おまけのおまけ ファンネル家、ペットト〇レ事情 上
題でお察しくださいませ。おまけのさらなるおまけ。
お暇な方、頭空っぽでおよみください。
時系列は過去です。ざっくりと、ファンネル邸襲撃あとあたりです。
次回(超不定期更新)はもしかしたら、王都廻りか?王城地下ツアー?
妹フェリシエルはハムスターを飼っている。
そのハムスターはでんちゃんと名付けられ、ときたま食堂のテーブルで眠りこけている。
執務を終えたシャルルがのぞくと果たして今夜もハムスターがまた腹を出して気持ちよさそうに転がっている。
最初はフェリシエルに、ハムスターの放し飼いはどうかと思うと意見した。
「でんちゃんは、気まぐれだけれどとても賢くて良い子なのです! こういう子は縛ってはいけないのです」
と言ってきっとまなじりを吊り上げるばかり。
妹のフェリシエルは気が強い。相手が誰でも気にせずバンバン意見する。それがこの国の王族でもスタンスは変わらない。
幸い、婚約者である王子のリュカは心が広いのか、「そこが可愛いのではないか。未来の王妃は度胸があった方がよい」といってくれる。賢く、出来た方でよかった。
フェリシエルのあの性格は、恐らく母のウィルヘルミナに似たのだろう。母は今でこそ、品よく微笑んでいるが、ひとたび怒らせるととんでもない事になる。父も言っていた。昔はとんでもない跳ね返りだったと。
そして、いま、ハムスターの前にはお供え物のようにモモやローストビーフの盛られた皿が置かれている。
使用人達の仕業だ。
「うろついているハムスターに餌などやったら食い散らかされるだろう?」
よくハムスターのために餌を作っている料理人を捕まえて聞いてみた。
「坊ちゃま、何をおっしゃいます! でんちゃんはとてもお行儀がよく。手を付けたものはちゃんと食べますし、食べたものを零すなどありません。ときどき粗相をすると恥ずかしそうにせっせと自分でお掃除しています。非常にお行儀が良いのです」
「いや、坊ちゃまはやめてよ。ってか自分で掃除って、何そのハムスター。テーブルで寝転がっているのに行儀が良いってなに?」
などと言うやり取りがあった。そう、今やこのハムスターは家族ばかりが、使用人達にも絶大な人気をはくしている。
♢
「フェリシエル、お前がでんちゃんの世話をしているのだよな?」
仕事の合間にサロンに降りるとフェリシエルがいたので、シャルルは声をかける。
「当然です。お兄様」
そう答えるフェリシエルは腕にふわふわの子猫を抱っこし、頭の上にちょこんとハムスターを乗っけている。
金髪の頭にサテンシルバーのハムスターはアクセサリーのようだ。妙に似合っている。
シャルルはネズミごときがそこまで懐くものなのかと、いつも驚愕させられる。
ちなみに、フェリシエルは馬やウサギにも懐かれ、テイマーの資質があるのではないかと、最近では王宮でもまことしやかにささやかれている。
「それならば、トイレの世話もしているのだよな?」
幾らペットの世話にマメだとはいってもお妃教育に忙しいフェリシエルだ。そこまで手は回らないだろう。
「当然……」
言いかけてフェリエルが黙り込む。やおら手を顎に当て考え始めた。妹は少々大雑把なところがある。シャルルは嫌な予感がした。
「おい、フェリシエル、まさかお前の部屋、ふんだらけではなかろうな!」
そう叫んだ瞬間、ハムスターの青紫の瞳がキラリと光り、ひゅんと一瞬でフェリシエルの頭の上から消える。
直後に銀の塊がシャルルめがけて飛来した。避ける間もなく、スコーンといい音を立てて、銀の球はシャルルの顎にヒットした。
「お、お兄様! 殿……でんちゃんになんて失礼なことをおっしゃるのです。この子はとてもお行儀が良いのです! そんな真似しません!」
フェリシエルが非難の声を上げる。
「いっ、痛い……」
シャルルはハムスターがクリーンヒットした顎をおさえる。柔らかいはずのハムスターの体当たりが地味に痛い。あの高速回転は曲者だ。
「でんちゃん! またそんなやんちゃなことをして、お怪我でもなさったらどうするのです!」
フェリシエルが、床にちょこんと降り立ったハムスターを救い上げ、優しく叱る。
「おーい! フェリシエル、まず、私の心配をしないか。どうしてペットが先なのだ。しかもネズミごときにその言葉遣いおかしいではないか」
シャルルがネズミごときに遅れをとってはならないと、どうにか態勢を整える。
するとハムスターがフェリシエルの手をすり抜け出て、シュタッタッタッと電光石火の勢いで、シャルルの肩に駆け上ったかと思うと耳にかじりついた。
「いたたたっ! でんちゃん、やめてってば!!」
「きゃあ! でんちゃん、いけません」
さすがのフェリシエルも慌てた。
「お兄様、早く謝罪を! 急いでっ!」
「ごめん、でんちゃん! お前はファンネル家最高のペットだ! だから、許せ、賢いハムスターよ!」
その言葉に反応したのか、でんちゃんの攻撃がゆるむ。すかさずフェリシエルがハムスターをひきはがした。ハムスターはぴるぴるしながら、シャルルにひたりと目を据える。
「いけません、でんちゃん、何でも口に入れては。お腹を壊したらどうするのです」
「ちがっ、違う、フェリシエル、私の心配は?」
何だかんだと妹を可愛がってきたのに、この言われようにシャルルもすこし悲しくなってくる。
「お兄様、耳は大丈夫ですか? というか、なぜいつも、でんちゃんにちょっかいを出すのです?」
妹にたしなめられた。が、本当のことなので、言い返せない。ことペットの扱いに関してはフェリシエルの方が扱いは数段上だ。妹はなぜか動物全般に強い。
to be continued




