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55 結界

いつの間に、一人回廊をさまよっていたようだ。


「これは……魔術で編まれた結界?」



 フェリシエルがポツリとつぶやくと、広く天井の高い回廊に女の陰鬱な笑い声が響いてきた。


「ふふふ、フェリシエル様、お久しぶりでございます」


 黒いビロードのドレスを身に纏った女が現れる。首には黒いチョーカーを巻いていた。彼女にしては驚くほど地味だ。


「あら、どちら様でしたっけ?」


フェリシエルが居丈高にいう。


「まあ、この状況で威勢のいいこと」


 黒いドレスの女、メリベルの横に煌びやかな衣装に身を包んだ王妃が並ぶ。


「怖いでしょ? 泣き叫んでもよろしくってよ? でも助けは来ないけれどね」


「ふふふ」とメリベルが笑う。どうやら、二人はここでフェリシエルを害するようだ。


「命乞い、してもいいわよ?」


 メリベルにいつもの愛らしさはない。


「まあ、呆れた。ここで私が殺されたら、下手人が誰かすぐにわかるではないですか。それに正式なこの国の跡取りであるリュカ殿下の婚約者の私は準王族。害すれば、いくら王妃殿下とて、ただではすみませんよ?」


フェリシエルは、昂然と言い放つ。


「あらあら、私を脅すとは。その上無用な心配まで。ほほほ。面白い小娘だこと」


「フェリシエル様、何か勘違いしているようね? あなたはここで自害するのよ」


「はあ?」


 フェリシエルは心底呆れたように、首を傾げる。


「だから、ここで自害するのよ」


 メリベルが、怯まないフェリシエルにイラついたように念押しする。


「いや、どうして私が自害するのです?」

「それは次期王妃として、任の重さに耐えかねて」


 王妃の答えにフェリシエルの口から高笑いが漏れる。


「ほーほほほ!笑止。私がその程度のことで自害するとでも」


 勝気な色を宿した青い目をきらめかせる。どこまでも強気だ。


「エルウィン。この小生意気な小娘をやっておしまいなさい」


 振り返ると、いつの間にかエルウィンがそばまで迫ってきていた。その手には自害用の短剣が握られている。

 

 フェシエルが雷撃魔法を発動しようとした瞬間、魔方陣が出現する。金縛りにあったように、体の自由が利かない。


「残念ね。ここではお前の物騒で下品な攻撃魔法も使えない。そして、体も動かないでしょ?」


 失礼極まりない言葉遣いで、メリベルが近寄ってくる。これが彼女の地のようだ。


 フェリシエルののど元に短剣を突き立てようと、エルウィンがじりじりと近づいてくる。


「そこまでだ!」


 凜とした声が響くと同時にポンと軽快な音をたて、結界が破れた。そこへ王子が忽然と現れる。後ろには護衛騎士が控えていた。


「これはどういうことですか? 王妃殿下、エルウィン」


 つかつかと歩み寄ってくる。


「ちっ、違うわ。これは、そう私たちは、操られていたのよ、メリベルに。誤解よ」


 そう言うと王妃はエルウィンのそばによる。


「そうだ。母上の言う通りだ。兄上も知っているだろう? メリベルが魅了を使うことを。だいたいこの結界もメリベルが……」


「見苦しいぞ、エルウィン。あやつらを捕らえよ」


 王子の号令で兵がばらばらと出てきた。


「くそ、兄上! 覚えてろ」

「ちょっと何するの? 私はこの国の王妃よ。下民が汚らしい手で触らないで」


 口汚く王子や周りを罵り続ける王妃とエルウィンは、兵たちに連れていかれた。同じように捕らえられたメリベルが、フェリシエルを振り返る。


「なぜ、私の邪魔をする? なぜ、いつも私の前を歩く? 前世と同じようにお前を殺してやる」


 その捨て台詞にフェリシエルは目を見開く。


 メリベルの言葉が引き金となり、久しく忘れていた前世の映像が現れた。プラットホームから突き落とされる瞬間。

 そして記憶はもっと前へ……大学生の頃、親友の仮面を被ったあの女。



 彼女が前世の私を殺した。いまわの際に見たのは、せまりくる列車の眩しいライトではなく、ホームで、ほくそ笑むこの女の顔。私を突き飛ばしたのは……。

 



「黙れ、化け物! お前は自分の命がすでに終わっているのにも気づかないのか?」

 

 呆然自失となったフェリシエルを庇うように王子が前に立ち、メリベルの正体を暴く。


「え?」


 冷たい笑みを浮かべながらメリベルが首を傾げた瞬間、ずるりと首がずれ、重い音をたてて、床に転がった。チョーカーに見えたのは斬られた首のあと。


「ひっ」

「うわっ」


 辺りから小さな悲鳴が上がる。さすがに城の屈強の兵士たちも怯んだ。メリベルの体は崩れ落ち、ジュっと音を立てると灰になってさらさらと風に流された。



「死者にかりそめの命をあたえる禁術だ。あとでこの場を清めるように」


 王子が事態の収拾ををはかるべく、テキパキと指示を出す。呆然としていた兵たちが規律を取り戻し、動きだした。



 後には立ち尽くすフェリシエルと王子が残る。


「フェリシエル?」


 王子が声をかけるが、反応がない。

フェリシエルの心は奥深くまで沈み込んでいた。魂に刻まれた記憶。


 前世から、恨まれていた……。



 ふわりと優しく後ろから抱きすくめられ、フェリシエルの意識は浮上する。


「フェリシエル、絶対に私が守るから」


 王子の珍しく切羽詰まったような声。フェリシエルの頬を温もりを持った涙が伝う。

 その涙が前世の自分のものなのか、今生のものなのかはわからなかった。





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