第三王子の出立
その後、二人の結婚式はつつがなく行われる。さすがにそれにはウィリアムも第三王子として参加していた。
彼のガタイの良さから言って、病弱設定は無理があるのではと思ったが、上手にごまかしていた。
ウィリアム独自開発の病弱メイクなるものをほどこし、途中でふらりと貧血のふりをしたり、具合が悪そうにテーブルによりかかったりと芸が細かい。彼の素をしらなければ見抜けないレベル。
そこまで王族がいやならば、やはり彼は野に放たれた方がいいとフェリシエルは思った。幸い、クールなリュカと違い、ウィリアムには愛嬌がある。きっと彼はどこででも可愛がられるだろう。
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結婚後の大変な行事があらかた片付いた頃。フェリシエルの王太子妃としての仕事もスタートしていた。
王太子妃の仕事は優雅に茶を飲むことではなく、社交に加え、書類仕事も結構ある。
意外に忙しい。しかし、リュカのお陰で楽になったこともある。社交界は華美を控え、質素にとのお達しがでたのだ。
彼の推奨する民草のための政治である。そのおかげで、大規模な夜会や茶会は軒並み数を減らした。これには商人と癒着した貴族の勢いを失速させる意味合いもあった。第二第三のベネット家を生んではいけない。
商人と貴族の距離はほどほどがいいのだ。そうでないと政まで操られかねない。
王室の行事も随分とスリム化された。これに国王は口を挟みたがったが、彼には先の妃と第二王子の不祥事があるので、リュカが手綱をひき横槍は入れさせなかった。
メリベルのベネット家が取り潰しになり、王妃派があらかた片付けられ、社交界はファンネル家のフェリシエルに迎合する雰囲気となった。むしろ婚約者のころより、強力な反対勢力が台頭してくることもなく楽に社交をこなせる。
今ではだいぶ身分違いになってしまったが、伯爵令嬢のドリスとも久しぶりに会い楽しく茶を飲んだ。
国王はまだぐずぐずといっているが、退位までに二年もない。もともと暗愚であまり仕事をしないので、彼にはやることがない。ファンネル家とモーリスのオーギュスト家が、余計な横槍をいれないよう国王をさり気なく見守っている。
ウィリアムはギルドの情報を集めたり、新居となる城の準備を進めたりと病弱を装いながらも積極的に動いている。
臣に下るため、彼は領地経営の勉強もし、拝領されることになる領地に挨拶へも向かった。もっとも勉強は苦手なようで、結局優秀な家令が付くらしい。しかし、武芸には秀でていた。そして魔力はエルウィンよりも強いらしい。
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木漏れ日の差す森の中を一行を乗せた馬車が行く。フェリシエルは暗緑色のマントを羽織り、手には大きなバスケットを持っている。
同乗者は、ウィリアムあらためビリー。毛を茶色く染め、魔法で瞳の色を変えた王子。とくに変装もしていないアルクとアルフォンソ。
そう皆帰って来たのだ。アルクもアルフォンソもこの地に住むことになったため、それぞれ拝領されていた。
アルクもアルフォンソもこの地に住むことになった。王妃一派の粛清が行われたため取り潰しになった家もいくつかあり、彼らはそれを受け継ぐ形でそれぞれ拝領されている。
しかし、相変わらずファンネル家の厩にもやって来る。月の半分近くはそこで快適に過ごしていることは秘密だ。
ちなみにレスター家の広大な領地は分割され、ノルド公の三男リカルドが伯爵を名乗り、半分を治めている。あとの残りは没落したレスター家の親戚筋がそれぞれ治める事になった。
そして嬉しい事にフェリシエルの持つバスケットの中にはミイシャが隠れている。王宮に閉じ込められているフェリシエルは久しぶりのお忍びにわくわくした。本当はアルクたちに任せる予定だったが、王子と一緒に付いてきてしまったのだ。
子爵位を賜ったのにも拘わらず王子の護衛を譲らないエスターもひっそりと陰から見守っている。
森を抜け石畳の道に入ると、正面に冒険者の街ガルバムが見えて来る。フェリシエルの気分は高揚した。