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03領地暮らし

注:後半部に、自然災害の描写があります。ご注意ください!!!読み飛ばし推奨。

 仮病が家族公認となったところで彼女は公爵家の素敵な庭園で、花を愛でながら、堂々と優雅にお茶の時間を楽しんだ。膝には可愛い子猫が乗っている。この猫はフェリシエルが療養中に公爵家にやってきた。毛並みの良い猫なので最初はどこかの飼い猫かとも思い預かっていたが、どこの家も名乗りでず、結局なし崩し的に家で飼われている。なぜかフェリシエルに一番なついておりミイシャという名前を付けてやった。

手触りがとてもよく、眠っていると時々ベッドに入ってくる。いつも家にいるのかというとそうではなく、気まぐれにやってくる。


フェリシエルはこんがりと焼けたフィナンシェに手を伸ばす。噂は危険だ。これがメリベルを呪うのではなく王妃を呪うという噂だったら、間違いなく牢につながれ、極刑一直線。一族だってどうなるか分からない。


断罪にしては早すぎる。




次の日、珍しいことに王子が訪ねてきた。


客間で人払いをした。ただの見舞いではないようで、フェリシエルは訝しく思った。

文字通り、いつもそばで空気のように控えている侍女も従者もいない。二人きりだ。


はて?お茶は誰が入れるのでしょう?


王子がお茶はまだかと言わんばかりにティーセットを見つめている。この国の王妃教育にお茶を入れるなどなかった気もするが、仕方がないのでフェリシエルが入れた。


王子はいつものように懐から砂時計を取り出しセットした。さらさらと白い砂が落ちていく。

豪華なティーテーブルに向かいあって座り、紅茶を一口飲むと切り出した。




「体調が悪いという話だったが、随分と元気そうじゃないか」

「……」


王子は別に心配で来たわけではなく。嫌味が言いたかったらしい。


「まあ、いい。ちょっと話がある」


何となく見当はついた。昨日兄から聞いた噂話の件だった。


「で、行ったのか?」

「行ってませんし、呪ってません」


きっぱりと言い切った。


「フェリシエル、しばらく領地に籠る気はないか?」

「え?」


いきなり幽閉の流れのようだ。ゲームでは婚約破棄後の幽閉だったが、幽閉が先でも問題なかった。死ぬよりまし。


「どうやら、私たちの婚約を良く思わない者たちがいるようだ」

「そうでしょうね」


ファンネル公爵家のフェリシエルと婚姻を結べば権力はより強固なものとなる。次期王位を狙う第二第三王子に王弟である大公などは面白くないだろう。


「だから、フェリシエルどうか私の力になってはくれないか?」

「はい。もちろんです」

「それは良かった。結婚を早めようと思う」

「……」


フェリシエルは驚愕した。


「……それは誰との結婚ですか?」

「君とに決まっているだろう。他に誰がいる?」


あれ?断罪早まってる?


 「いえいえ、それは無理ですよ。殿下は王族です。準備だって時間がかかるし、とにかく無理です!」


「そんな悠長なことを言って、君が陥れられたらどうするのだ。結婚できなくなってしまうだろう」

「え?心配してくださっているんですか?」


 驚いた。ゲームと違い王子はなぜか結婚したがっているようだ。それにゲームの中の王子よりずっと賢い。

 砂時計の最後の一粒が落ちた。


王子の帰り際、猫のミイシャがやって来た。


「ひぃ」


なぜか王子は子猫のミイシャを見て悲鳴を上げた。

かわいいミイシャが苦手のようだ。


王家の馬車を見送りしながら、領地にミイシャを連れていけないかしらと思った。





王都から、馬車で片道三日はかかる領地に住み始めて、十日が過ぎた。

フェリシエルはその間手をこまねいていたわけではない。断罪は刻一刻と近づいているのだ。

 幽閉に備えて兵糧を貯めていた。美味しいお菓子に、今までお妃教育で読めなかった小説を取り寄せ快適な幽閉ライフを過ごす予定だ。前世では結婚したのだろうかとふと思う。もし未婚なら……。

 

 王子からは元気にしていますか云々という定型文が書かれた手紙が一度届いた。それ以外は静かなものだった。

 

 フェリシエルはここ一週間ほど続く雨を窓越しに眺めた。雨脚が一向に弱まらない。

 翌朝久しぶりの晴れ間に少し気分が浮き立った。サロンでのんびりとお茶を飲むフェリシエルのもとに家令が慌ててやってきた。


「大変です。お嬢様、近くの村で川が決壊しました!」

「え、何が大変なの?私に関係ありまして?」


そう言うと彼が顔色を失くした。

仕方なく詳細を聞いてみると、その村では人々がすむ場所を奪われ、畑は川に流され、食料もなく困っているという。


「では早速、お父様にお手紙を出しましょう」

「お嬢様、王都に届くまで三日はかかります。そして援助が来るにはもっとかかります」


ノブレス・オブリージュ。自分とは無縁だと思っていた言葉。正直、前世の記憶が戻るまでは領民など人とは思っていなかった。しかし、今は彼らにも自分と同じ赤い血が流れていると分かっている。


「そう、援助にはどれくらい時間がかかりますか?」

「十日はかかると思います」

「分かりました。村の近くに別邸がありましたね。あれを村人に開放してください。そしてこの屋敷には十日分の食料を残して、あとは村人に分け与えてちょうだい」


 家令が驚愕に目を見開いた。


「なんてもったいない。お嬢様、援助は必要ですが、そこまでされることはないかと……」

「中途半端なことしたってしょうがないでしょ? さっさと取り掛かってちょうだい。私は、家に手紙を書きます」


 また、兵糧は蓄えればいい。本格的に幽閉となる前に必要のないドレスや宝石は処分した方がよさそうだとフェリシエルは思った。

どのみちこの土地で一生過ごす予定だ。領民とは仲良くしておいた方が良いに決まっている。


 フェリシエルは使用人達が感謝の眼差しを向けるのに気が付かなかった。ここの使用人は半数以上は村の出身者なのだ。領地経営にタッチしてこなかった彼女はそのことを知らない。













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