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35ハムスターきたる!?

フェリシエルがサロンででんちゃんを待ちわびていると、暇なのか兄が話しかけてくる。


「そういえば、お前が放し飼いにしてるハムスターどうしている?

最近見ないよな? 偉そうによく猫の背中に乗ってたのに。あのちっこいの、どこ行ったんだ?」


「でんちゃんは、今お出かけ中なんです。もうすぐ、戻ってきます」

「そんなこと言って。どっかほっつき歩いていて、猫にでも食われたんじゃないのか?」

「お兄様なんということを! でんちゃんに限ってそんなことはありませんわ」


 フェリシエルがきっとまなじりをつり上げる。こうなったらいてもたってもいられない彼女は早々に自室に引き上げハムスターの到着を待つことにした。


 王族ハムスターは気まぐれで、夜はフェリシエルの部屋の窓から来るが、ときおり昼に来てミイシャと遊んでいたり、セイカイテイオーの背にさっそうと乗り庭で乗馬を楽しんでいたりする。ちっちゃいのであやうく見落としそうになることもしばしば。とにかく気が抜けないのだ。



 その頃、ハムスターではなく王子は執務室を出たところで部下につかまる。国外から、お忍びで要人が訪ねてきたので王子に話を聞いてもらいたいという。彼は爽やかな笑顔の裏で、今日ばかりはファンネル家の温かくて美味しい晩御飯を食べたかったのに、今夜も毒味のすんだ冷めた飯かと切なく思う。


 

 公爵家へ続く秘密の通路をせっせと走るころにはすでに深夜を回っていた。

 これは窓を叩いてもフェリシエルが気付かないかもしれない。彼女は眠りが深く、時々楽しい夢でも見ているのか寝ながら笑っていることがある。ちょっと怖い。


 しゃかしゃかと王族ハムスターは二階のフェリシエルの部屋まで登る。窓は開いていた。覗くまでもなく、彼女が窓枠に倒れ込んでいる。死体か!?否、ハムスターを待ちわびて、力尽きたようだ。


 ドングリをしつこく投げつけてみたが起きる気配がない。ハムスターは諦めて人化することにした。熟睡するフェリシエルをそっと抱き上げベッドに収納する。すると彼女のベッドの枕元にあるハムスター専用ベッドが増えていた。まさか新たに飼い始めたのか? ライバルの出現だとっ! 王子は焦る。部屋を一通り調べまわってみたが、その痕跡はない。


 ほっとしつつも、そこでふと我に返る。人化して乙女の部屋をあさっている姿を見られたら、出入り禁止にされてしまう。むしろ犯罪。変態呼ばわりなど王家末代までの恥。そんな扱い耐えられない。そこで、すとんと獣化する。おそらくこれでセーフだ。犯罪は未然に防がれた。「ふぅ」とハムスターは額の汗をぬぐう。


 夜会から一週間、フェリシエルはハムスターを待ちわびて色違いのベッドを作っていたようだ。健気だが、腹立たしいほど紛らわしい。思わず人倫にもとる行為に走ってしまったではないか。



 文机を見るとハムスター用のおもちゃとおぼしきものが増えている。この家であれで遊んで喜ぶのはミイシャぐらいだが、付き合ってやらないわけにいかない。というか確実に付き合わされる。

 

 ちなみに王子のお気に入りは回し車だ。ストレス解消にはもってこいである。むしろそれ以外いらない。実は砂風呂も大好きだが、あれは屈辱感と背中合わせでとても危険。遊んじゃった後に人間やめたくなること請け合い。


 背中に柔らかで温かなものがまとわりつく、ミイシャがきた。子猫は甘えん坊だ。モフモフの毛をこすり付けてくる。撫でて欲しいのだ。きっと幼いころに親をなくしたのだろう。人化したとき額にチラリと奴隷の証をみた。子猫は売られてきたのだ。そして使い魔としてここに送り込まれ、今は王子に隷属している。魔術をといて自由にしてやりたいのはやまやまだが、誰の使い魔だったのか分からない以上そうもいかない。


 ミイシャと少し遊んでやり、お互い毛づくろいをし、顔周りをなでて寝かしつけてやる。すっかり懐かれてしまった。それからフェリシエル手作りの真新しいハムスター専用ベッドに潜りこむ。うぬぬ、ふっかふかでクッション性が進化しているではないか。せっかく作ってくれたのだ。使ってやらねば。久しぶりにぐっすりと深い眠りにつく。




 王子はベッドの上で目覚めた。温かくていい匂いがする。ぱちくりと目をあげると、目の前にフェリシエルの笑顔があった。


「でんちゃん、おはようございます!」


 ハムスター専用ベッドではなく、フェリシエルと一緒に寝ていたらしい。そういうことをしてはいけないと何度いっても鳥頭なのですぐに忘れる。慌ててベッドから飛び出そうとするとあっさり捕まった。


「ふふふ、でんちゃんにプレゼントがあるのです」


もう嫌な予感しかしない。ハムスターはいらないとばかりに首を激しく横にふる。


「ほらほら、これいただいたじゃないですか」


 首につるしたカフスを見せる。本当に寝る時まで肌身離さず持っていた。ものの例えが通じない。やはり馬鹿なのではなかろうか。ハムスターが呆れていると、フェリシエルがにまにましながら中央にラピスラズリが飾られたビロードのリボンを取り出す。



「ううおおお!やめい!なぜ首を縛りたがる」



 事態を察したハムスターがジタバタと逃げ出そうとする。しかし、捕獲の仕方が巧妙で彼女の手の中から抜け出せない。

 彼女はすぐにハムスターの首にリボンを巻きたがる。小癪にも結び目を首の裏にするのでハムスターの短い手足ではなかなかほどけない。



「だって、でんちゃんかわいいから、ほかの飼い主に拾われちゃうかもしれないじゃないですか。これはカフスのお礼とうちの子っていう印です」


「そんなわけあるか! 私はこの国の王子だぞ」


ってか、うちの子ってなに?





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