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57 出会いと別れ

 王妃と第二王子が捕らえられ、城は大混乱となる。王子は事後処理に奔走した。

特に国王の落胆は大きい。王は何事においても秀でている第一王子よりも愚鈍な第二王子を愛していたからだ。助命を乞うたが今回ばかりは致し方なかった。


 王国の後継ぎであるリュカ王子を何度も殺害しようとした証拠は既に押さえられていた。第二王子、王妃ともに幽閉程度で済ますにしては罪が重すぎる。国王の反対はあったものの、二人は秘密裏に処理されることとなった。


 結局、諸々の事情は国民には伏せられ、王妃と第二王子は病死とだけ公示することが、決定した。


 しかし、だからと言って、王子の命を狙うものがいなくなったわけではなく、やはり聡明な次期国王を邪魔に感じる者も多い。依然として彼は、命を狙われる立場だ。ただ、王宮奥深くまで刺客が入り込むことはなくなった。





 今日は、王宮で行われる王子と公爵令嬢の恒例の茶会だ。城の混乱はまだ続いており、結婚式は少し延期された。王子もフェリシエルも忙しく、茶会などやっている場合ではなかったのだが、国へ帰るアルクとアルフォンソの為に開かれた。


「それにしても寂しいです。アルクトゥルス殿下もアルフォンソ卿も故国へ帰られるのですね」


フェリシエルが残念そうに言う。彼女はしょげ返っていた。それも無理もないことで、青毛の馬セイカイテイオーはアンゴラウサギのウサギンともに飼い主に連れられてファンネル家の厩を後にしたばかりだったのだ。


「やだなあ、帰ると言ってもほんの数か月ですよ。また来ますよ。国の大使として。これから二国間で国交が開かれるのですから」


そういってにっこりとアルクが笑う。


「その時はまた、城に住め」


リュカがいうと


「いや、やめておく。王妃がいなくなったとしても、この城がおっかないことには変わりないからな」


アルクはすっかり懲りたようだ。そしてアルフォンソの膝の上にはミイシャがいる。フェリシエルが寂しそうに子猫を見る。


「ミイシャを宜しくお願いしますね」

「お任せください。私の養子にして必ず立派な獣人に育て上げますよ」


アルフォンソが約束してくれた。今日から彼がミイシャの保護者だ。悩んだ末にフェリシエルが出した答えだ。それになぜか子猫はアルフォンソ卿にとても懐いている。

ミイシャは奴隷商人に売られ、使い魔としてフェリシエルのもとにやってきた。王子が詳しい事情を知っているようだが、「知らないでいる方が幸せなこともある」と言われ詮索をやめた。大方、メリベルの手のものだろう。そういえば、ベネット家も近々取り潰しになると聞いた。



そしてアルクは、帰国する直前にフェリシエルに爆弾をおとした。


「今度、この国に来るときもファンネル家の厩に世話になります」


 そう言ってアルフォンソ卿とともに柔らかく微笑んだ。フェリシエルは卒倒しそうになった。もちろん、家族には秘密だ。父や兄にも立場というものがある。しかし、心のどこかでそんな気はしていた。彼らとは不思議と、強い絆を感じていたのだ。





 城の騒動が、ようやく落ち着いた頃、フェリシエルは久しぶりに人化した姿の王子と会った。前回の茶会以来だ。彼は少しやつれていたが、その表情は以前より厳しく、精悍なものになっていた。王子の変化は、当然といえば、当然だ。半分とはいえ自分の血を分けた弟を断罪しなければならかったのだから。父王の説得、貴族との折衝を彼はやり遂げた。嫌な役回りだ。



 そして今日、フェリシエルは、王子に連れられて、城の地下道を歩いている。


「あの殿下、この道はどこへ続いているのでしょう?」

「どこへでも」


 足場の悪い洞窟を王子がフェリシエルの手を取り案内する。


「いえ、私は謎かけがしたいのではなく。どこへ向かっているのでしょうかと聞いているのです」

「私の魔術の師匠の元へ」

「えっ、趣味でやっているものかと思っていましたが、師匠がいたのですか?」

「確かに趣味でもあるが、魔術を習得できるかどうかは私にとって死活問題だったからな」


 王子のその言葉が今一つぴんと来ない。しかし、これから会う呪術師は彼が世話になった人間だ。


「それでしたら、私もしっかりとご挨拶せねばなりませんね」

「いや、いいよ。ミカエラはそういうの面倒くさがるから」


 フェリシエルがふと歩みを止める。


「ミカエラ様とおっしゃるのですね。ということは、女性なのですね。殿下は、このようなジメジメとして薄暗い場所で女性と……」

「変なことを想像してないでくれ。女性といっても老女だよ」。

王子が食い気味に反駁すると、フェリシエルを促し歩き始める。


「まあ!なんということでしょう! 殿下はお年を召した女性は、女性ではないとおっしゃるのですか?」


 なにやら、フェリシエルの面倒くさいスイッチが入ったようで、王子はげんなりする。


 話というより、いつもの口喧嘩をしているうちにいつの間にか木製のドアの前についていた。


「こちらにお住まいなのですか?」


 フェリシエルが不思議そうに小首を傾げる。ここは日も当たらず住環境に適していない。


「ここにいないときは、街にいる。いくつも家を持つ神出鬼没の呪い師さ」


 何だかかっこいい響きだ。王子が、厚みのある木のドアをノックをすると返事があった。

ギギギッと蝶番がきしむ音を立てて扉が開く。

 灰色のぞろりとしたローブを纏った白髪で赤い目をした老女が出迎えてくれた。どうやら異国の人のようだ。







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