変態砲撃手は正当化に必死。
「ナーリア聞こえるか!?」
「はい! 聞こえています!」
私は今ニーラクの護衛部隊と一緒に戦っていた。
「そちらの戦況を教えろ!」
「えっと、こちらはほとんど片付きました! 何かあったんですか!?」
お姉ちゃんが急に連絡して来たって事は急ぎで救援に行かないといけない場所ができたのかもしれない。
「もうお前等が居なくても大丈夫そうか?」
「そう、ですね……ちょっと待ってて下さい」
お姉ちゃんに少し待ってもらい、周りを見渡して知っている顔を探す。
「ホーシアさん! ここから離脱しても大丈夫でしょうか?」
「おうナーリア嬢ちゃん、おかげで助かったぜ! こっちはもう大丈夫だ任せときな!」
ホーシアさんがぐっと力こぶを見せつける。
「こちらは任せても大丈夫そうです。私はどこに行けば?」
「ナーリアはそこから北西にあるハーミット領へ行ってくれ! そっちにはあまり人員回せてないんだ。飛行種が多く飛来しているようだからナーリアが最適だろう」
「分かりました! そういう事でしたらハーミット領へ向かいます。勿論転移アイテムで行けますよね?」
「それは事前に粉撒いてあるから大丈夫だ。入り口まで行けるだろう。頼んだぞ!」
お姉ちゃんの背後で戦闘音が聞こえていた。
きっとお姉ちゃんもどこかの戦場へ出ているんだろう。
私も頑張らないと。
「ナーリア殿どこかへ行くであるか!?」
「ええ、私は北西のハーミット領という所に……」
ハーミット、領?
そうか、そこは……。
「行くのであれば是非我も同行させてほしいのである! こちらは我らが居なくても……」
「ちょぉぉぉっと待ったぁぁぁぁぁっ!!」
私達の目の前に、ドスンと重たい音と砂ぼこりを立てて何かが飛来した。
「魔物!?」
エンペックをすぐに構えてそちらに向けるが……。
「おっとっとぉー! お嬢ちゃんその物騒なもんを下げてくれ!」
「お前、ライノラスではないか! こんな所で何をしている!?」
「何をしているじゃねぇよお前ちょっと手伝え! 俺と一緒に来い!」
以前ニーラクに初めて来た時、ライゴスと戦っていたライノラスという魔王軍の元幹部。
彼は確かリャナで一芝居打っている時に現れて姫に……。
「ライゴス、この方は敵ではないのですね?」
「あ、あぁそれは大丈夫なのである。それより……一体何があった? ……まさか」
「おう、そのまさかだぜ! お前は知らねぇかもしれないが俺の住処はここからすぐなんだよ! 変な魔物がわんさかきて大変なんだ追い出すのを手伝ってくれ!」
申し訳ないけれど、彼一人の家よりも今は……。
「ま、待て。お前の家などどうでもいいがライノ、お前の家の近くには……!」
「おい、俺の家がどうでもいいってどういう意味だこん畜生!」
「ライノ! 今すぐ我をそこへ連れていけ! 今すぐにだ!」
「お、おぉ? なんだ急に……お前、まさかあの……」
ライゴスは急にライノラスの提案に乗るつもりになったらしい。
「ナーリア殿! 我は急用が出来た為そちらに行けなくなったのである! ライノ! 早く行くのである!」
ライゴスがライノラスの肩を掴んで必死にぐわんぐわんと揺らした。
「分かった分かった! グリ蔵! 降りてこい!」
ライノラスの合図で私達の元へ大きなグリフォンが降りてきた。
「ナーリア殿、本当に申し訳ないのである! しかし我にはどうしても守らなければならない者が……」
ライゴスがここまで必死になる相手ってどんな人だろう? 少し興味はあるけど、私は私のやるべき事をやるだけ。
「大丈夫です。元からハーミット領へ呼び出されていたのは私ですから。お互い健闘を」
「うむ! 健闘を祈るのである! ほれライノ行くぞ!」
グリ蔵と呼ばれたグリフォンにぴょんとライゴスが飛び乗ると、グリ蔵は体をバタつかせてライゴスを振り落とした。
「な、何をするであるか! 我ら知らぬ間柄でもなかろうに!」
「あー、お前が元の外見だからじゃねぇの? 人相悪いし重たいし」
「なっ……なんだと……? くそっ、仕方あるまい。これでいいか!?」
ポンっとライゴスの身体が小さなぬいぐるみへと変わり、グリ蔵はその姿を見るとライゴスをくちばしで摘まみ上げ背中に放り投げた。
「やっぱりその姿じゃねぇとダメだってさ。天下のライゴス様が落ちぶれたもんだぜ」
「やかましいのである!」
「運んでやるからご主人もさっさと乗ってくれ」
グリ蔵しゃべったぁぁぁぁっ!!
え、グリフォンって喋れるの!?
私が驚いている間に、グリ蔵は二人を乗せて飛び立っていった。
……ハッ。
こんな事してる場合じゃ無かった。私も急がないと……。
「ホーシアさん! じゃあ後の事は宜しくお願いします!」
「おうよ! 任せとけ。ナーリア嬢ちゃんも気をつけてな!」
本当にホーシアさんは気持ちのいい魔物だ。
幹部達の中でもムードメイカーで人間に対しても早々に偏見を捨てて接してくれた。
人間も、魔物も……被害を最小限に済ませないと。
「ホーシアさんも無理しないで下さいね。では行ってきます」
結論から言うと、ハーミット領へ転移した私が目にしたのはニ十匹程度の魔物だった。
全て飛行種だった為、確かに他の皆だと少し手こずったかもしれない。
「サヴィちゃん、やれますね?」
『もっちろんです~♪ 全てターゲット済みですよ! 全力でぶちかまして下さい!』
「拡散式エレクトロメガ粒子砲、発射っ!」
放たれた熱線は空中で枝分かれし、全ての魔物を一瞬で焼き尽くした。
そして、ハーミット領の中で一際大きい建物の時計塔の上の方も一緒に消し飛んでしまった。
『……なんとか補正したんですが、しきれませんでした』
いつまでたっても、どれだけ強い力を手にしても私は私、という事だろう。
なんだか悲しくなったけれど、一つ希望も持つ事が出来た。
どれだけ力を手にしても、どんな悲しみを経験しても、デュクシはデュクシ。
そう、馬鹿は馬鹿のままだろう。
崩れる事なく、熱線でどろりととろけただけの時計塔を見て、思った。
「きっと被害は……最小限、ですよね?」
「さすがにそれはちょっと自分を正当化しすぎじゃないですか~?」
サヴィちゃんの一言が胸に突き刺さる。
……はぁ、姫やステラの胸に飛び込んで癒してもらいたい……。
どちらも薄めだけどそれがまたいいのだ。
どんなに真面目にやっていてもナーリアはナーリアなのです。
だとしたらデュクシはどの程度デュクシで居るのでしょう?





