少女に、もう、戦意はなかった。

 戦う気力がないぐらい心がズタズタになっていた。

 二人の間にできた(むな)しいばかりの空白をデュヴァルオードの(あざけ)りが埋めていった。



「ふっ……あはははは! 傑作(けっさく)だな! 俺様を倒すただひとつのチャンスだったかもしれんのに! よりにもよって勇者がその邪魔をするとは! あはははは!」


「アメリア、危ない!」


「!」



 少女の目から涙が後から後から(こぼ)れて、魔王と切り結んだ剣に力が入らない。

 アメリアは無様に壁へ(たた)きつけられた。

 思考が一瞬で真っ白になり、脳がぐらぐらと揺れた。



「……う……」


「アメリア!」



 トトは咄嗟(とっさ)に心臓の魔力を使おうとした。

 先ほどの魔力の暴走が嘘のように静まりかえっている。



「くそっ……なんで!」



 心臓のエネルギーは、いわば想いの強さ。

 一度揺らいでしまった灯火(ともしび)は、魔王デュヴァルオードの前で、あまりに弱すぎた。



「遊びが過ぎたな、ガキども」



 ──(とげ)が。

 槍とも思えるほど巨大な影の(いばら)がトトの周りに生え立ち、見る見るうちに自由を奪っていく。

 あっという間にできた(いばら)(おり)の外にデュヴァルオードがいた。

 心臓の魔力を奪ったのに、平然と魔法を使ってくる。

 トトを見下ろす目には()てつくほどの憎しみが宿っていた。



「よくも出し抜いてくれたな。まさか(いにしえ)の一族とはな……どういたぶってくれようか」


「……殺すなら、殺せ。それで気が済むんなら」



 (かす)れた声で、トトは言った。

 デュヴァルオードの心臓はまだトトと同化している。

 トトを殺せば、魔王自身も無事で済まないはずだった。

 ──そんなことはデュヴァルオードもわかっている。

 わかっていて、ふと、綺麗(きれい)にほくそ笑んだ。残酷なほどに。



「そうだ……殺せぬのなら、永遠の責め苦を。そうだ。それがいい。くっくっくっ……暇潰(ひまつぶ)しにはちょうどいい。俺様を怒らせたこと、永遠に後悔させてやる」


「何、を……」



 (あり)を一匹一匹踏み潰すがごとき残酷な愉悦(ゆえつ)

 魔王が身動きのとれないトトの左胸に手を伸ばした。

 とどめを刺すのかと思った。違った。

 トトの詠唱とよく似た抑揚(よくよう)呪句(じゅく)



(しまった……!!)



 絶望的な予感に身じろいだときには遅かった。

 全身に電流が駆け抜けたかのような衝撃。

 同化した魔力が外に無理矢理引き出され、引き千切られ、もぎとられる苦痛にトトの思考は白く吹き飛ばされた。



(トト……トト! トト!)



 倒れ伏したアメリアは、朦朧(もうろう)とする意識の端っこを必死に(つか)んだ。

 身体中が痛くて、もうどこを怪我したのかもよくわからない。

 息をするだけで目眩(めまい)と吐き気が押し寄せてくる。

 指一本動かせなかった。

 (まぶた)を上げることすら()(がた)い苦痛を感じる。

 それでも、渾身(こんしん)の力で目を開けた。


 蝋燭(ろうそく)の灯りで石壁に影絵が照らし出されている。

 長い爪に捕らわれ、絡め取られて身動きのとれない少年のシルエット。

 影絵の少年に暗黒の龍が鎌首をもたげ、容赦(ようしゃ)なく食らいつく。

 蝋燭(ろうそく)の炎が掻き消え、闇に塗り込められた視界で──

 トトの絶叫(ぜっきょう)がぞっとする音色で響きわたった。

 やがて不気味な静寂が落ち、少年の身体が襤褸雑巾(ぼろぞうきん)のように放り出された。



「──こころを(うしな)った道化人形に、永遠の生き地獄を」

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― 新着の感想 ―
[一言] 毎話、毎話──人をせつなくなる魔法とか感動させる魔法でも掛かっているのか、と思わずにはいられませんね…。読むたびに何かしらの部分でセツナサを感じる自分がいます(。>д<)
2019/12/29 20:36 退会済み
管理
[一言] ああー、やっぱり黒い龍というのは魔王の必殺技(言い方古い)だったのですね( ̄▽ ̄;) いまのところ私の中で時系列に齟齬があるのですが、もう少し進んで解決しなかったらさらに読み返し、改めて質…
2019/12/12 17:15 退会済み
管理
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