魔王様と少女の秘密。
「本当にこんな所にヒールニントがいるの?」
メアがそう言う気持ちもわかる。ここは……どうもおかしい。
普通の森だと思ったが、全く普通の状態じゃない。
「いったいここで何があったのかしら……ヒールニントはどこ!? あの子は無事なの!?」
森は荒れ放題で、木々はあちこちなぎ倒されているし、まるでここでかなりの実力者同士が一戦交えた後のようだった。
「あれ、メアさん? それにセスティさんまで……」
俺達の背後方面からひょっこり顔を出したのは……勿論ヒールニントだ。
「ヒールニント! よかった。無事だったのね!」
メアは彼女に飛びついて頭をわしゃわしゃやりながら目に涙を溜めている。
余程心配だったらしい。
「何も言わずに出て行くなんて酷いじゃない!」
「あー、ごめんなさい。でもどうしてここが? ……あ、そうか人探しとかできるんでしたっけ」
ヒールニントがチラリとこちらを見る。
「ああ、それにしても……ここで何があったんだ?」
「さあ? 私が来た時にはこんな感じだったので……何があったのか分からないんですよ」
ヒールニントはそう言って苦笑い。
「まぁいい、こんな所早めに離れた方がいいだろう。メア、どうする? ニポポンに行く前に一度王国に戻るか?」
「えっ、お二人はこれからニポポンへ行くんですか?」
ヒールニントがメアにくしゃくしゃにされた髪の毛を手櫛で治しながら問いかけて来たので、そうだと答えると、どうやら彼女も行きたいらしい。
「この前は結局すぐに帰ってきちゃったのでニポポン観光ちゃんとしたいです♪」
「そう? ヒールニントがそういうなら一緒に行きましょう♪ ね、いいでしょう?」
メアは当たり前のようにオッケーするが、別に遊びに行く訳じゃないんだけどな……。
でもどうせカエル絡みの話だし大丈夫かな?
「うーん、まぁいいか。その代わり万が一の時はちゃんとメアが守れよ?」
「やった♪ これで一緒に行けるわねヒールニント! おにいちゃんありがとう!」
その言葉を聞いたヒールニントが目をくわっと開いて、俺の方を凝視してくる。
ちょっと怖い。
「え、お二人ってそういう関係でしたっけ……? 違いますよね? まさかメアさんにおにぃちゃんって呼ばせてるんですか……?」
「待て、それはなんだか物凄く語弊があるぞ! 別に俺が呼ばせてる訳じゃ……」
「おにぃちゃんはおにぃちゃんよ。ママが一緒だからね♪」
ヒールニントの凝視は止まらない。
「あのな、俺の母親がメアを娘として認めてるし、立場上こいつは俺の妹って事になるわけよ」
「……なるほど、それでおにぃちゃんって呼ばせてるんですね」
「違うって! こいつが勝手に……!」
「もしかして嫌だったの……?」
「い、いや……そういう訳では……」
『ぷっ! あははははっ!! もうダメ。ずっと我慢してたけどアンタら面白過ぎますわ。ほんとどうでもいい事でよくそこまで面白おかしな会話が出来ますわね!』
「なんかメアさんから変な声が聞こえる!!」
『変とは何ですの!? わたくしこれでもロゼリアの姫ですのよ!?』
「……えっ」
ヒールニントが固まる。
『このド平民がっ! わたくしとの身分の違いにやっと気付きましたの? 分かったのならば崇め奉りなさい! おーほっほっほ!』
「ロザリアって……昔からそういう所あるわよね」
『貴女に言われたくないわこの残念魔女!』
「なんですってーっ!?」
なんだこの地獄は……。
「お前らいい加減にしろよ……」
『あんたもよ! 男の癖にわたくしの体を使ってるなんて……きっとわたくしの体を毎晩慰み物にしてるんですわ! この野蛮人!』
「なっ、お前なぁ……マリスの中に居たんだったら昔から俺の事見てるだろうが。俺がいつそんな事したよ!」
『あんたがしなくてもあんたの妹がするでしょうが!!』
「うっ……」
なんも反論できねぇ……。
「あ、あの……何がどうなってるんですか? 頭がパンクしそうなんですけど……」
ヒールニントがとうとう音を上げたので、いろいろ彼女が知らないうちに起きた事などを説明した。
「……へぇ、そんな事があったんですね。それでメアさんの中にロザリア姫が……そうですか……」
ヒールニントは不思議そうに小首を傾げながらメアの頭からつま先まで視線を這わせる。
「な、何よ?」
「いえ、こうなってくるとメアさんもお姫様みたいなものなんじゃないかって思って」
「そんな訳ないでしょ?」
『いえ、貴女は元々私の身体の中から発生した物なんでしょう? 貴女も元はわたくしの一部、ある意味ではローゼリアの姫とも言えますわね』
「えっ、ロザリアまで何を言い出すのよ!」
『むしろ形は以前と違うけれど、こうやって一つに戻ったこの状態こそが完全なお姫様という可能性までありますわね』
なんだその複雑怪奇な姫システムは……。
「じゃあやっぱりメアさんもお姫様?」
『わたくしが一体化している以上この身体が姫ですわよ! そして中身がどこかのおっさんの時点でそこの魔王はただのド平民ですわ!』
「いや、ド平民じゃなくて魔王だってば」
『ハッ! わたくし姫でありながら体は魔王をやっていますのね。そう考えるとわたくしが最強なのでは? メアだって元魔王なわけですし!』
ロザリアが加わっただけで急にカオスさが増した。
ヒールニントはそんな俺達を見て口を押え笑いを堪えている。
そう言えばロンザとコーべニアって奴はどうしたんだ?
ヒールニントはこんな所で何をしていたのでしょう?(;´∀`)
次回より本格的にカエル編開始です!





