魔王様は分かりやすく顔に出る。
めりにゃんだけは空中で待機してもらい、俺達はそれぞれバラけるように魔導兵装と相対する。
奴等の基本的な攻撃は真っ黒な剣による物なので、攻撃自体はさほど怖くない。
その剣には魔力が通っているらしく魔法剣みたいになっているのでくらうとそれなりのダメージがありそうだが、うちの仲間達が不覚を取る事はないだろう。
俺は直接攻撃する訳にはいかないので基本的に飛びついて一人ずつ魔導兵装をバリバリと引きはがし、視界の隅でメアも同じようにやっていた。
引きずり出された人間はめりにゃんが随時空中から吸い上げて城へ転送している。
人間が空中へ吸い上げられていく姿はなんだか不思議で、どんな魔法を使っているのか気になる所だ。
奴等の兵装には魔法を弾く処理が施されているらしく、生半可な魔法攻撃は通用しないし、
逆に通用するレベルの魔法を使ってしまうと中身が死んでしまう。
俺やメアにとっては本当に戦いにくい相手だ。
ショコラやサクラコは器用に兵装の繋ぎ目部分を破壊し、まず機能しなくしていく。
中身を引きずり出すのは後でも大丈夫という判断だろう。
ライゴスやロピアはとにかく相手を殴り倒してから一体ずつ引きずり出していた。
思い切り殴れるだけマシかもしれねぇな……。
俺が数人兵装から中の人間を引きずり出してみたところ、意識のある奴は居なかった。
やはりただの動力源として使われているだけで、自走式らしい。
だとしたらこれ一体一体に王都を攻め込む命令が組み込まれているのだろうか……?
もしかしたらだが、どこかからまとめてこいつらを操る命令を飛ばしている奴がいるのかもしれない。
操るとしたらどうやって?
「めりにゃん!」
俺は頭上で戦場を見渡しているめりにゃんに声をかけるが、どうにも魔導兵装のガチャガチャいう音が大きすぎて届かないようだ。
仕方ないので通信機を取り出すが、それもジャミングされているようで繋がらない。
この状況で連絡とりにくいのは面倒だな……。
「あだすに任せるだべ」
「うわぁっ! チャコか!? お前今までどこに居た!?」
てっきり城で待機してるもんだとばかり思ってたが……。
「ずっとだーりんの背中にくっついていたべさ」
「そうだったのか? 全然重さは感じなかったけど……」
「レディは重さを超越するんだべ」
どういう理屈だよ。しかし気付かない程重さを感じないというのは流石に何かやってたんだろう。
「あだすは自分の身体を変化させることができるべ。変化した物と同じ質量と重さになるべさ」
なるほど。葉っぱに変化したら葉っぱ程度の重さしかなくなるって事かすげぇな。
「って、それはどうでもいい。任せろっていうのはどういう意味だ?」
「だーりん、神憑りをやってみないべか?」
神憑り……? 確かそれは……。
「かなり負担がかかるってやつじゃなかったか? さすがに今無駄に消耗するわけには……」
「それはヤマタノオロチの話だべ。あだす程度と神憑りするなら普通の人間でも酷い筋肉痛になる程度だべさ。だーりんならなんの問題もないべ♪」
……それなら一度試しておくのも悪くないな。
「今役に立つ事だって思っていいんだな?」
「勿論だべ♪」
「よし、じゃあ頼むよ」
「あぁ、これでやっと一つになれるべな~♪」
ちょっとその初夜みたいな言い方辞めて。
「少しくすぐったいかもだけんども我慢してくんろ」
そう言うとチャコがぐにゃ~っと液体のような姿になり、俺の口の中へ突入して来た。
「むぐっ!? むぐぐ……っぷはぁっ!! びっくりしたぁ……」
『これでだーりんはあだすを好きに出来るようになったべ……♪』
だからその言い方辞めてってば。
『初めての共同作業だべな♪』
「お、おう……」
もういいや。それに……そんな事よりもこの湧き上がるような力はなんだ?
魔力とは少し違う。活力というか、なんだろう。身体がとても軽い。
体の周りがぼんやりした光に包まれている。
「すごいな。力が湧いてくるよ。……で、この状態だと何ができるんだ?」
『体の一部、もしくは全てを思った通りの形に変化させて思うように動かせるべさ』
「なるほど……つまり、この場合だと……」
俺はめりにゃんの背中についている可愛らしいぴこぴこした羽根を連想する。
というより、羽根を思い浮かべたらアレになってしまっただけなのだが、とにかく俺の背中からにゅにゅっと羽根が生えた。
「おお、こりゃすげぇ……でも小っちゃすぎたか? これで飛べるかな……」
『形はただのイメージだべ。それによってどんな効果を得たいかっていうのは限界はあるけんどもある程度イメージ通りに働くはずだべさ』
……俺は試しにその場にふわりと浮き上がってみる。
地面から足が離れた。羽根で羽ばたいてはいるものの、それによる体のブレなんかは全く感じない。ふわりと浮き上がっているだけだ。
「うん、こりゃあいい」
試運転も兼ねて俺はめりにゃんの所まで飛んだ。
思ったよりもスピードも出せるしこれはかなり便利だぞ。
「めりにゃん!」
「な、なんじゃぁ!? セスティ、その羽根はいったいどうした事じゃ!?」
空を飛んで現れた俺にめりにゃんはかなり驚いていた。しかし細かく説明する時間は無い。
「あぁ、ニポポンで見つけてきた荒神に手伝ってもらってんだよ。ってそれより、少し調べてほしい事があるんだ」
「お主どんどん訳の分からない事になっていくのう……顔に変な模様もあるし……それで、何を調べるんじゃ?」
変な模様っていうのが気になったがとりあえず要件を伝える事にした。
「魔導兵装を操ってる場所がどこかにあるかもしれない。もし魔力による連結ならあいつらから魔力を辿って場所を絞り込めないか?」
「ふむ……? それは……そうじゃな。いけるかもしれんぞ」
めりにゃんは眼下の魔導兵装たちを睨みつけてニヤリと笑った。





