ギルド
一行を乗せた馬車が、街に入る。王都のような優美さはないが、街にはとても活気があり、鍛冶屋に武具屋、食堂などが軒を連ね、賑やかだ。
「おお。わくわくするなあ!」
街に一歩踏み出した途端、ウィリアムが目を輝かせる。
「今日は登録だけだ。お前は領主としての仕事もこなさなくてはならないのだからな。それから最初はレベルの低い依頼から受けろ」
フードを目深にかぶった保護者リュカが口うるさく言う。
「兄者、何をいう。俺はガルムぐらいなら、倒せるぞ。スライム狩りなどやらん」
「馬鹿なことを」
リュカが弟の言葉に吐き捨てるように言う。また、兄弟喧嘩が始まった。
「まあ、まあギルドの入口で揉めるのもなんだし、さっさと入ろうぜ」
アルクがとりなした。
皆で、質素で堅牢な造りの三階建ての建物へ入っていく。一階には食堂があり、奥に行くとギルドカウンターがある。
一行は、食堂を抜け奥の受付に向かった。フェリシエルは物珍しくて、きょろきょろしてしまう。きっと普通の貴族はこういうところに来る機会はないだろう。
彼女は奥にはいかずに、食堂を物珍しく見ていた。何やら一癖も二癖もありそうな男女が、食事をし、煙草を吸い、酒を飲んでいる。
すると壁に掲示板があるのを見つけた。そこに依頼やギルドメンバーの募集などが書いてあるようだ。
早速子猫のミイシャと連れ立って見に行く。どぶさらいから、オークの群れの退治まで、いろいろとある。この星印は依頼の難易度だろうか? 見ているだけで楽しくなってきた。
王都ではオークなどの魔獣は出ないのでフェリシエルは見たこともない。これからリュカと諸外国を巡ることもあるので、旅の途中で見ることもあるだろうか。
物珍し気に依頼を見ていると
「お嬢ちゃん、あんた何ができるんだい」
と突然後ろから野太い声をかけられた。
「はい?」
「依頼をさがしてるんだろ?」
確かにウィリアムがギルドに登録をしている間、依頼を探しておいてあげるのも親切かもしれない。
「初心者向けの依頼はありますか?」
きっと彼は『どぶさらい』など嫌がるだろう。
「何だい。お嬢ちゃん、全くの素人かい。ならば一人で狩りをするよりも、パーティの手助けをした方がいいぜ。雑用みたいな」
「なるほど」
まずは様子見でそれも手か、早速ウィリアムに教えてあげようと思った。
「なあ、嬢ちゃん、俺たちと一緒に行かねえか」
などと言いつつ、男が馴れ馴れしくフェリシエルの肩に手を置いた。その瞬間フェリシエルは条件反射で男の腕をひねり上げる。
「何をなさるのです! 私は夫を持つ身なのです。みだりに触れてはなりません」
「いてっ」
すると近くのテーブルに座っていた目つきの悪い男達が数人ガタンガタンと立ち上がる。他の者は傍観を決め込んだようで、こちらに好奇の視線をよこしつつ酒や食事を楽しんでいる。
「おうおう、威勢のいい姉ちゃんじゃねえか」
しかし、フェリシエルは彼らに構わず口の中でぶつぶつと呪文を詠唱し始めた。すると彼女が怯えたと勘違いし、薄ら笑いを浮かべじりじりと近づいてくる。あっという間に五人の屈強な男達が、ぐるりとフェリシエルを囲んだ。
ミイシャが逆毛をたて威嚇する。しかし、男たちは馬鹿にしたように薄ら笑いを浮かべ子猫を眺めた。
「シャー!」
ミイシャは気勢を上げると男達の顔に次々と飛びつき爪を立て大暴れし始めた。猫は驚くほど敏捷で、なかなか捕まえられない。
「うわっ!なんだ、こいつ」「ちくしょう!」などと男達が喚く。子猫はフェリシエルの立派なボディガード役を務める。
「ミイシャ! お逃げなさい!」
フェリシエルがそう叫んだ瞬間、子猫が素早く横にとぶ。それと同時に雷撃魔法を発動した。
屈強に見えた男たちが電撃に痺れ瞬時にバタバタと倒れる。
瞬間、沈黙がギルドの食堂を包む。
広範囲魔法を使えるものは珍しく、ギルドでは重宝される。一般にこの国では高い魔力を有している者は高位貴族に異常に偏っている。
しかし、冒険者は一旗揚げようという庶民が圧倒的に多い。フェリシエルのような魔法の使い手は冒険者の間では人気が高いのだ。しかし、彼女はそれを知らない。
いままで、傍観していた冒険者達がフェリシエルを熱く注視する。彼女は我関せず。
「ふう、まったく他愛のない。ミイシャ、ありがとう」
優しく声をかけると勇敢な子猫を抱き上げた。無様にぴくぴくと倒れている男たちの中心にあって彼女は涼しげな顔だ。
「フェーリーシーエールー」
そのとき後ろから怒りを押し殺したような声が地を這うように響く。怖いもの見たさでフェリシエルが、ギギギっと振り返ると怒りの形相の王子がいた。隣に顔色を失ったエスターがいる。
「なぜ、大人しくしていられないんだ。この惨状はなんだ!」
フェリシエルを叱る王子の後ろには驚いた表情をしたウィリアムがいた。
「すごい! フェリシエル。強いんだな」
フェリシエルはすぐさま得意になる。そこで素直に褒めてくれる弟の為に、一計を案じた。
「ギルドの皆様! 聞いてください!」
リュカがぎりぎりと歯を鳴らしフェリシエルを押しとどめようとするのを、アルフォンソがどうどうと宥める。
「まあまあ、殿下お待ちください。フェリシエル殿にはきっと深いお考えがあるのでしょう」
「は?」
リュカが片眉を上げる。
「そうだよ。リュカ、フェリシエルに任せておけよ」
アルクが能天気な口調で言う。
「そんなわけないだろ? あれに深い考えなどあるわけがない。絶対に思い付きだ。あれは何かとんでもないことを閃いたときの顔だ!」




