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50王子と視察

この大変な時期になぜ視察と慰問があるのか。フェリシエルは不思議だった。

久しぶりに乙女ゲームを思い出す。ゲームの強制力?いやいや、さっぱり覚えていない。


視察は、鉱石掘削の現場だ。最近発見されたもので王家主導で進められている事業の一環らしい。王子はそこに街を作り、現地で加工販売をしたいと言っていた。

それから、孤児院の慰問だ。この間、フェリシエルが孤児の識字率は上げてはどうかと言ったら、彼は早速取り組んでくれたのだ。そういうところは仕事がはやい。



 二人と護衛は同じ馬車で揺られて旅をすることになった。もちろん従者もメイドも同伴しているが、いつもより人数を絞り小規模なものだ。なぜなら、今回行くのは王家直轄の領地だからだ。


「フェリシエル、上の空のようだけど。今回は君も民の前で話をするのだからちゃんと覚えておいてね」


王子が口うるさい。あの可愛らしいハムスターになってしまえばいいのに。

フェリシエルは馬車に揺られながら悶々とした。


「まあ、それは誰におっしゃっているのですか。殿下? 私に限って、ダンスやお披露目で失敗するなどありえませんわ。ほーっほほほ」


護衛のエスターが馬車の中で、高笑いするフェリシエルに眉を顰める。彼女の胆力は認めよう。多分度胸とスペックの高さだけなら王妃向きの人材だ。しかし、なんというか、高飛車、残念美少女。

だが、その反面ペット達に見せる顔は全く違う。それは慈愛に満ちたものだ。将来、上手く人相手に出せるとよいのだがと思う。


なぜかこれから、視察に向かうというのに彼女の膝には愛らしいペットがいる。もふもふ猫とさらにもふもふなうさぎだ。増えている。いつの間にやら増えている。訪れるたびにどんどん増えていくファンネル家のペット。しかもペット達は異様に頭がいい。彼女はまるでテイマーのようだ。


そしてなぜか、この馬車を引いている馬の一頭もファンネル家のペットだという謎。「ペットは家族です」などと言って連れてきてしまったのだ。なぜか、王子も「そうだね。フェリシエル、癒しは必要だ」などと快諾した。しかも、その馬も異様に利口。


 エスターにはこの二人の関係が分からない。普段は仲が悪いのかとヒヤッとすることもあるが、実は仲がいいから本音をさらけ出し合えるのか。


「ああ、そうそう、エスターは、女性の髪飾りって何が好き?」


 フェリシエルの突然の質問にエスターは驚く。


「はい?」

「はあ?」


 エスターが困惑気味に王子が切れ気味に返事をする。


「なぜ、エスターに?」

「なぜ、私に聞くのですか!」


 王子に胡乱な視線を向けられてエスターは焦った。


「え? あなたの趣味のものを買おうと思って、金が好きなの? 銀が好きなの?」

 エスターは焦った、明らかに王子の目が鋭くなっている。というか瞳孔が窄まって怖い。そうこの人は護衛の彼よりも強い。なんなら守ってもらえるレベル。

「いいえ、どちらでもお似合いかと……」

「そう、そうよね。分かったわ。ここは華やかに金にしましょう。彼女は瞳の色が緑だから、金地にエメラルドで決まりね」


「ん?」

「はい?」


 フェリシエルの瞳はブルーだ。そこでエスターははたと気づいて赤くなる。彼が最近付き合い始めたファンネル家のメイドのセシルが言っていた。二人の仲を応援してくれる人がいると、まさかフェリシエルだったとは……。確かにセシルは時々高価で上品な飾りをつけている。


「ふふふ。どうしたの、エスター? さっきから、赤くなったり、青くなったり」


 王子が先ほどと打って変わって楽しそうだ。どうやら、彼に勘づかれた。はやく護衛の交代時間にならないかとエスターはそっと嘆息する。分かっている。フェリシエルはきつい見た目や言動と違い、多分根は親切なのだと。


 馬車は鉱石掘削の地グローサーをめざす。

 途中、中規模な都市で宿泊をした。宿屋は、王都にあるファンネル邸よりずっと小さくて質素だった。


 視察一行は宿屋の食堂で、普通に食事をする。連れてきたメイドや従者も一緒に食べた。そうしないと宿屋に負担をかけてしまうからだ。出てきたものは庶民が一生懸命考えた王族が食べそうな食事だった。


「はあ、こんなに気張らなくても、食事は普通でいいと言ったのに。フェリシエル、食事は口に合うかい?」


「はい、普通に美味しいです。ですが、殿下、ここの土地はグローサーへの中継地にもかかわらず、王族の別邸のような物はないのですか?王家が直轄の領地と聞いています」


 フェリシエルは普段の食事と変わりないように美味しそうに料理を平らげる。意外に彼女はこういうところで贅沢やわがままを言わない。


「あるにはあるけれど、庶民の生活を見たいと思うではないか」

「はあ?何を言っているのです。かえって気を使って大変そうではないですか」


 フェリシエルの明け透けな物言いに王子は苦笑する。


「相変わらずフェリシエルは容赦がないね。まあ、これは土地の人に金を落とすという事で」

「なるほど!それならば納得です。私もここで家への土産物を買いましょう」


 フェリシエルは相変わらず偉そうだ。しかし、彼女は王子の考えを理解し、ここでファンネル家の使用人達の為に土産を買おうとしている。市井の生活が見えているのだ。だからこそ、出る発言。深窓の令嬢である彼女の発想としてはいささか不自然だが。


 「ああ、なるほど! フェリシエルは前世で庶民だったんだね」


 王子の言葉に、フェリシエルのフォークを口へ運ぶ動きがぴたりと止まる。


「恐れながら、殿下、前世には庶民や貴族などという身分制度はございませんでした。皆平等でした」

 

 ちっとも恐れていない様子。ピシッとフェリシエルがまなじりを上げる。


「ふふふ。私の聞き違いかな? 社畜がどうとか、ぼやいていなかった?なんだか、奴隷制度のようだけれど」

「そっ、それは殿下の聞き間違いでございます!」


 その後、いつもの不毛な言い争いのあと、二人は食後の茶をそのまま食堂で飲み、フェリシエルが先にいとまを告げる。


「そうそう、殿下、言い忘れていましたが、私の部屋になんと!ネズミの穴があるのです」

「え? まあ、このような宿なら、それも致し方がない。塞いで欲しいのか? それならば、宿屋の主人に……」


「違います!殿下、塞いではいけません。絶対に!それでですね。その穴、殿下のお部屋までつながっているのではと、フェリシエルは考えております」


 フェリシエルの瞳がキラリとひかり訴える。何かを強烈に訴えている。


「ああ、フェリシエル、私はこれから、明日の打ち合わせがあるからね。今夜はゆっくり休みなさい」


 フェリシエルは王子にそう言われると「走り車がないから駄目なの?」などとぶつぶつ言いながら部屋へ引き上げていった。


 え?なに?ハムスターにならなきゃダメなの?


 王子は去っていくフェリシエルの背中に無言で問いかけた。













次回、ヒロイン視点!? 多分

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