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54 平和な茶会

 その後、まるで襲撃事件などなかったかのように、つつがなく視察の旅は終わる。

燃えた宿の賠償は当然レスター卿にさせた。



 一月後、レスター卿は失脚し、公爵家から伯爵家になり、家は断絶せずに済んだが、跡目は直系ではなく親戚筋が継ぐこととなった。


 この温情の裏には駆け引きがあった。国王にリュカを跡取りと認めさせ、第二王子が王位につくことはないと約束させ、更に王に早めの退位を迫った。その結果三年後リュカが戴冠して王になることが決定する。王はすっかり王妃の言いなりで、第二王子の勢力が強まって来ていた矢先の出来事だった。

 これでリュカの地盤は安定し、世継ぎ争いも沈静するかに見えた。



 そしてこの後、王妃側についた者たちは次から次に失脚していくか、寝返ることになった。この事態に王妃は次第に焦りを見せる。彼女はリュカを葬ることより、フェリシエルを亡き者にする方が容易なことに気付いていた。

 リュカを推すファンネル家の勢力を王宮からどうにかして排除したいと機会をうかがっていた。






 そして、リュカとフェリシエルの結婚式が半年後にせまったある日の事、フェリシエルは王妃に茶に誘われた。



「ああ、いやだわ。王妃殿下と差し向かいでお茶なんて」


 とフェリシエルが愚痴を言う。ここはファンネル家のフェリシエルの部屋だ。いつものようにでんちゃんが遊びにきている。

 そのでんちゃんは度重なるストレスのせいか、鬼のような勢いで回し車をこいでいる。この国の揺るぎない跡目となり、ますます面倒くさいことが増えたようだ。


「なら断ればいいだろう」

「そんなこと出来ません」


 フェリシエルが呆れたように即答する。膝の上のミイシャはゴロゴロと気持ちよさそうに喉を

ならしていた。今日もファンネル家にはのんびりとした時間が流れている。


「毒でも盛られたら、どうするつもりだ」


 でんちゃんがしゃかしゃかと軽快に走りなが言う。


「まさか。そんなことしたら、自分が犯人だってバレるじゃないですか。大丈夫ですよ」

「何を言っている。遅効性の毒だってあるのだぞ」


 ぴたりとでんちゃんの動きが止まる。ふわふわのマシュマロのようにまあるくなって、フェリシエルをひたりと見つめる。これは王子が、譲らないパターンだ。


「でんちゃんが、そこまでいうのならば、致し方ありません。仮病を使いたいと思います。はあ、いくら王妃殿下でもそこまではなさらないと思いますがね」



「危険だ。最近焦りを見せているからな。どんな暴挙に出るかもわからん。それに王妃は狡猾だが、それほど聡くはない」

「だいたい、なぜそんなにエルウィン殿下を王位につかせたいのでしょうか?」


「自分の子だからだろう。実家の権力を強めたいのだ。それは普通の貴族の考えだ」

「考えといったって、失礼ながらエルウィン殿下はあまり頭がよろしくないではないですか。あんなのが国王になってどうするのでしょう?」


「失礼ながらといつつ、ちっともそうは思ってないな」


 ハムスターは呆れつつも、また元気に走りだす。


「あ! そういえば、最近、殿下との恒例のお茶会でメリベル様を見かけないのですが、いかがされました?」


「お前……それ、今更だろ。だいぶ前からいないぞ」

「一時期はエルウィン殿下と婚約しそうな勢いだったのにどうしたのでしょうね?」


 フェリシエルが不思議そうに首を傾げる。


「病に臥せっていると聞いている。あの家は魔術にかぶれているからな。何か術に失敗して二目とみられない姿にでもなったのだろう」


 でんちゃんは興味なさそうだ。


「そういえば、殿下も魔術使えるんですよね?」

「ふふふ、私はハイスペックだからな! とはいっても趣味の範囲だが」


「何ができるんですか?」


 フェリシエルが身を乗り出し、興味津々に聞く。


「ふっ、主に隷属魔術だな。仲間を増やすのにはこれに限る! わはははっ!」

「なるほど、殿下の人となりがよくわかりました」


 可愛らしいハムスターだが、やはり中身は王子あらため王太子。くず発言に、フェリシエルの興味は一気に萎える。黙々とミイシャのブラッシングを始めた。


 ミイシャと言えば……この子は獣人の子だ。

 フェリシエルがショックを受けてから、彼女の前では獣化しないが、ミイシャはとても賢い。だから、教育を受けた方が良いのではと考えている。


 丁度、リュカが獣人の国の王子と懇意にしている。そのうち相談しよう。


 ミイシャは可愛いし、離れるのは寂しいが、いつまでもこの状態は彼にとって良いことではないのかもしれない。そんな風にフェリシエルは考えていた。





 最近のお茶会は人数が減った。まずメリベルが来なくなり、次に王妃も来なくなった。現在は、アルクトゥルス、アルフォンソ、王子、フェリシエルというメンツだ。


 これはあくまでも王子とフェリシエルの仲を深めることが目的の二人だけの茶会なのだから、なかなかおかしな取り合わせといえる。しかし、フェリシエルは茶会を楽しんでいた。

 獣人たちは、とても温和で気さくな人達だった。


 アルクトゥルスの諸国漫遊の話が面白い。だが、外国からの賓客である彼らは、王妃が来ると途端に無口になる。妙な緊張感が漂うのだ。

 そして第二王子のエルウィンはメリベルがいなければ来ない。


 いたって平和なお茶会だ。

 そして不思議なことに王子の持ってくる砂時計がメンツによって変わるのだ。今日は比較的大きなものを持ってきている。

 王妃がいるときにはすごく小さい砂時計をもって来る。

 

 きっと王妃にたいする当てつけだろうと、フェリシエルは確信した。





 そして愉快な茶会は終わり、フェリシエルはいつものように馬車に乗るため出口に向かった。

回廊の左手には城の立派な庭園が広がっている。ここはいつか雷に打たれた場所だなと思い出した。


 しばらく歩くうちに、ふと疲労を感じる。なぜなら、いつまでたっても回廊が終わらないからだ。そこではたと気付く。


「あら? 迷子になったのかしら? ヘレン」


 振り向くがいつも付き添っている侍女の姿はなく、その先には延々と続く王宮の回廊が……。








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