第6指令 指揮官と狩り
様々な発見があった図書館を後にし、東の草原地帯に行く前に俺は雑貨屋に寄って初期装備を売っぱらい、初級ポーションを3つと解体用のナイフ、初級調理セットを買っていく。初期装備は軍専用装備を着用している俺には全く必要ないので此処で売ってしまった。あと店主のばあさんが桶をオマケでくれた。何に使うのかと聞いたら血抜きに使えとのことだった。
結果現在の所持金は、プレイヤーが初めにもらえる所持金が500S。初期装備を売って100Sプラス。そこから初級ポーション3つの150Sと解体用ナイフの100S、初級調理セットの250Sを引くと、所持金合計は100Sになる。ちょうどぴったり初めにもらえる所持金を全部使い切った計算になる。本当は初級調合セットも買いたかったが値段が350Sと所持金の半分以上だったので諦めた。
準備もできたので、ワーチの東門へ向かう。
ワーチの東門から出てフィールドに入ると同時に、従魔珠からガルとイージスを出した。そして図書館に行く前からずっと肩に乗っていたシノブも肩から下ろす。
「今回相手にするウェアラビットは動きが速いから、スピードのあるシノブとガルでウェアラビットを仕留める。イージスは俺の側で万が一、ダッシュボアやホーンウルフの群れが来た時の為に備えててくれ。防御に関してはお前が頼りだ」
「ガゥ!」
「…」ガシャシャン
「…」プルンプルン
雰囲気的に全員が俺の指示に従ってくれるみたいだ。
「それとガル、お前にはもう1つ頼みたい事がある。お前の【危険察知】のスキルに何か反応があったら短く遠吠えをしてくれ。ただし、無理のない範囲でな」
「ガゥ!」
ガルにはアタッカーと危険察知の2つの役目を任せてしまうことになるがガルの反応を見る限りやってくれるようだ。
「それじゃあ行くぞ」
シノブ達を連れて、俺は草が生えなくなるほど踏みしめられたであろう道を進む。左右を見れば、草原地帯では人がごった返している事が容易に分かる。ただしその全てがサモナーであり、単数しか連れていない。俺のように複数連れているなんて事は無い。それに大半がパーティでやっている。俺とは対称的な事実に多少の寂しさを感じながらも、少し奥に進んだところに入る。
ボスエリアに近くなるほどに、モンスターの平均レベルは上がっていき、木々が生い茂ってくる。更にこの東の草原地帯限定で言えばホーンウルフの群れが増えてくる。その為、ウェアラビット目的で来るのにはあまり向いていない場所でもある。それでも街の近くほどでは無いものの、少しはウェアラビットもいるので、俺はここでウェアラビットを狩ることにする。
先ずは【敵察知】のスキルを使って、周囲に敵がいないかを確認する。今のところウェアラビットどころかホーンウルフやダッシュボアすら見つける事ができない。
そうやってスキルを発動させて1分が経過した頃、漸く感知できる範囲内にモンスターが入ってきた。モンスターの数は1体。図書館から得た情報でこの辺りではホーンウルフは群れでしか行動しない。それにこの見晴らしの良い場所で感知できるという事はモンスターからもこちらが見えている可能性がある。にも関わらず、気配が猛スピードでこちらに向かってきていないという事はダッシュボアでも無い。という事は…いた。やっぱりウェアラビットだった。
「それじゃあ初めての戦闘だ。気を引き締めていくぞ。ウェアラビットに気付かれない所までガルとシノブは進んでくれ。シノブは可能ならスキルを使ってもっと近づいてもらっても構わない」
奇襲メインで動く為、俺とイージスの2人はその場に留まり、ガルとシノブがウェアラビットに攻撃を仕掛けることになる。
今のウェアラビットは食事中のようで、かなり油断している状態だ。なのでその隙を突いてガルとシノブで一気に仕留める。ガルとシノブが配置についたようだ。あとはタイミングを伺うだけ。
「今だ、行け」
ウェアラビットの注意が散漫になった頃を見計らい、指示を出す。気付かれないように小声指示を出しても、【指示】スキルによってシノブ達には確実に伝わる。
先ず、【隠密】のスキルによってウェアラビットに近づいていたシノブがウェアラビットに体当たりをかます。いきなりの攻撃と【奇襲】のスキルが重なり、シノブのSTRでもウェアラビットの脚に血を流す程度の傷を与える事ができた。運良く脚を傷付ける事ができたのでウェアラビットを逃す事なく、ガルの一撃で仕留める事ができた。【解体】のスキルをアクティブにしているので、ウェアラビットの死体はその場に残っている。俺はその死体をインベントリに回収しながら、今回の戦闘を評価する。
初めての戦闘としては中々じゃないだろうか。こちらのHPの消耗はなく、理想的な勝ちだったと思う。ただ、これ戦闘じゃなくて狩りじゃないかと思う部分はある。
戦闘というのは、特に大体同レベル同士の場合、大抵そこそこはダメージを受ける筈である。が、今回こちらは全くといって良いほどダメージがない。それに俺は近接戦闘を行ってないし、ガルの一撃だって始めのシノブの攻撃で脚を潰した以上、当てられて当然なものだ。結果、ガルにとってはほぼ消化試合みたいなもんだった。
安全に勝てた事を喜びたいが、いまいち俺の思い描いたモンスターとの戦闘のイメージに結びつかない初戦に、俺は嬉しいのに嬉しくないというなんとも微妙な気持ちを味わった。