プロローグ的な何か……
加速するご都合主義。ゆるっと読んでいただけると嬉しいです。そして「おまけ」話なのになぜかプロローグがあります。不定期更新です。
テラルーシ王国には第三王子がいる。彼は公の場に出ることはなく、いつしか病弱なのではと噂されるようになった。
そしてファンネル家の家長ネルソンと嫡男シャルルは常々言っている。
「第二王子と第三王子は使えない」
そんな不敬な事を言う父兄をフェリシエルは時に畏敬の念を込めて見ていた。まあ、第二王子はもうとっくに消えたが……。というより、消された?
どう消えたのかはフェリシエルは詳しく知らない。リュカも話したがらないし、父も兄も口にしないのだ。
今思うと第二王子はそこそこ出来たが、兄が偉大過ぎた。補佐に回ればよかったのに、やたらとライバル意識むき出しで、兄の失脚を実母である王妃と目論んだ。
そして残念な事にそれを実行に移し、命まで狙った。リュカだから生きている。そしてその矛先はやがて、フェリシエルに向かう。
彼らは、公には病死したことになっている。
リュカは感情を表に出さないが、とても寂しがり屋だと、長い付き合いからフェリシエルは知っている。
彼はきっと最後まで、半分血を分けた弟と歩んでいける道を模索していたことだろう。もちろん一国の王子であるから、冷酷な面があることも事実。
どちらが本当の彼かと問われるとフェリシエルは答えに窮する。そのどちらも彼自身。強さと慈悲を合わせ持つ。常に矛盾を抱えている人。
だから、フェリシエルは王子を支えようと思った。彼の時折見せる繊細さが、もろさが、他の人の目に触れぬよう、傷つけられぬよう守ろうと決めた。
フェリシエルが湯浴みを済ませ。文机で、いつ来るともわからないネズ……ではなく、王族ハムスターを待っていた。窓は寝るまで少し開けてある。と、その時、こつんと窓にドングリを打ちつける音がした。
フェリシエルの耳が過敏に反応する。開いているのにノックする礼儀正しいハムスター。今日は半月、それなのに、可愛いでんちゃんはやってきてくれたのだ。仕事が暇だったのだろうか。ハムスターは気まぐれでいつ来るのかわからない。
読みかけの本を放り出し、窓に飛びつく。
「でんちゃん、お帰りなさいませ!」
一方、ハムスターはその言葉にピクリと反応する。フェリシエルはハムスター可愛さに時折錯乱して、「いらっしゃい」ではなく、「お帰り」などという。そういう時は気を付けないと、ちびハムスターは握りつぶされることになる。
ガシっと迫りくるフェリシエルの手をよけ、サテンシルバーのハムスターはぴょーんと飛んで華麗に宙を舞う。
そこへフェリシエルがツッコミ、窓枠でおでこをガツンと打った。あの勢いでこられたら間違いなくつぶされる。間一髪、王子はほうっと額の汗を拭いた。
「いったーい!」
令嬢らしからぬ、声が上がる。
「ひどいじゃないですか、殿下、避けるなんて」
フェリシエルがおでこを赤くして文句を言う。
「いやいや、それ、おかしいから。その勢いで突っ込まれたら、いま、ハムスターだし、完全につぶれるだろうが! この鳥頭!」
幾度も生死の危機をかいくぐって来たハムスターは抜群の察知能力を発揮する。
「でんちゃん、おでこ痛いです」
「知らん! こっちはうっかり潰されて昇天するところだったぞ!」
「殿下、その時はぜひ私も一緒に!」
フェリシエルが訴えてくる。
「知るか、ぼけっ!」
もうすぐ、結婚するというのに最近フェリシエルのハムスター愛が異常で戦慄する。これで寝所がともになったらどうなってしまうのだろう。毎晩ハムスターの姿にさせられるのだろうかと心配になる。




