魔王様の素敵な奥様。
ディレクシアの復興はほぼ一か月程度で終わった。
本当にアレクの言った通り、ひと月以内にある程度終了できたのは良かったが、住める場所が復活しただけでは完全な復興とは言えない。
物資だ。
飲食店、食材店、武器防具屋、その他諸々の備蓄が無ければいくら国が綺麗に整備されても人は生きていけない。
ディレクシア王……これは後で説明するが、とにかく王とプルットが契約を交わし、俺達が物資の移動を全て担う形で必要な物をどんどん王都へ運び込み、なんとか人々は普通の生活を送る事が出来るようになった。
ここに至るまでにはトータルで二か月近くかかってしまったが、普通に考えたらこれは尋常ではない速さだっただろう。
そして、あの戦いの後ディレクシア王は……。
「あ、えっと……その、本当に助かりました。民を代表してお礼を言わせて下さい」
「別に無理に敬語なんか使わなくていいぞ。お前はもう……この国の王なんだからよ」
「そうだぞ。もう少し王らしい態度という物を勉強した方がいいな」
「大叔父様……そんな事言われても……まだ私は一般人の感覚が抜けませんよ」
そう、あの戦いの後ディレクシア王は引退を表明した。
国民には王直々に、新たな王としてレオナを据える。彼女は兄の血縁の者だと伝えた。
困惑する者も多かったが、先代の血縁だった事と、王が先の戦いにて負傷したという噂が広まっていたので代替わりも止む無しという空気になっていた。
しかも、引退といえど彼はまだまだ元気なので、裏方に回りレオナのサポートに入るとの事である。
確かにこのどさくさで代替わりさせてしまい、この復興の速さなどもレオナの手柄にしてしまえば民からの受け入れも容易くなるだろう。
ほんとに抜け目のない奴だ。
勿論王から依頼され、俺達はレオナとの協力関係を結び、彼女からの要請で救援に来た、という事にした。
もともと俺達の国にレオナが来ていたのも彼女が俺達の国と友好を深める為の視察期間だったという事にされていた。
いつからこの流れを考えていたのだろうか?
繰り返すが本当に抜け目のない奴だ。
ちなみに、ずっとディレクシア王とか王としか呼んでいなかったので彼の名前を気にした事が無かったが、王でなくなった以上そういう訳にもいかないし直接聞くのはあまりに失礼なのでテロアに確認してみた。
彼の名前はリレイディオというらしい。通称リオ、だそうだ。
今後呼ぶ事があるかどうかはさておき、いざという時の為に一応記憶に刻んでおこう。
とにかく……だ。
やっとこれで一息つく事が出来る。
サクラコやヒールニントと相談した結果、結局リンシャオの最期についてはメアに黙っておくことにした。
ヒールニントもある意味責任を感じてしまっていて、「あの時私が気を失ったりしなければ……」と悔いていたが、恐らくいくらヒールニントだろうとあれほど深い傷を瞬間的に刻まれたら助ける事は出来なかったのではないかと俺は思っている。
「セスティ、ちょっといいかのう?」
「ん、めりにゃんか……どうした?」
「どうかせんと旦那の隣に行く事も許されんのか?」
めりにゃんはそう言ってくすくすと笑った。
「そんな訳ないだろ? ほら、こっちきて座れよ」
俺は自室のソファに腰かけていたので、小さなテーブルを挟んだ向かい側を指さしたのだが……。
「じゃあお言葉に甘えるとするかのう」
「……あの、めりにゃん?」
「なんじゃ文句あるのか?」
「……いや、無いけど……」
めりにゃんは俺の膝の上にちょこんと座ってどこうとしない。
自分からそこに座っておいてバランスが悪いのか小刻みに左右に揺れているので後ろからお腹に手を回して固定してやる。
「なっ、ず、随分積極的じゃのう?」
いや、こんなとこに座っておいてそれはないでしょうよ。
「で、何か話があるんじゃないか?」
「いんや」
「いんや?」
「特に話などないのじゃ」
何それ。じゃあこの子いったい何しにこんな所にきたの? ほんとに用もなくここに座りたかっただけ?
尻尾とか羽根とかがぴこぴこしてて可愛いけどさ。
「あれからセスティが随分と辛そうじゃから慰めにきたんじゃよ」
「俺が……辛そう?」
「はぁ……自覚しとらんのか? みんな心配しとるぞ? まだメアの方がマシな面をしておるぞ?」
そんなにか……?
「何かあったんじゃろう? ほれ、奥さんに話してみい」
「奥さん……か、そうだよな。めりにゃんに隠し事はできないな」
「そうじゃろうそうじゃろう♪ ほれ、抱えてる物を吐き出してみるのじゃ」
めりにゃんは膝に乗っかったままくるりと体の向きを変え、なんだか俺の身体に馬乗りになってるような姿勢になった。
「うっ……」
「なんじゃその反応は。こんな可愛い奥さんが頑張って体を張ってるというのに」
「む、無理にそんな事しなくても……」
「馬鹿者。こうしたいからしておるんじゃ。顔を見ながらじゃ言いにくいというならこれでどうじゃ?」
膝に馬乗りになった状態でめりにゃんが俺に抱き着いてきた。
小柄な身体が少し震えている。
「……じゃあ、少し聞いてもらえるかな?」
俺はあの日、何があったのか、そして俺が何を感じ何を思ったのかを全部吐き出した。
静かに語っているつもりだったのに、めりにゃんがあまりに優しく俺の頭を撫でながら「辛かったのう」なんて言うもんだから、最後の方は顔面ぐしゃぐしゃになってしまった。
「悩みも辛い事も……抱え込まずにちゃんと儂には言うのじゃ。だって……儂等は夫婦なのじゃから。儂にもお主を支えさせておくれ」
俺は加減も忘れてめりにゃんをきつく抱きしめ、その優しさに甘えてしまった。
お読み下さりありがとうございます。
めりにゃんのばぶみ全開の回でした。魔王の妻たる者こうでなくてはいけませんね。
セスティが唯一自分の弱さをさらけ出して泣きつける相手なのです。
次回からまた状況が動き始めますので引き続きよろしくお願いします♪





