魔王様とヤマタノオロチ。
こいつの攻撃自体はそこまで脅威ではない。
他にも攻撃手段を持っている事を考えると油断はできないが、今の所大したことはない。
いっそオロチを追い出してあの水晶玉みたいなのに閉じ込めてしまう方が確実な気さえしてくる。
『貴様……今何を考えた?』
先程ショコラが耳に息を吹きかけて来た時とは明らかに異質の悪寒が走った。
「馬鹿野郎、殺気出し過ぎだ。そもそもお前まで俺の心を読むな」
『我にそのような能力は無い。ただ、なんとなく我を軽んじるような事を考えているような気がしたのだ』
なんだその超感覚は……。こいつらそんな事を察知するセンサーも特級品に作られてるのか?
「大丈夫だって。仮にさっきはそう思ったかもしれないがただの冗談だ。お前を追い出す事にメリットなんかねぇよ」
『ふん。分かればいい……だが、ここらで我の力を示しておくのも悪くはないな』
……おいおい。まさかこいつ。
『こいつも星降りの民が手を回しているのであろう? ならばギリギリ許容範囲だ』
「……いいのか?」
『今回は特別だ』
「お前、暇なだけだろ」
『まぁ、退屈ではあるな』
そう言ってオロチは『クククッ』と太い声で笑う。
「いいぜ、お前のそういう所嫌いじゃねぇよ」
『我も貴様の何も考えてなさそうな所は嫌いではない』
褒めてねぇなこいつ。
「じゃあお前の力を貸してくれ」
『我の首二本分だけな』
ケチくせえ! っていうか首いくつ分かを調整できるのかよ!!
まあいい。それより、オロチの力ってのに興味がある。
「じゃあ神憑り頼むぞ!」
『ほんげぇぇぇぇ!?』
俺の中からチャコが弾き出されて吹き飛ぶ。
俺はチャコの力を失い、地面へ落下していく。
しかしそんな事よりも問題がある。
俺の身体が今、物凄く重い。体の自由が、奪われて行くような感覚だ。
『まさかこの程度を扱えないとは言わないであろうな?』
「あ、当たり前だろう? じゃあ見せてもうらぜ!」
本当は結構しんどい。
体ずっしりしてどんどんエネルギーを持っていかれる感覚。
しかしそれもゆっくりと馴染んでいく。
これなら、行けるか?
ずどん!
「いでっ」
『貴様……落下している最中だと言う事を忘れたのか?』
オロチとの神憑りが完了し、俺の身体には尋常ではない力が溢れ出す。
「ははっ、お前すげぇな……」
『ふん、貴様こそ。我の力を借りて無事でいた者は居ない。大したものだ』
褒められても嬉しくねぇな。
俺がアーティファクトと同化する前の普通の人間だったのならもう死んでるんだろう。考えるだけで気が滅入る。
『しかし貴様では力を得てもアレを倒すのは難しかろう。大事な事を見逃しているからな』
「大事な事だと……?」
『しばしその身体を借りるぞ』
うぇ? 反論するまでもなく俺は指一本動かせなくなる。
『宿主の身体を無理矢理動かすのは短時間しか出来ぬし、反動が大きいが……まぁ、勉強代だと思って諦めろ』
反動ってなんだよ怖すぎるんだが……。
一時的に、らしいが俺の身体は完全にオロチに乗っ取られてしまう。
ほぼ転移と変わらぬくらいのスピードで物理的にガーゴゴイルの前まで移動。
ショコラが奴と戦っていてくれたらしいがお互いほとんどダメージは与えられていない。
「おにぃちゃん……? 少し見ない間に獣臭くなったね」
『この女……相変わらず気に入らぬ。しかしそこまで鼻が利くのならばなぜ気付かなかった?』
「……?」
俺もショコラも頭に疑問符が浮かぶが、目に見えてガーゴゴイルが狼狽する。
「「貴様……何者だ!? 先ほどの奴とは違うな」」
『……それは我に話しかけているのか? 愚かな……気軽に声をかけていい相手かどうかの判断も出来ぬのか。早々に死ぬがよい』
オロチは奴に掌を翳す。それだけでガーゴゴイルは口をパクパクさせて泡を吹き始めた。
どういう原理だよ見えない力的な?
『馬鹿め。貴様なら目を凝らせば見えるであろう。力の使い方を教えてやるからよく見ておくがいい』
目を凝らす……? 集中してみると、うっすら何かが見えてくる。
これは……オロチの首だ。不可視にカモフラージュした上でその首に噛みついている。
見えていないから攻撃が通った?
でもさっきの俺の攻撃だって見えて無かった筈だ。
『貴様らは一人見落としているのだ』
オロチはもう片方の手を何も無いところへ向け、再び首を放つ。
すると……。
ばぎゃん!!
空間に大きな亀裂が入り、真っ黒な空間が現れ、オロチはその中に潜んでいたもう一体を引きずり出す。
『こやつらは二体で一つ、ではなく三体で一つなのだ。こいつに見られていたから攻撃が通らなかった。これに気付ければ女の剣で空間を切り裂きこやつを仕留める事も可能であっただろう』
いや、そんなの気付かねぇって。
めりにゃんの魔法は突然上空から降って来たからこの三人目が見落としたのか。
気付く為のヒントはあったのかもしれないが……。
「はらたつー!」
ショコラはよっぽど悔しかったのか空中で足をバタバタさせた。
『このような者どもカラクリが分れば相手にもならん』
「「「ば、ばって……だ、だすげ」」」
オロチが俺の体を操り掌をぐっと握りこむ。
それだけでガーゴゴイルともう一体は粉みじんになってはじけ飛んだ。
『下等な生き物だけあって散り際も醜く汚いな』
完全な状態のオロチがここまでヤバい奴だったとは。
つくづく出会った時こいつが封印されていて良かった。
オロチさんも退屈で我慢できなくなってしまったのでした(笑)
これで首二本。全ての力を開放したらどうなってしまうのでしょう。
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